第15話「あっ、おい! なんだよそれ」

「してもいいって……ハハハ、ちょっとなに言ってるかわからないんだけど」


「なにヘタレみたいなこと言ってんの、ヒロくん」


 俺の上に馬乗りになっている友李ゆりは、魔性の笑みを浮かべながら言った。


 ちょっと待ってくれよ……押し倒してくるって、もうそういうことなのでは? いやいやいや、こいつに限ってそんなことあるわけないよな。


「ねぇ、いいでしょ?」


「だからよくないってば! 降りろ降りろ!」


「やーだ」


 こんな時どうすればいいんだ……。


 新しい大陸を見つけるのと同じぐらいありえない話だが、もしも友李が本気だったとして、どうすれば傷つけずに済むだろうか。


 力尽ちからずくで引き剥がすか。それとも、これでもかというような言葉でどうにかするか。……いや、どちらにしても穏便おんびんなものではない。


 ……やっぱり、こういうのは素直に断るしかないか。


 そう思った俺は、深呼吸をして心を落ち着かせてから口を開いた。


「いいか、俺はこういうのは責任が取れるようになってからじゃないとイヤなんだよ。たしかに俺たちぐらいのとしになれば、そういう事に対する意識もあるけど……俺は絶対しないぞ!」


 全力の主張が伝わったようで、友李はため息をつきながら俺の上をどいた。


「もぉ、いつものイタズラだよ? なにそんな熱く語ってんの、ヒロくん」


 彼女は、悪巧わるだくみが成功した小学生のように笑って見せた。


 だが……気のせいかもしれないが、そう言いながら浮かべた彼女の微笑みは、どこか物悲しそうに見えた。


「あのなあ、あんまり男を勘違いさせるような事すんじゃねえぞ」


「ヒロくんこそ、そんなんだと女の子に便利に使われちゃうよ?」


「ほっとけ……!」


 臨戦状態りんせんじょうたいが解除された俺は、崩れた服を直してから友李に言った。


「俺もいろいろあって疲れちゃったから、今日はもうお開きでいいか?」


「うん」


 先程さきほどとは違い、友李は大人しく帰る事にしたようだった。



「家まで送るか?」


「いいよ、隣なんだし」


「それもそうだな」


 俺は玄関口で確認をしたが、たしかによく考えればこいつの家は隣だった。


 うわぁ、なにこのよそよそしい雰囲気……。友李もこの空間が気まずかったのか、早々そうそうに家から出ようとした。


 扉を開けて半歩進んだところで、友李はこっちに振り返った。


「あのさ……本当の私の気持ちも、さっきヒロくんが感じた私の気持ちも……勘違いなんかじゃないから! それじゃあね!」


「あっ、おい! なんだよそれ」


 俺はどういうことかたずねようとしたが、答える前に友李は走って帰ってしまった。


「ったく、なんだったんだよ」


 まぁいいや。今日はもう寝よう。いろいろ疲れたし。


 着替えてすぐにベッドに入った俺は、いくばくもしない間に寝てしまった。


 ……あ、もちろん、エロ本を元の隠し場所に戻してからね!

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