第36話「はい、残り96文字」

「合コンの数合わせに来てくれっっっ!!」


「…………は?」


 何をいうかと思えば……合コンて……。さっきからドキドキしてた俺が馬鹿みたいじゃないかよ。


 寿志ひさしの的外れな頼みに、俺は呆れてしまっていた。


「悪いけどパスだ。合コンとか面倒くさい事この上なさそうだし」


「だめだ! お前じゃなきゃダメなんだよぉ!」


 寿志は身を乗り出してそう叫んだ。咲良もこいつも、店の中では静かにしろって教えられなかったのかよ。


「まぁ、あのイケメン二人組。ただれた関係なのね!」


「BL……BLってやつね! どっちが受けで、どっちが攻めかしら?!」


 おいババア! お前らもさっきからうるさいぞ!


 なんかもう、この状況がすごく面倒くさいんだが……帰る? もう帰っちゃおうか?


 そんなことを思ったのだが、猫とじゃれている咲良を見たら、少し冷静になれた。


 そうだよな。後で行くって言ったもんな。……これがデートなのかはわからないけど。


「一応、俺を数合わせに選んだ理由を聞こう。ただし100文字以内で収めろ」


「わかった」


「はい、残り96文字」


「えぇー!」


 それからしばらくの間、寿志は何を言うか頭の中でまとめているようだった。


 自分で言っといてなんだが、俺なら絶対文字数なんて無視するぞ。


 あ、でも作文の場合は圧倒的に文字数が不足するけどね……!


-トントン。


 俺が、そもそも作文とは何かと哲学的なことを考えていると、寿志が肩をつついてきた。言葉を使わないとか、こいつマジで意識高いな。


「気になってるやつに合コンを組んでくれって頼まれたんだよ。そんで、その子に他のやつとくっつかれたら嫌だから、女子に関心なさそうなお前を連れて行きたいんだ。ちなみに、咲良ちゃんもプラスで」


「なるほど……。でも、なんで咲良も連れて行くんだ?」


「女子もあと1人いないとダメなんだよ。あの子なら尋斗ひろとにご執心しゅうしんだし、ちょうどいい感じになるかなぁと」


 えっと、つまり……それぞれ狙う相手が違うとわかってるから、ちょうどいいってことか?


「お前、なんかせこいな」


「うるさいなぁ。恋の策士と呼びたまえ」


「やかましい!」


 やることはそんなに難しくないけど……どうしたものか。それに、咲良にも許可を取らなきゃいかないわけだし。


「頼むよ。もし来てくれたら、一日かけて、お前の好きなラーメン屋全部ついてくからさ。もちろん俺のおごりで」


「よし、その話のろう。早く咲良にも聞かないとな!」


 ラーメンが報酬なら話は別だ。やるしかないだろ?



 ということで、簡単に押し負けてしまった俺は咲良のもとに歩いていった。


「えと、お待たせ」


「うん! ねぇ見て見て。この子すごい甘えてくるんだよ。足にスリスリして構って欲しそうにするの!」


「ホントだ。よほど咲良のことが気に入ったんだな」


「はい! 平良くんも抱っこしてあげて」


 咲良は、白い猫を抱きかかえて俺に差し出した。


「フニャーン」


 猫はあくびをしながらこっちを見つめた。……え、何この可愛い生き物。


 俺は今まで、ペットを飼いたいと思ったことはないし、この猫カフェのような触れ合えるようなところにも来たことがなかった。


 ゆえに、猫という生き物の真の可愛さを目の当たりにした今の俺は、すでにその愛らしさに釘付けだった。



 ゆっくりと手を伸ばして、猫を抱き上げてみる。


「ゴロゴロゴロ」


 喉を鳴らして目を閉じたんだが……お昼寝ってことか? よし、仕方ないから俺が抱っこしていてあげよう。そうだ、それがいい!


「平良くんもなつかれたみたいだね」


 咲良はニコニコしながらそういった。


「そう、なのかな?」


 あぁ……何このほのぼの空間。しばらくこのままいよう。

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