第13話 殺伐の三組

 ネロの魔術書に関してすっきり納得できたのは良かった。そしてジュドーにもその真相を伝えた。


「そっか、そーゆうことか。納得したよ。それに俺も魔法に関しては無知だし、試験勉強とかは余りしたことがないから、今から気を引き締めておかないといけないな」


「ユーリから試験勉強のコツを聞くか?」


「実力テストにむけて勉強会でもしようか」


「いいね」


「いっそのこと、ネロとロキ・リンミーと一緒に勉強するってのはどうだ? なんせ新入生代表だし」


「それいいな!」





 ロキはネロを睨んでいた。

 放課後、ロキのクラスのロキの席の前、そこにネロが立っている。


「……」


「勉強会することになった」


 ネロは無表情だった。その背後には謎の四人の生徒がおり、好奇心に満ち満ちた目でロキを見ている。


「そうか。それで、なんでここに?」


「だってお前も暇だろ?」


「暇ではあるけど、なんで俺まで?」


「ハールとお前は友達なんだろ?」


 ハールという言葉に、内心ロキは舌打ちをした。まだクラス内にはアナベル・クロムウェルがいる。アナベルは仲間意識が強い男だ。寮で同室のハール・ミッヒャーを仲間だと認識しているようなので、なぜだかけん制されているのだ。

 ハールはアナベルと勉強すればいいのに、なんて思ってしまった。

 そして若干、ネロもめんどくさそうにしている。

 さっきからネロが視線を向けない場所がある。そっちにいるのは魔導師系の集団だ。全身黒ずくめで、五名ほどがたむろしている。全員、フードやヴェールや仮面で顔を隠しているので、いまだに誰が誰だかさっぱりわからない。

 判別しているのはアナベル率いるシュライゼン組の一部くらいだ。


「いいじゃないか、勉強しようぜ。それにお前もネロも、魔法には詳しいんだろ?」


 ハールが明るく言ったが、俺とネロはビクッと体を揺らした。


「いや、なんで?」


「いや、なんで?」


 特にこのクラスでその発言はよろしくない。

 アナベル率いる正統貴族派に入るか、それとも魔導師系貴族派にはいるか、その選択を誤れば地獄が待っているのだ。

 どちらにも入らず、田舎からやってきたごくごく平凡な一生徒としてやり過ごしたいのが正直な本音なのだ。

 魔法が使えるだとか得意だとか、出どころのしれない噂を流さないでほしい。

 コネ入学のほうがよっぽどましだ。


「なんでっていうか、試験勉強では魔法の試験も重要だって聞いたからさ。俺は家庭教師から勉強教わってたから、そこんとこよくわからないんだ。ネロとロキは前の学校でも試験とか受けてたんだよな。だったら魔法の勉強のコツとかも知ってるんじゃないかなって思ったんだよ。それに新入生代表やるくらいだから頭もいいんだろ?」


 それに俺とネロは再びビクッと肩を揺らした。

 アナベルを見れない。

 こっちはコネ入学なのだ。正真正銘のコネ入学。なのにまるで主席入学のように扱われて、アナベルから目の敵にされている。絶対にされている。さすがにあいつの噂は入ってっ来ている。

 アナベル・クロムウェル。

 シュライゼン中等部の生徒会長にしてボス。

 問題を起こすなと父からめちゃくちゃ念を押されているだけに、いざこざにだけは巻き込まれるわけにはいかない。しかも魔法が使えるとか思われたら、絶対に問題を起こすなと言われている魔導師系にも目をつけられかねない。


「分かった、了解、承った。よし、さっさと場所を変えようか」


 これ以上ハールに余計なことを言われないように俺は行動に移すことにした。

 くそ、ネロのやつ。

 厄介なことになるのを見越して巻き添えにしたがったな。


「あと、魔法に関してだけど、残念ながら前の学校ではあまり魔法の授業に力を入れてなかったんだ。魔導師系と貴族系と一般市民で必須授業に違いがあったし、魔法の授業は選択科目だったけど俺もネロも選択してない。だから魔法のテストにかんしてはハールとあんまり変わらない認識しかないぜ」


「え、そうなのか?」


「そ。だから今度の実力テスト、魔法は独学でなんとかやるしかないんだ」


 それを聞いて、たいそう綺麗な顔をした生徒が言った。


「そうだったんだ。じゃあ俺が魔法の座学を少し教えようか? シュライゼン中等部での教科書とノートを持って来てある。実力テストだからそこから出るだろうし」


「お前、シュライゼン組なの?」


「ああ、自己紹介がまだだったかな。ユーリ・ローレイだ。よろしく」


 ヘリロトの貴族、シュライゼンの貴族か。いかもにという感じだ。

 うまくやっていけるか自信がない。でも、このクラスのシュライゼン組よりはだいぶまともそうだ。


「よろしく。ロキ・リンミーだ。ネロの弟だよ」


「おい、なに勝手に弟になってるんだよ。俺が弟だろ」


「お兄ちゃんは大人しくリンミー家を継げばいいんだよ」


「それはそっくりそのままお兄ちゃんにおかえしするよ」


 少しい言いあいになりそうだったが、俺とネロはすぐにそれをやめた。

 ここから早く移動しよう。


「じゃあ寮の合同談話室で」


「十五分後に」


 それだけ決めて、俺とネロはクラスからさっさと出た。

 なんにせよ、あのクラスから逃げられるのはありがたいことだ。

 最近は貴族派と魔導師派のにらみ合いが酷くなっていて、どちらにも入っていない生徒に、どっっちの味方なのかはっきりしろと強いるようになっていた。

 魔法が使えるなら魔導師系の派閥に入るようにやんわり脅され、しかし貴族として魔導師側につくのは好ましくないんじゃないかと貴族派から脅される。貴族側に着こうとしても、これで魔導師系がこのクラスを制したらお前はどんな扱いが待っているんだろうな、とか言う。

 どうやら家格の低い者たちから餌食になっているようだった。

 そろそろロキのところにお声がかかってもおかしくないのだが、なぜだかアナベルからは目の敵にされているし、魔導師系からは距離を置かれている。

 ありがたいことだか見事に浮いてしまっている。そして、視線が痛い。

 アナベルからの視線が痛い。

 もしかして、私も正統貴族派だかなんだかに入れてくださいアナベル様、とか自ら名乗り出るのを待たれているのだろうか。

 絶対にしないけど。

 いや、ここは田舎貴族の次男坊として、シュライゼンのボスである侯爵家のご令息に頭を垂れるべきだろうか。


「うーん。それは死んでも嫌だなぁ」


「なにが」


「人に頭を下げること」


「なにかやらかしたのか」


「やらかしてない」


「じゃあ頭を下げる必要なくないか」


「ないね」


「なにかやらかしても下げる必要もない気がするけど」


「ほんとそれ」


 ネロと寮の玄関で別れ、自室に戻る。


「ロキ。大丈夫だった?」


 同室のマリクがおずおずと顔を出した。

 小柄で気の弱いこの同室の生徒は、同じクラスであり魔法がちょっとだけ使える貴族だ。辺境伯の息子で、広大な領地を持ち巨大な都市を有する裕福な正統な貴族。しかし気の弱さと魔法力があることによって魔導師系に声を掛けられ、それにカチンときたアナベルに嫌味を散々に言われている。


「大丈夫。これからネロと勉強会するんだけど、お前も来るか?」


「い、いや、いいよ。僕は部屋から出ない。あ、あの、けど、夕飯は一緒に行きたいんだ。その、夕飯はそばにいてもいいかな」


「当然。夕飯までには戻るから」


「ありがと」


 今はちゃんと授業に出ているが、これからどうなるか心配である。退学しなければいいが。

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