第3話 魔術師と魔結晶

▼前回のあらすじ▼

 ディアブロ討伐隊の前に現れたεイプシロンランクの異形種”エクリプス”。

 視界を奪われたカミュたちの打開策は『風魔法で味方を暗闇の範囲外まで吹き飛ばす』というものだった。

 しかし、策を実行する前に”思考阻害”と”最大級の恐怖”を与えられた一行はファフを残して全員自害してしまう。

 誰もいなくなったので、後はロムラスに任せることにした。


▼フィヨルド崩壊後の地図▼

https://pbs.twimg.com/media/EU3GCv_UcAAaNFX?format=jpg&name=small


▼魔物図鑑▼

αアルファ < βベータ < γガンマ < δデルタ < εイプシロン < ζゼータ


エクリプス(ζゼータ):”灯を喰らう者”の別名を持つ最上位異形種。生者の視界を完全に奪い、ゆっくりと体内に飲み込む。飲み込まれたものはエクリプスと同化し、その顔は体表に刻まれるという。しかし、その姿を見たものはいないので、嘘か真かは闇の中である。


フギンムニン(ηエータ):伝説上にのみ語られる悪魔で、数百年前の古文書にもその名が記されている。伝承によると、”魔法で生物の思考を奪い、恐怖で生命を奪い、脳を食べて記憶を奪う”と言われており、フギンムニン一体に滅ぼされた国もあるという。


▼▼▼▼


「――つまり、『恐怖で逃げだしたおかげで、あなただけ”アレ”に巻き込まれなかった、”アレ”についてはよくわからない』というわけですね?」


ファフ「は、はい」


「……わかりました、とりあえずご苦労様です。クエスト達成の報酬は調査隊の報告後になりますので、ギルドで少しお待ちください」


 ポールトネメア冒険者ギルドの応接室から出る。


ファフ「ふぅ、なんとか誤魔化せたな……」


ロムラス「ねぇねぇ、早くごはん行こー!」


ファフ「……ロムラス、お前なぁ。アレはやりすぎだ」


ロムラス「えーっ、でもアレが一番早いよ?」


ファフ「いや確かに一瞬で終わったけど……」


ロムラス「それよりもごはんーごはん!」


ファフ「はぁー、ちょっと待ってくれ、報酬もらってからだ」


 空いているイスに座り待っている間に、袋からフィヨルド旧墓地――だった場所――で拾ったアイテムを取り出す。


ファフ「なんなんだろうなぁ、これ」


 深い青、紺桔梗のような色をした双角錐型の結晶。

 正八面体を上下に引き伸ばしたようなそれは、ギルドの明かりに当てると紫にキラキラと輝いた。

 

ファフ「これ、よく残ってたよな」


ロムラス「落ちてたやつだよね?」


ファフ「ああ。見た感じ宝石っぽいから、後で宝石図鑑で調べてみるか」


ロムラス「ごはんが先だよ!」


ファフ「はいはい」


「あ、あの!」


 突然後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこには10代くらいの女性が立っている。


ファフ「あ、はい、もう報酬もらえるんですかね」


「いえ!あの、その手に持ってるの、見せてくれませんか!」


ファフ「え、これですか?」


 てっきりギルドの関係者かと思ったが、どうやら違うようだ。

 

「はい、それです!」


ファフ「別にいいですよ。はい」


 差し出すと、彼女は恐る恐る受け取った。

 そしてまじまじと観察している。


「こ、これはまさに……!」


ファフ「それが何か知ってるんですか?」


「え!? 知らないで持ってるんですか?」


ファフ「いや、さっき拾ったんで……」


「さ、さっき!? どこで拾ったんですか!」


 ツバが顔につくほど顔を近づけて来たが、すぐさま「あ、すみません、興奮しちゃって……」と言って顔をひっこめた。


ファフ「えーっと、拾ったのはフィヨルド旧墓地――跡です」


「あ、先ほど大爆発があったところですよね! ――そこにいたんですか!?」


ファフ「いや、まぁ……。それより、それって何なんですか?」


 彼女はおっほん、とわざとらしい咳払いをした後、まるでそれが自分のもののように自慢げに話し始めた。


「これはですねぇ、魔結晶と言います」


ファフ「魔結晶?」


「はい。まだ謎の多いアイテムではあるんですが、宝石を魔力の詰まった箱だとしたら、魔結晶は魔力そのものだ、と言われています」


ファフ「それってどう違うんですか?」


「色々違いがありまして……その全てが解明されているわけではないんですが、例えばその魔力量。魔結晶は段違いで、一都市の魔法消費量を魔結晶一つでヨユーで賄えるほどです。実際に、アルファガルドでは魔結晶が用いられていると言われています」


ファフ「え、すご」


「ほかにも、宝石は魔力を供給してあげないといけませんが、魔結晶は自然と回復していきます。この原理は詳しく分かっていないのですが、解明出来れば人類は無限のエネルギーを手にするとまで言われています」


ファフ「無限の……」


 とんでもない話になってきた。


「ゆえにアルファガルドは永久不滅の都市とされているんですが、自分的にはおそらく――」


ファフ「――あの、魔結晶に随分とお詳しいようですが、あなたは一体……」


「あ、申し遅れました! 私は魔術師のチナと言います!」


ファフ「魔術師?」


チナ「はい、魔術具の術を開発しています。それでですね、最近、友人の頼みでとある術を開発しているのですが、一つ問題が……」


ファフ「問題?」


チナ「開発した術の魔力消費が激しすぎて……実際にはとても使えないんです」


ファフ「あー」


 なんかわかってきた。

 この流れは――


チナ「もし、もし魔結晶であれば、この術――”転移”の魔力消費にもヨユーで耐えられるはずなんですが!!」


 ――ですよね。


ファフ「ちょっと待ってください、”転移”って、何ですか?」


チナ「読んで字のごとく、ある場所からある場所まで瞬間移動できる術です! 幼馴染の冒険者に頼まれて研究していたのですが、先日、術だけは完成したんです!!」


ファフ「お、おお、それはすごいですね……」


チナ「そうなんです! もしこれが実用化されれば、テレ魔術を発明した伝説の魔術師カロリーに並ぶ大発明なんですよ!」


 確かに、転移の魔術ができれば世界のあり方が変わるほどの影響がでるだろう。

 もし一般市民にも利用可能なレベルまで普及した場合――交通機関は廃止され、物が一瞬で運べるので物流は活発になり、輸送自体がなくなるのだから強盗や魔物から積み荷を守る必要もなくなる。

 武力の移動も一瞬だ。

 ……この力を求めて戦争が起き、手にした国は侵略戦争に明け暮れるかもしれない。


ファフ「……それで、魔結晶が欲しい、と」


チナ「あ、いや、そりゃ欲しいですけど! すんごーく欲しいですけど!! 流石にもらうのは気が引けます……。ですので、”実験”させてほしいのです!」


ファフ「それって実際に魔結晶に術を組み込んでみたい、ってことですか?」


チナ「はい!」


ファフ「いやー、でも話に聞いただけでは、初対面ですし……」


 詐欺という単語が頭をよぎる。


チナ「そう言うと思いました! 今すぐ実際に見せますのでついてきてください!」


ファフ「ちょ、まだ報酬が、って引っ張らないで……」


 俺はチナに引きずられるようにギルドの外へと連れていかれた。

 ……なんて力だ。


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