38.謁見という名の………

─38.謁見という名の………─


《見えてきたな………なんか随分久々な感じがするよ》

《そうですね、あの時はドタバタしてましたしね……》


俺達は謁見の為にザギでバーチス指揮官達と合流しつつ帝都に向かっていた


《今回はゆっくりできるといいんだが……謁見もあるしそうはいかんか……》


門の前には護衛と思われる騎士部隊が整列していた


〜〜〜〜〜


「ザギの指揮官、バーチス殿とお見受けする。我々は今回貴殿らの護衛をすることになった第一騎士団、私は団長のフリードです。よろしく」

「バーチスだ、よろしく。……そしてこちらが」

「ギルドパーティー『スクラップアーミー』のリーダー、永一だ」

「なるほど君が……」

「俺の事を知っているのですか?」

「ああ、先の活躍なら聞いている。俺も首謀者捕縛の為にあの場には赴いたが、凄まじかったそうじゃないか」

「いえいえ、俺だけの力じゃありませんから」


俺達は門の前で軽く自己紹介をした


「さて、ここで立ち話をしていてもアレだ、続きは王宮に向かいながら話すか………」


そこでフリードさんはサセン達に気が付いたそうだ


「……とその前に何故イルグランテの騎士が居るのかだけは流石に聞いておくか」

「ああ、そうだった」


サセンが降りてきた


「騎士団長殿、お初にお目にかかります。我々はイルグランテ第五竜騎隊、諸事情により現在永一殿の拠点に滞在させてい頂いております。今回は貴国に滞在するに当たっての許可を貰いに来ました」

「ふむ……?第五だと?イルグランテの竜騎隊は第四まででは無かったのか?」

「この度我々5名により新設されました。……しかし」

「どうした?」

「もしかしたらコイツ等第五竜騎隊はイルグランテから切り捨てられた可能性が高くてな、今は俺達が保護しているんだ」

「なんだと?竜騎士は貴重な筈だぞ?………新設と言ったか、なるほどそういう事か……」


フリードさんも今ので大体の事情を察したようだ

騎士団の責任者として『新人を切り捨てる』と言う事に対して複雑そうな顔をしながら……


「……わかった、そういう事なら一緒に来てくれ、大臣に話を通そう」

「……すまない、助かる」

「なに、困った時はお互い様さ」


「さあ、王宮に向かおう。姫様達が待っている」


〜〜〜〜〜


「─顔を上げてください」


「此度のザギの活躍、お見事でした。お陰で我が国の不穏分子の一部を摘発することができました」


俺達は王宮の謁見の間にいた

しかし、国王が来るのかと身構えていたら、まさかのクリスタ姫様がご登場

そのままこの場を仕切っている


どゆこと?


「あ、あの……よろしいでしょうか?」

「はい、貴女はたしか……美崎さんでしたっけ?」


美崎さんよ……来る前までガッチガチに緊張していたじゃん

なんでこの場で挙手とかできるん?


「は、はい!あの、国王様がお見えになると思っていたのですけれど……」


どうやら俺と同じ疑問を持っていたご様子

まあ、気にはなるわな


「…父は現在、病に伏しています。その為、現在は私が父に代わり国の指揮をとっています」


国王、病気だったのか……

いや、てことは国の行く末を担う存在である姫様が(後手とはいえ)先人切って突っ込んできてたのか……

なにやってるんだ……


「そうでしたか……一日も早いご復帰をお祈りしています」

「ありがとうございます」


「しかし、貴方がたパーティー『スクラップアーミー』の活躍には目を見張る物があります。リーダーは……永一さんでしたっけ?」


俺をお呼びのようだ


「ハッ、私でごさいます」

「貴方にお願いがあるのですが……それ以前に貴方、口調が変ではありません?貴方がそういう口調が苦手そうなのは大体わかっていますから普通で構いませんよ。大臣達も構いませんね?」


んな無茶な

しかし姫様の頼みだ、仕方ない

ぶっちゃけ苦手だったしな


「いや、それは……わかった、無礼を承知で普段通りにさせてもらおう……しかし、『お願い』とは、なんでしょう?」





「貴方達の所有するあの『鉄巨獣』を我々ルーバスに譲って欲しいのです」




そう言ってきた


〜〜〜〜〜


「なるほど……」

「貴方達はアレを使い、此度の戦いで活躍できたのは重々承知しています。しかしアレはギルドパーティーが個人所有するには余りにも強力過ぎる」

「………だから軍、または国に管理させろ、とそういう事か……」

「理解が早くて助かります」


理にはかなっている

だがな…


「無理だ、アレは渡せない」


俺はキッパリ言ってやった


「何だと!貴様、姫様に逆らう気か!」


大臣の一人がキレた

てか周りの大臣も見る限り剣呑な雰囲気に……

いやお前等沸点低すぎね?


俺はそんな大臣達に目もくれず話を続けた


「姫様、貴女の言っていることは理にかなっている。そもそもあの兵器は軍が所有するものだったしな」

「それでは、どうして」


「これはバーチス指揮官にも言ったことだが……、貴女達はそもそもあの兵器の扱い方やメンテナンス方法を知っているのか?」

「それは……」

「大体は『先の対魔王戦に対して召喚した異世界の兵器』程度だと思う、じゃなきゃ当時扱えていた筈だからな」

「確かに、そうですが……」

「姫様、ここは私が」

「ディア軍務大臣……わかりました」


ディア軍務大臣と言われた人が前に出てきた

見た感じは軍務とは無縁そうな高青年って感じだな


「さて、私はディアといいます、軍務大臣を務めていてね、話の内容的に私の方が適役と思ったんだ」

「確かに内容は軍務ですからね」

「皆さんも知っておいた方がいいと思うので、このままここで話しましょうか、……後からいろいろ言われるのはこちらとしても……ね?」


確かに、後々別部門の大臣からいろいろ言われるのは面倒くさそうだな


「わかった」

「さて早速ですが、貴方は我々に『操作やメンテナンスの知識が無い』とおっしゃいましたが、それはどうしてでしょう?我々も魔術だけではなく武器兵器も扱っていますが」

「言葉の通りです、貴方あの鉄巨獣……戦車を見た事がありますか?」

「いいえ、話に聞いただけです。ですがそれでも兵器……ようは道具なのでしょう?それならば我々でも見たあとでも扱えるでしょう」


なるほど、彼は話に聞いているだけか

兵器……道具ならば見ただけで扱える……と、そう言っているのか


「それは無理ですね」

「それは、どうしてでしょう?」

「あの兵器は魔術を使わない工業技術の塊みたいな存在です……仮に扱えたとしても、メンテナンスにはその兵器の構造を『知る』必要がある」

「構造把握ですか…それは専門家に任せてもいいのでは?」

「1つ聞きますが、貴方はいきなり工業技術が1000年以上先にある世界の兵器を渡されて『構造を理解し万全の状態にメンテナンスしろ』と言われてそれができますか?」

「せ、1000年ですか…?」

「アレはそういう存在です。精密パーツも多数あります。もし軍事的に扱いたいのであれば、必然的にメンテナンスは必須、しかし現在貴方がたにはその基盤が整っていないですし、それに……」

「……それに?」

「超最新鋭の兵器を導入して、他国が黙っていると思いますか?」


この言葉にディアさんは『予想はしているが、やはりそうなってしまうか』という顔をした


「……しかし、それでも貴方達パーティーが所有していい道理にはならないのでは?」

「確かにその通りだ。だが少なくともここにいる俺と美崎はその兵器達を集める事を使命としている」


「使命?誰から」


うーん、ここであの自称女神エランの名前を言っていいものなのか?


「女神エランです!」

「な…!?」


そう考えていたら美崎が言っちゃった

流石にディアさんや周りの大臣達も驚いたらしく


「女神エラン様だと!?」

「つまり彼らは教会の神託にあった『神使』と言うことなのか!?」


「神託…?」


ここでも出たか『神託』……ってかエランってそこそこ有名なんだな

神託ってアレだろ?神様から『これから○○が起こりますよー』的なお知らせが来るっていうヤツだろ?

てか『神使』ってなんだよ



「はい、エラン様からの神託には『古の兵器を開放する黒髪の神使が3人現れる』と出てましてね、…そういえば確かに永一くんと美崎さんは黒髪だね、これは失敬………こちらも3人同時に現れるのかと思って失念していたよ」


「なるほどな、しかし俺はともかく美崎が現れたのはイルグランテだった……恐らくはもう1人はまた別の国に現れているのかもしれないな」


『3人現れるけど別に3人纏めて同じ所には現われない』と言う事だ

まーたあの神様ドジったな

しかも俺達を勝手に『神使』ってヤツにしてるし……




あー思い出した、『神使』って神道の『神の使い』だわ

有名なのは諏訪神社の白蛇や稲荷神社の狐だな

神様ごとに神使は違うから調べてみると面白いぞ

鶏や鹿や亀とかいるぞ

ちなみに毘沙門天はムカデだったりする


ん?『毘沙門天は虎だろ』って?

よく見てみ、虎の横にムカデくんいるから

ものによっちゃ虎がいない場合もあるから


なんでも『たくさんの足(百足)のうち、たった一足の歩調や歩く方向が違っても前に進むのに支障がでる。困難や問題に向かうには皆が心を一つにして当るようにとの教えである』だそうだ

軍神でもあるから当然の考えだよな


ってかアイツエラン、神道の神じゃねーだろ


「なるほど……しかしそうなると話は変わってきますね」

「というと?」

「神使とわかってしまった以上、我々も貴方がたを野放しにはできない……という事です。正確には貴方がたのエラン様の使命に我々も御助力させていただきたい。先程までの兵器の譲渡の話も無しです」

「なるほど……しかしそんな即決で決めて大丈夫なんですか?」

「この国が唯一信仰する女神エラン様から与えられた使命です、最優先事項にしても何ら問題ございません……構いませんね、姫様」

「ええ、問題ありません」


これは願ってもない事だ、ありがたいこの上ない

簡単に言うと国1つが俺達の支援をしてくれるわけだからな


「わかった、こちらとしてもありがたい申し出だ、断る理由がない」

「ありがとうございます。………本当であれば貴方がたには是非とも帝都に滞在して頂きたいのですが、なんでも既にザギの西、廃村になっていたフェニー村周辺の土地を貰い受けて既に開拓中との事なのでこの話は無しですね……しかしそうなると連絡に多少の遅れが出てしまいますね……」

「その件であれば、我々にお任せを」

「バーチス指揮官、何か案が?」

「はい、連絡にはこのザギ西部隊隊長エルマスが適任かと思われます」

「なるほど、『潜影』か……確かにな、わかったそれで行こう」


「しかし、話すべき事柄が多すぎて埒が明かないな……また詳細は日を改めて行いましょう」

「そうですね……わかりました」


「わかりました、ではこの案件はディア・ランボル軍務大臣とバーチス・レイモンド指揮官、それとイオストル・ザギネルラを主軸にお願い致します」

「……ん?」


聞き慣れない名称が出た気がする

イオストル……なに?


いやイオがイオストルってのは最初の自己紹介でわかっていたんだが、姓がザギネルラだと?


「んーと、イオ、姓がザギネルラってのは…」

「……すいません、伝えるタイミングを完全に失ってましたね」


イオはこちらに向きなおりながら




「私の本名はイオストル・ザギネルラ、旧ザギネルラ王国の元王家の家系です」




そんなトンデモ発言をぶっこんだ


「「「「なっ……ええええ!?」」」」

「な──………あ、いやいろいろ合点がいったわ」


「いやいや永一さん、もうちょっと驚いて下さいよ!?」


流石にイオも俺の反応にはショックだったようだ



いやまあ、流石に驚いたけどさ

今までの言動もいろいろ合点がいっちゃってさ

最初に『皆を守る力が欲しい』と言いながら俺達の所に来たり、姫様と友人だったり……とかな


「まあ、イオが何者かってのはわかった…んでもそれで俺が今までと接し方を変えるって事はないから安心してくれ」

「はい、ありがとうございます」



「話が長くなってしまったな……じゃあ次はサセン達かな」

「そうですね」


「では次は……えーと貴方達は?」

「ハッ、お初にお目にかかります姫殿下。我々はイルグランテ第五竜騎隊、隊長は私サセンと申します。私共は現在、彼等の拠点に滞在させてい頂いております」

「イルグランテの竜騎隊が…どうして?」

「そうですね……時間も押していると思われますので、手短にご説明致します」


サセンがこちらをチラッと見た


あ、ハイ、申し訳ない

時間をロスしたのは俺の落ち度だな


「まずは───」


サセンは自分達のこれまでの経緯を話した


〜〜〜〜〜


「…なるほど、事情は理解しました。そういう事であれば滞在を許可します」

「ありがとうございます」

「……と言ってもそのような申し出をされなくても普通に滞在していてよかったんですよ?」

「いやいや、流石にそれはマズいですって。一応休戦中の相手の軍人ですから」

「それもそうですね」


サセン達の滞在許可はなんともあっさりと下りた


「……それにしても、教団とはなかなか侮れなさそうな集団ですね、まさかイルグランテの戦闘帆船まで動かしていたとは……」

「そうですね、永一殿達が事前に阻止していなければ今頃ザギは陥落していたでしょうな」

「ご冗談を。あそこの防御力は並大抵の物ではないでしょう?」

「いえいえ……しかしそうなると永一殿達パーティーの戦闘力は今現在イルグランテの海上戦力を上回っている、ということになりますな」


話は再び俺達の立ち位置の話になっていた

『ひとつのギルドパーティーが持つにしては強大すぎる戦力』が議題だ


ディア軍務大臣がこちらを見つつ


「……どちらかというとギルドパーティーではなく、彼等は軍に籍を置いたほうがいいレベルですね」

「しかしそれでは後々何か言われかねないぞ」

「それでも、ですよ。流石に軍にキッチリ籍を置くと色々問題も発生しますが、『公認パーティー』に任命すれば多少はなんとかなるでしょう」


ん?『公認パーティー』?

なんだそりゃ


「なるほど、その手があったか」

「えーと、つまり?」

「君達はこのままで問題はないよ、我々ルーバス軍からの支援と国直々の依頼が発生するくらいだ。要は『軍公認のギルドパーティー』と思ってくれて構わない。詳しくは後日追って知らせるよ」

「なるほど、わかりました」


「それでは謁見とはなんだか程遠くなってしまいましたが、かなり議論すべき事柄も出てきてしまったし今回はここまでにしましょうか」


クリスタ姫様が立ち上がってそう言った


確かに謁見とは程遠かったな……

殆ど会議だったぞ……


「永一さん達には申し訳ないのだけれど、暫くは帝都に滞在していただきます。『公認パーティー』の発表やその他話し合う事がもうちょっとありますから」


あ、『公認パーティー』ってもしかしてかなーり大事なのかな……?


「……なるほど、承知しました」

「こちらにも色々と準備がありますので、それまでは帝都をごゆっくりお楽しみください」


向こうの準備が整うまではこちらもゆっくりできそうだな

以前できなかった帝都観光もできそうだ

つかの間の休息って奴かな?



──この後、クリスタ姫様がドレス姿のままIS-2に乗り込もうとしたりしてひと悶着あったが、それはまた別のお話

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