グッバイ現世、僕は異世界で最強になる。〜才能が全ての世界をヘタレ冒険者が押し通ります〜

アキタ

第1話 転生ヘタレ

 とある高校、何の変哲もない教室だが今日は空気が妙に一変としていた。朝からいつもの様に田中と佐藤が小競り合いをせていたのだが、どうやら田中の機嫌が悪い。そんな中、


「ーーーーなぁんであんな敵に手こずってるんだよ。大火力で一気にやってくれればスカッっとするのにな」


 などと携帯電話とにらめっこしながら独り言をこぼす少年、美濃嘉武。


 彼の趣味は転生モノの小説を読み漁ること。少しの時間さえあれば精読に励む。


 ザワついた教室の悪い雰囲気など気にせずいた。最近お気に入りの小説が更新されたばかりだったのだ。

 なのに、思ったような展開をせず、焦らされた感情にヤキモキしてスッキリする転生モノの小説を探そうと思っていた。


(僕だったら一気にドンッ!ってやっちゃうけどな。まあいいや、次はざまぁ、で検索・・・っと)


 その時、朝から不穏な空気が漂わせていたクラスメイトの田中が怒りを爆発させた。


「何で俺の携帯の充電器抜いてんだよ!!」

「ははっ、盗電野郎!!」


 ・・・朝から携帯とにらめっこしていた嘉武はクラスメイト達のいつものじゃれ合いだと思っていた。ただ、今日はいつも通りではない。授業を経てフラストレーションが教室を支配している。


「ムカついた、殺してやる!」

 そういった田中は椅子を持ち上げ、充電器を抜いた似非正義男、佐藤へ激昴し振り回す。その姿はまるでオーク。大きな体に無駄についた脂肪。豚鼻を荒く鳴らしている。


 キャーキャーと女子は叫び、周りの男子生徒も椅子を振り回されちゃ迂闊に止められもしない。カオス状態の教室。このままでは最悪、殺人犯が生まれてしまうだろう。


「ちょ、そこまですることないだろ!?」

 まさかの激昴に慄く佐藤は机や椅子、教卓を上手く使いこなしグルグルと逃げ回る。


「謝れ!俺に謝れよぉ!」

 田中は顔を真っ赤にし、声を荒らげて発狂している。


「おいおい、そろそろ次の授業始まるぜ!?その辺にしろよ!」

「いつもいつもムカついてたんだよォ!」


 そんなやり取りをしながら嘉武の方へ迫る。

 そして、嘉武はふと思った。


(僕なら止められる・・・。皆が手をつけられない喧嘩だって僕なら止められる・・・ッ!)


 嘉武は謎の正義感と全能感に突き動かされ机の天板を思い切り叩いた!!


 教室の時が止まる!!


 勢い良く席を立ち上がる嘉武!!


 そして言い放つ!!


「あ、あの、、、喧嘩、、、やめない、、、?」

 顔を引き攣らせ、冷や汗を垂らしながら必死の制裁。


「ほらほら!美濃も言ってるんだからやめろって田中!」


 佐藤は嘉武の肩に手を置き喧嘩の終了をアピールする。

 だが、発狂したクラスメイトは弱すぎる言葉に弱すぎる雰囲気から発せられた言葉など聞く耳を持たない。


「お前を殺すまでやめるわけにはいかないんだああああああ!!!」


 喧嘩制裁にヒートアップする田中の持つ椅子が思い切り振り回される。佐藤の手が邪魔で嘉武は動きがかなり制限される。このままでは巻き添えを食らいかねない嘉武は歯を食いしばった。


(あっ、これ、死ぬかも・・・)



 ・・・・・・・・・ドゴンッ!



 教室に響いた鈍い音。



 頭部より流血し、そのまま盛大にぶっ飛ぶ嘉武。


 壁に強く頭を打ち付けてズルズルと崩れ落ち、ピクりとも動かない。


 壁には血の滝、床には広がる赤い体液。


 誰かが零した、「嘘、だろ・・・・・・」。


 刹那、静寂が訪れる。田中の上がった息だけが教室に流れ、異様な空気が作られる、


 皆が静まり、嘉武の安否を見守る。


「生きてるのか?」

「マジかよ・・・」

「サイテー」

「動かなくね?」


 クラスメイト達の小言で溢れかえる。

 事態をようやく飲み込めた佐藤は嘉武の状況を見て大分ヤバいことに気づいた。


「やっ、やったな、お前、ここまでやる奴がいるかよ!」

「お前が悪いんだろ!!お前が俺をくぁwせdrftgyふじこ!!!!」


 返り血のついた椅子を再び振り翳そうとする田中。


「いいかげんにしろよ!!」

 何事かと遅れて来た隣のクラスに在籍する空手部生徒の山田が田中の首元に手刀を入れ、気絶させる。


「た、助かった・・・」

 と胸をなでおろす佐藤。震える膝には水分が滴っている。


「そんなことより、この子は大丈夫なのか!?」


 山田が突っ伏している嘉武を抱き起こす。


「笑って・・・いる・・・?しかしなぜ、息をしていない・・・!?」


 空手部が嘉武の流した血を見るとそこには一言。




 ーーーー職業 最強ーーーー




 と血で書かれていた。








 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 暗闇の中、朦朧とした意識をわずかながら取り戻す。


(ここは、どこなんだろう・・・僕はこれから・・・)


 意識は、途絶えた。


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