第11話 幼馴染のイメージ

「ハイハイ、姉さんにはそう言っておきますよ」

 僕と翔真しょうまが会話をしている間にも4人の手は止まってなかったが、雄介が『俺は龍潭寺りょうたんじさんより香澄かすみさんの方が好みだ』と言った時の顔は真剣で、僕は思わず笑ってしまったほどだ。

「・・・ゆーすけー」

「ん?・・・翔真、どうした?」

 僕はまだ一向聴イーシャンテンだから他家の動きにも注意しつつ集中を維持したいが、その僕の集中を削ぐかのように翔真が再び喋り出した。

「・・・雄介にとって、『幼馴染おさななじみ』という言葉が持つイメージとは何だ?」

「へ?・・・幼馴染?」

「そう、幼馴染。もうちょっと具体的に言えば、幼馴染の女の子に対して持っているイメージというか印象というか、つまり、雄介が持っている幼馴染キャラのイメージは何だ?」

「幼馴染のイメージ・・・」

 僕は美咲みさきさんが『一萬イーワン』を捨てた後、自分のツモをする訳でもなく考え込んでしまった。いや、美咲さんは「『ポン』にするのか『チー』にするのか迷ってるのかな?」と思ってるかもしれないけど、翔真が言った言葉にどう答えればいいのか自分でも分からなかったのだ。

 でも、こんなところでギャグを言ったところで意味はないし、かといって、10年前の綾香あやかちゃんに対して持っていたイメージは昨日の段階で全部吹き飛んでしまったし・・・でも、翔真は綾香ちゃんに対するイメージを聞いてる訳ではない。だとすれば、普通に僕が思っている『幼馴染キャラ』を素直に言うのが無難だな。

 僕は右手で牌をツモったけど『一索イーソー』をすぐに切った。僕の手牌には索子ソーズ牌が1枚もないから、絶対に使い道が無い。

「・・・ま、強いてあげるなら『唯一無二の絶対的な存在』だね」

「「「『唯一無二の絶対的な存在』?なんだそりゃあ!?」」」

 僕の答えに翔真と阿良々木あららぎ、美咲さんが顔を互いに見合わせてハモったから思わず僕は首を傾げてしまったけど、そんなに僕の答えが意表をついたのかなあ。僕は翔真の質問に正しく答えたつもりだぞ!?

「・・・僕から言わせてもらえれば、幼馴染は『正義と博愛の象徴』『一途な思いの持ち主』『強さとはかなさが同居』とでも言おうか、とにかく正統派のヒロインにピッタリの存在であり、あえて奇を照らしてなく、普通に寄り添ってくれて、いざという時に頼りになって、可愛くて、心優しい存在で、守るべき存在であって、まさに唯一無二の絶対的存在に相応しい・・・って、翔真も阿良々木も美咲さんもどうしたんだあ!?」

 僕は自分の考えを正直に言ったけど、どういう事か知らないけど、3人とも『はあああーーー・・・』と長ーいため息をついたかと思ったら、揃いも揃って右手をおでこに当てて考え込んでる!?何があったんだあ!?

「・・・雄介くーん、君はホントに幸せ者ですねえ」

「オレもそう思うぞー」

「同感だな。雄介はホントに平和ボケしているというか、呑気と言うか・・・」

「雄介君は天然記念物に指定されてもおかしくないと思うけどなー」

「あー、それはオレも思った」

「だよなあ、俺は本気で雄介の頭の中を覗いてみたいぞー」

「10年後の翔真君なら本当にやりかねないねー」

「オレも10年後の翔真なら居眠りしながらでもやりかねないと思うぞー」

「おいおい、俺は医者になる気はないぞー」

「翔真君なら医者になっても全然おかしくないよー」

「オレもそう思うぞー」

「勘弁してくれよお、そんな事を言ってたから俺はぞー」

「「「どうせいつもの事だ!」」」

「う、うっせー!雄介と同類にするな!」

 おいおい、人の事を天然記念物だとか平和ボケとか言ってるけど、何をもってして僕が天然記念物なんだ?どこもおかしい事は無いはずなんだけど・・・


「ただいまー」

「おかえりー」

 さすがに今日は半荘ハンチャン3回が限界だった。時間が来たら強制終了なのは美咲さんのお父さんとの約束だし、高校生で、しかもタダで全自動麻雀卓を使わせてもらっているのだから贅沢は言えない。因みに今日の成績は・・・自慢できないので伏せておきます、ハイ。

 僕が帰ってきた時、家の中には姉さんしかいなかった。耕平がいないという事は父さんも母さんも帰ってきてなく、どちらかのお婆ちゃんと一緒にいるという事だ。

「・・・姉さん、夕飯は?」

「まだだよー」

「出来てる?」

「バッチリ!」

「じゃあ、着替えてくる」

「急いでねー」

 僕は部屋へ行ってラフな服に着替えたけど、戻ってきたときにはテーブルの上に夕飯が並べられていた。

 姉さんの本来の席は僕の横だけど、僕と姉さんの二人しかいない時は僕の正面、父さんの席に座る。それは今日も同じだ。

「今日は雄介の大好物、デミグラスハンバーグだよー」

 姉さんはニコニコ顔で料理を指差したけど、そのハンバーグは冷凍でもレトルトでもない、僕好みの合い挽き肉100%の手作りだというのは容易に想像がつく。

「いただきまーす」

 僕はいつも通り手を合わせてから食べ始めたけど、これもいつもと変わらない一コマだ。というより、手を合わせて「いただきます」を言わないと姉さんが怒るからだ。

 姉さんは僕が食べ始めたのを確認してから自分も「いただきます」と言って食べ始めたけど、これもいつもと変わらない風景だ。

 そのまましばらく互いに箸を動かしていたけど、僕はふと思い出した事があったので顔を上げた。

「・・・ところで姉さん」

「ん?どうしたの?」

 僕は箸を動かしていた右手を止めて姉さんに話しかけたから、姉さんも箸を動かしていた右手を止めた。

「昨日、綾香ちゃんと10年ぶりに会った時、姉さんは一目で綾香ちゃんだと分かったの?」

「あー、その事だけどー、うちに来る10分くらい前に電話があってね、それでアヤちゃんたちが来るって分かってたから大丈夫だったけど、もし何の情報もなく来ていたら、絶対にアヤちゃんだと気付かなかったと思うよ」

「あー、やっぱり」

「雄介がアヤちゃんだと気付かなかったのも無理ないけど、ホントに男の子みたいというか超ボーイッシュで、しかも英語がペラペラでしょ?だからヨシノンなんか『カッコいい!』とか言ってるし、女子も熱狂してるのよねえ」

「へえー、あの南城なんじょうさんがねえ」

「ヨシノンはあれでいて結構自信過剰なんだけど、『わたしの人気が下がる!』とか言って相当焦ってるよー」

「そういう姉さんはどうなの?」

「うーん、私には雄介がいるから大丈夫だよー」

「何か意味不明なんですけどお」

「気にしない、気にしない!」

 いつもの事だけど『翔真がいるから大丈夫』ってどういう意味なのー?ま、これを聞いても答えをはぐらかされるのは分かってるから聞かない事にするけど、それにしても綾香ちゃんは1日で超有名人の仲間入りかあ。なーんか凄いなあ・・・

「姉さん、ついでに、もう1つ聞いてもいい?」

「いいよー」

「綾香ちゃんは姉さんにとっても『幼馴染』になるんだけど、姉さんが持っている『幼馴染』というイメージは何?もちろん、綾香ちゃんの事を言ってるんじゃあなくて、姉さんが持っている『幼馴染』というキャラのイメージの事だけど」

「うーん・・・そこは雄介が思っている事と同じだよー」

「えー!答えになってないよお」

「私が持っている『幼馴染』のイメージと、雄介が持っている『幼馴染』のイメージは同じだよ。これ以上の答えは無いと思うけどー」

「そうなの?」

「そうだよ」

「なーんか、答えをはぐらかされたような・・・」

「気にしない、気にしない!」

 姉さんは僕が聞きたかった事の答えを言う訳でもなく、サラッと流されてしまったけど、『僕が考えている事は間違っていないよ』と言いたかったんだろうな。姉さんなりの心遣いだと解釈しておこう。

「・・・そういえばさあ、ゆーすけー」

「ん?」

「学校から帰ってからさあ、朝とは別のセブンシックスを5店も頑張って梯子したのに、結局『モーニングお嬢様。』限定グッズを貰えなかったんだよ!ぷんぷーん!!」

「はいはい、そりゃどーも」

「あのテレビの占い、今日に限っては全然当たってないわよ!こうなったからにはテレビ局に責任を取ってもらって、明日からは別のチャンネルに変えようかと思うけど、雄介はどう思う?」

「その必要はないと思うよ」

「はあ!?あんたさあ、テレビ局の回し者?」

「そんな事はないよ。ただ単に、占いに一喜一憂してたら身が持たないだけだからさ」

「雄介はホントに呑気だねえ。そんな性格でよく今までやってこられてわね」

「そうでもないよ。姉さんと僕とではだけだよ」

「えっ?ゆーすけー、それってどういう意味?」

「言った通りの事だよ」

「ますます意味不明なんですけどお」

「まあまあ、気にしない気にしない」

「?????」

 姉さんは頭の上に『?』が2つも3つもあるような表情で首を傾げながら僕を見てるけど、恐らく僕は相当ニコニコ顔だったんじゃあないかなあ。

 そう、僕の場合、今日の占いは当たっている・・・綾香ちゃんと同じクラスになれたんだから。しかも綾香ちゃんは僕の隣の席なのだから、まさに占いとおりの結果になったのだ。

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