第49話 お姫様誘拐……って、このクエストは

「は、はい? お願いとは……」


 いきなり現れたのはオレンジブラウンのショートヘアーが似合うメイドさんだった。髪の色は明るめだが表情はキリっとしており、一目でその真面目さが伝わってくる。


「あなたに姫のお守りをお願いしたいのです」

「え、えぇ。出来るならやりますけど……」

「よかった。ではこちらへ来て下さい」


 そう言われてメイドさんの後を付いて行くと、お城の奥の方にある一つの部屋へと連れて行かれた。


 メイドさんがその部屋のドアをノックする。


「姫様、新しいメイドを連れてきました」

「入れ」


 偉そうな口調ではあるが、中からまだ幼い感じの可愛らしい声が聞こえてきた。

 まぁ、この国のお姫様だから実際偉いんだけど。


「失礼します」

「む。お前は入らなくてよい」

「し、失礼しました」


 一緒に入ろうとしたメイドさんが慌てて下がり、私だけが部屋の中に取り残される形となった。


 中は小さな子供部屋で、女の子が一人椅子に腰かけていた。

 子供部屋といっても王城の部屋であるため、中の調度品や家具はどれも高そうなものばかり。その高そうな椅子に座っている、長い金髪の可愛い小さな女の子がお姫様だろう。薄いピンクのフリフリがいっぱいついたドレスに身を包み、青い瞳で私のことをジッと見つめてくる。


「ど、どうかしましたか……?」


 何もしゃべらない彼女に痺れを切らし、私の方から声を掛ける。


「私はこの国の第二王女、レイア=フィー=リヴィルニア。お父様、お姉様の次に偉いのよ。私の専属メイドにしてあげましょうか?」


 ませた台詞でレイアちゃんがそう問いかけてくると、目の前にいきなり選択肢が現れる。


 [はい][いいえ]


 なんでいきなり選択肢形式!? 今までの会話で進むシステムどこいったの!?


 普通は当然『はい』を選ぶのだろうが、興味と好奇心から『いいえ』を選択する。


「私はこの国の第二王女、レイア=フィー=リヴィルニア。お父様、お姉様の次に偉いのよ。私の専属メイドにしてあげましょうか?」


 ん? 時間巻き戻った?


 再び表示される選択肢。

 もう一回『いいえ』を選択する。


「私はこの国の第二王女、レイア=フィー=リヴィルニア。お父様、お姉様の次に偉いのよ。私の専属メイドにしてあげましょうか?」


 あ、あれ――?


 気になってさらに5回程『いいえ』を繰り返し選択してみるが、まるでタイムリープものの主人公のごとく何度も同じ会話が繰り返された。


 こ、これはまさか――RPGでよくある永久ループ選択肢!

 選択肢として存在するのに片方の選択肢は選んでも同じセリフをループするだけで、もう片方の選択肢を選ばないと先に進まないというおなじみのシステム。


 なんでここでこのシステム採用した!?


 相変わらずこのゲームを作っている人達は何を考えているのか分からない。

 

 仕方ないので『はい』を選択すると、レイアちゃんの台詞が変化した。


「隣の部屋の宝箱に『子分のしるし』があるから、それを取ってきなさい」


 運営さん台詞おかしいぞ! 子分のしるしってなにっ!? 専属メイドなんじゃないの!?

 いや、待てよ――なんかリメイクのRPGでそんなのがあった気がする……。


 まぁ、とりあえず隣の部屋に行ってみよう。

 入り口以外にドアは一つしかないため、隣の部屋はこちらだろう。


 中に入ると部屋の真ん中に宝箱が一つ置かれていた。それ以外には何もない。

 もしやビックリ箱? と警戒しながらその宝箱を空けると――中は空っぽだった。上げ底になっていたりしないか色々探ってみたが、特に何もないようだ。


「宝箱は空っぽだったんですけど――」


 隣の部屋に戻るとこちらももぬけの殻だった。


 一体どこにいった?


 ふとあるゲームの記憶が脳裏を過ぎる。先ほど言ったリメイクのRPGだ。


 もしやと思い彼女が座っていた椅子を退かすと、床に切り込みのような黒い区切りが見えた。良く見ると床に敷かれたカーペットの一部が剥がせるようになっており、それをめくると取っ手が出てきた。そして、その取っ手を持ち上げれば予想通り、床が持ち上がり下の階へと続く梯子が姿を現わした。


 なるほど、隣の部屋に行ってる間に下の階に移動したか。

 

「よっと」


 梯子は使わず下の階まで飛び降りる。

 昔ならゲームといえども怖かったんだけど、最近ではこれくらいの動きはどうってことはない。


「んーっ! んーっ!」


 地面に足を付いた瞬間くぐもった声が耳に入る。

 声のした方を振り返ると、大きな麻袋を抱えた大男が走り去ろうとする姿が見えた。


「おい、急げ!」


 その大男もいきなり現れた私に顔を向けるが、仲間から声がかかり慌てて走り出す。

 すぐにレイアちゃんが誘拐されたと察した私は急いで追いかけるが、大男たちは城の裏手から出て行き、外に待機していた乗り物にすでに全員乗り込んでいた。


「よし、出せ!」


 男の言葉でゆっくりと浮かび上がる小型の飛空船。


 あのゲームだとここではイカダ――いや、イカダで逃げるのもどうかと思うからこっちの方が理に適っているけど……。ていうか飛空船かっこいい! 私もエンタープ〇イズ乗ってみたい!


「あいつに顔見られたぞ!」

「大丈夫だ。あんなただのメイドには何も出来ねぇよ」


 メイド!? いや、今はメイド姿をしているからメイドでいいのか。しかし、ただのメイドだと思ったのが大間違い。

 

 私は城の中に戻りすぐに茶髪メイドさんのところに向かう。


「どうした? そんなに慌ててなにかあったのか?」 


 メイドさんともう一人見知った顔があった。イベントであるが何度も一緒に戦ったこの城の騎士団長さんである。


「レイアちゃんが怪しい男達に攫われました!」

「なんてことっ!?」 


 驚愕の報告に思わずメイドさんがその場に崩れ落ちる。しかし、騎士団長さんの方は冷静だった。

 私の肩を掴むと静かにこう言った。


「わかった。だが、このことは誰にも言うなよ。騒ぎが大きくなるだけだからな……。姫は私が助けに行く」


 格好いい台詞を決め私の横を通り抜けて歩き去る騎士団長さん。


 当然待ってても解決することはないと思うので、私も助けに向かうことにする。


 騎士団長さんが「ぬわー!」しちゃうとまずいしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る