第19話 一途な想い
「──帰ったぞ」
ギルドで精算、報告と情報収集を終えた俺は、自分の店に戻った。
出入り口の扉を開けると、中ではメイド服に身を包んだ少女が、ふらつく足で立ちながらも懸命に窓を磨いていた。
「お、おかえりなさい! あの、ロキさんは!?」
シャルは掃除の手を止めると、足を引きずりながら、真っ先に俺達の元へと寄ってくる。
彼女の想いを聞いてしまったからな。それを知った後だと、中々に健気で良い子じゃないか。
シャルのその姿を見ていると、つい顔が綻んでしまうな。
「──朗報だ、シャル」
その一言だけで彼女の顔は、暗いものから雨が上がりの晴天のように、色鮮やかなものへと変わった 。
「よかったね、シャルちゃん。ロキ君、無事にダンジョンから脱出したらしいの!」
そしてシャルはそのサクラの言葉で、力が抜けたかの様にその場にへたり込んでしまう。
「よかった……本当によかったです……」っと、笑顔のまま涙を浮かべて。
「それで……ロキさんは何処にいるのですか? もしかして、怪我をしてフロントで治療を!?」
自身の想像に、彼女は慌てて見せる。
本当にコロコロと表情を変える。感情に素直でいられるのは、若いからなんだろうか?
いや、そうではないか……。
彼女にとっては、坊主がそれほどの男と言うことなのだろう。
「落ち着けシャル、そうではない。あの坊主が怪我をしたと言う報告は受けてない、だからまず大丈夫だろう」
ただ問題は、何故キルが坊主を連れているかの方だ。
キルって男は、自分勝手でワガママで、決して善意で人を助けるような男ではない……裏があるのは間違いないと思うが。
そしてその事を、どうやって彼女に伝えるかだが──。
「──えっとね。彼、マサムネさんの知り合いに救助されて、今は一緒に行動してるみたいなのよ」
──サ、サクラ!?
ま、まさかこうもあっさりネタをばらすとは……どちらにしても、誤魔化しや嘘は駄目だな。
「あぁ。坊主は俺の古い知り合いと共に居るようだ。彼らは一緒に行動してると聞いた、もしかしたらパーティーを組んでいるのかもな」
「ロキさんが……他の方と……?」
例え可能性の話だとしても、ショックだろうな。
昨日の今日で、好いている相手が自分を捨て、別の相手とパーティーを組んでいるかもしれないのだから……。
複雑そうな表情を見せ「また、ダンジョンに潜る気でいるんですかね……」っと心配そうな声を上げた。
それに対する答えを、俺は持ち合わせていない。
「すまないな、俺はその相手に嫌われていてな? こちらから連絡を取ることは出来ないんだ……」
「良いんです。彼が無事なら、私はそれで」
そう口にした、健気な彼女の作り笑いが印象に残った。
老婆心ながら……とでも言うのだろうか? そんな彼女を放って置くことができなかった──。
「──あのな、シャル! お互いに生きていれば、いつかまた再開することも……だから、あまり気を落とすな」
「大丈夫です。マサムネさんは、ロキさんと違って……優しいですね」
それだけ言うと、彼女はまた掃除に戻って行く──。
「──シャルちゃん……無理してるね」
「あぁ……やはりそうだよな?」
健気や一途も、ここまで行くと一種の病なのかもしれないな……。
そして、特効薬があの坊主と来たものだ。一筋縄には行かないだろうな。
「マサムネさん、私の友人……仲間を、よろしくお願いします」
「それを……頼まれる義理はないな」
桜の言葉に、俺は首を横に振った。当然彼女は、驚きの表情を向ける。
「しかし俺は、彼女を既に仲間と思っている。だから、君に頼まれなくてもやれることはやる」
「マサムネさん……」
自分でも、少々天の邪鬼な物言いだと思う。ただ、彼女が責任や、借りを感じてしまう……それが無性に嫌だったのだ。
「少し、格好つけすぎですよ。もしかして、私を惚れさせようとしてますか?」
「……そんな事、あるわけないだろ?」
俺達は、お互いに笑いつつも窓拭きをするシャルの背中を見守った。
彼女には怒られるかもしれないが……いつかまた坊主と再開したら、殴ってでも連れて帰らないといけないな。
そんな決意を胸に秘めて……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます