第18話 じゃあ行こう!そうしましょう!

「・・・よーし、今日はこれまでー。明日からは通常授業だけど、いきなり日本史の教科書を忘れたなどという大ボケをかますんじゃあないぞー。そういうアホな奴は朝から御仕置きだあ!」

 飯田先生が甲高い声でショートホームルーム終了を宣言すると、たちまち教室の空気が緩んだ。

 今日の飯田先生は非常に機嫌がよろしい。内容は相当過激だけど顔は笑ってるし、声にも全然緊張感が無い。その理由は至って簡単、今季のタイガースは開幕から絶好調!しかも現在連勝中で首位を走っているからだ。そのお陰で2年A組は平和な日々・・・まあ、まだ2日目だから平和な日々というのは語弊があるかもしれないけど。それに、去年もタイガースは序盤は好調だったけど後半失速したからなあ・・・

 あー、そうそう、今夜は試合があるけど、勝って連勝を伸ばしたら仮に明日は教科書を忘れても『次からは気をつけようね』の一言でアッサリ終わる(これは間違いない。去年の授業がそうだったから)が・・・仮に負けて連勝がストップしたら朝から不機嫌そのものだ。日本史の教科書を忘れたどころか事前課題をやってないとなれば、奈緒虎節を全開にして公開説教をやりかねない!

 えっ?だから今でも独身なのかって?それは・・・僕の口からは言えません、ハイ。


 今日は特別時間割なので、2年生・3年生は午前のホームルームと生徒会主催の新入生歓迎オリエンテーション、帰りのショートホームルームまでが義務だ。いわゆる半日授業なのだ。

 このまま下校してもいいし、部や同好会活動に入ってもいい。でも、ここでお昼ご飯を食べるのは極々当たり前のことである。

 午後は部・同好会合同説明会があるから、1年生は参加義務があるけど、2年生、3年生は見学するのは自由だけど義務は生徒会メンバーと発表メンバーだけだ。もっとも、発表メンバーは自分の担当が終われば解放されるよ。

 姉さんは帰りのショートホームルームが終わると同時に立ち上がって教室を出て行った。いや、姉さんだけでなく朝倉さんも南城さんも同じで、合同説明会の準備、いや、正しくはリハーサルをやるつもりなのだ。姉さんには申し訳ないけど、明らかにのは僕の目でも明らかなのだから。

 たしかA組で実際に発表をする人は姉さんたちを含め数人しかいなかった筈だ。でも姉さんたちのように必至にならざるを得ない部や同好会に所属しているではないから、普通にお昼ご飯を食べてから動き出すつもりでいる。それに、半分以上の連中はお昼休みが終わったら普通通りに部や同好会活動にいくけど、発表会に参加しなければノンビリムードが漂うのも無理ない。クラスの連中は次々と席を立って、もう半分以上の生徒は教室に残っていない状況だ。

「・・・雄介くーん」

 美咲さんが鞄を持って僕の席に来て話しかけてきたけど、鞄を持っているという事は帰る気満々のようで、まあ、2年A組の数少ない帰宅部の一人だから当たり前か(僕も帰宅部ですー)。

「はーい」

「この後はどうする?」

「姉さんが終わるまでは残るよー」

「あらあらー、やっぱり愛美さんの晴れ姿を見ていくの?」

「そのつもりだよー」

「翔真君は『愛美さんが終わるまで帰る気が無い』とか言ってるし、阿良々木君は阿良々木君で『咲耶さくや先輩が終わるまで帰る気が無い」とか言ってるから、3人とも何だかんだで普段の下校と変わらない時間まで学校にいるって事だよねえ」

「そうだよー」

「はーーー、仕方ないから一人で帰りますー」

「あれっ?美咲さんは興味ないの?」

「あー、ゴメンゴメン、わたしはからー」

「まあ、たしかに翔真はともかく阿良々木はけど、あの分野の事はちんぷんかんぷんだからね」

「それじゃあ、また明日ねー」

 そう言うと美咲さんは右手を振って「ばいばーい」と言いながら教室を出て行ったから、僕も右手を振って「ばいばーい」と返事をした。


”ツンツン”


 あれっ?誰かが僕の背中をツンツンしている?

 僕は後ろを振り向いたけど、そこには綾香ちゃんがニコニコ顔で僕をツンツンしていた。

「ユーちゃーん、結構アツアツですねえ❤」

「あのさあー、まさかとは思うけど・・・」

「もしかして、永谷さんはユーちゃんのカノジョですかあ?」

 綾香ちゃんはニコニコ顔の上、声のトーンまで上ずっている!おいおい、どう考えても勘違いしてるとしか思えないんだけど・・・僕は思わず「はあああーーー」とため息をついてしまった。

「あのさあ、それは美咲さんに失礼だぞ!」

「あれっ?違うの?」

「当たり前です。姉さんから聞いてない?」

「へっ?何を?」

「雀荘永谷の件」

「ジャンソーナガヤ?何だそりゃあ?」

「はーー・・・まあいいけど、それじゃあ勘違いするのも無理ないね」

「という事はー、永谷さんはユーちゃんのカノジョでも何でもないという事で間違いない?」

「そういう事。綾香ちゃんがロンドンの金髪美少女を紹介してくれるというなら大歓迎だけど」

「いいよー。EmilyエミリーAliceアリスも日本のアニメ好きが高じて本気で日本に来たがってるから、恐らく飛びついてくるよー」

「おー、それはいいねえ」

「ユーちゃーん、本気でLondonロンドンの金髪美少女と遠距離恋愛してみたいなら止めないけど、飛行機代は自分で払ってよー」

「冗談に決まってる。僕の小遣いでどうにかなるレベルを超えているからな」

「だよねー」

 そう言い合うと僕と綾香ちゃんは互いに笑い合ったけど、綾香ちゃんの笑い方は昔と全然変わってなく懐かしい笑い方でもある。ある意味、心が和みます、ハイ。

「ところでユーちゃんは説明会に行くの?」

「行くよー」

「お昼はどうする?」

「ん?食堂で食べるけど・・・」

「じゃあ、ボクも行く。ユーちゃんと食べる」

「いいねえ」

「じゃあ、行こう!」

「そうしましょう!」

 僕と綾香ちゃんはほぼ同時に立ち上がると鞄を持って教室を出た。僕と綾香ちゃんが並ぶような形で教室を出る時、クラスに残っていた男子が怒号を上げたようにも感じたけど、もう教室から出てしまったらから何を言ってるのか全然分かりませーん。

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