初めてのクエスト 準備編

バディと親睦を深めるという名目で休みとされている入学式の翌日、俺とトロンは二人で朝早くから学長室に呼び出されていた。


「お休みの日に呼び出してしまって申し訳ありませんね。これからの予定と報酬について早めに伝えておきたいと思いまして」


「いえいえ、こちらとしてもお願いしたいことがあったので大丈夫です」


頭を下げながら社交辞令を交わすと、お互いに昔の苦労母に鍛えられたがあるためスムーズに会話が進む。

やはりというか共通の経験があるというのは対人関係においての潤滑液になりやすい。


「それではまたお願いしますよ」


「はい、こちらこそ実験を許可して頂き感謝します」



学園長から魔剣の移動、そして埋め直しの場所についての予定を聞かされ、こちらからもトロンの爆薬の実験に訓練所を使う許可を願い出るとあっさりと許可をもらえた。


そして次回以降も頼むとのことで色を付けて多めに入れられた報酬を手渡してくる。


そのズッシリと重い感触を感じながら一例するた俺とトロンは退室し、二人して買い出しに街へ繰り出していく。




薬品その他素材の調達には経験のあるトロンの案内のもと裏通りに来れば、表の騒がしい雰囲気とは一変し怪しげな品揃えの、少しマシな言い方をすれば掘り出し物の見本市のようならラインナップの商品が揃うアングラな市場の独特な雰囲気に思わず二の足を踏むがトロンは気にした様子もなくフードを被った姿でスタスタと入り込んでいく。


「大丈夫……。変に騒ぎ立てない限りは、レア物の宝庫」


「そうなんだ……。ところで、一つ聞きたいんだけどなんでフード被ってるの?」


所狭しと露天の店が並ぶ裏通りを進む中、なぜか最初に道でぶつかったときのようにフードで顔を隠して道を歩く様にふと疑問を覚える。


「ちょっと……ね。それにここでは顔を晒すのは好まれないからすこし俯いておくといい……」


「わ、わかった……。それで、何処にいくのさ?」


「あそこ」


トロンが鉤爪で指した方向に視線をやると紅葉のような六葉のマークが描かれた看板の店が目に映る。


「ここは?」


「実家を追い出されてから叔父様が紹介してくれた店」


そう言うとトロンは慣れた足取りでカウンターで煙管を吹かせる店主とおぼしき老婆に話しかける。


「らっしゃい。っとアンタかい、荷物持ちを連れてくるとは珍しいね」


「いつものを……」


からかうように出迎える老婆にトロンが少しばかり顔を顰めると硫黄、木炭、硝石と科学に疎い俺でも前世の小説で読んだことのある組み合わせの材料を一式カウンターに並べ始める。


その一つ一つをトロンがジッと見つめて確認をとるとコチラに向かってコクリと合図を出してくる。


「了解……」


軽く返事を返し代金をカウンターに置いて袋に材料を詰めると店主の「まいどあり……」という言葉を背に店をでる。




こうして材料を揃えるとあらかじめ学園長より許可をもぎ取っておいた練習場に赴く。


廃棄する予定の言わば壊しても大丈夫なものを標的代わりに設置した簡素な的が立ち並ぶ乱雑な場所であるが、それ故に周囲を気にしなくていいという点では非常に都合がいい。

そのうえ学園長が手を回して人払いしてくれたお蔭で自分達以外の安全も心配しなくていいというオマケ付きだ。


「最後の確認だけど……ホントにやるの?」


「勿論だよ」


怪訝そうに確認してくるトロンに返事をしながら俺は聖剣ツルハシを出して魔法の詠唱を始めるのだった。

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