第29話 イベント:2大王国模擬戦・予想外の出会い

 イベントが開始されるのと同時に、アレクさん達に提案されたのは、中央は自分達が行くから、他の人は左右に行って欲しいとのことだった。


 トッププレイヤーの人達の実力を疑っている訳ではないが、さすがに5人だけというのは無理があるのではなかろうか。


 兵士達が三方向に分かれて歩き出し、騎士団長さんは中央へと進んで行く。


 正直、私は中央に進んで騎士団長さんと一緒に戦いたい。


 兵士達に続いてアレクさん達が歩き出すのを見て、周囲の人達がざわめき出す。


 だが、混乱しているというわけではなく、彼らの思いを汲んでどちらに進むか、皆悩んでいるようだった。


「迷ってても時間の無駄だ。左右のバランス崩れないようにだけして、好きな方に進もうぜ」


 誰かが皆に向ってそう提案する。


 その一言で人の流れが出来た。


 中央に行けなければどちらでも構わないので、私はなんとなく少なそうに見えた西へと進むことにした。


 騎士団長さんが進んだ方向が北のようなので、西は王国の砦から見て左方向である。


 しばらく進むと森があり、森を抜けないと相手の人達が来ているのかどうかすら見えない。


 森を抜けた先はだだっ広い平原で、どうやらまだ相手の人達は来ていない様だった。


 とりあえず向こうの兵士達が来るまでは待機かな?


 そう思った矢先のこと、誰かが皆に向って作戦を提案する。


「なぁ、相手はまだ来てないんだし、向こうの森に何人か事前に隠れといて、挟み撃ちにしたら余裕で勝てるんじゃね?」


「余裕かどうかは分かんないけど、ありかもしれないな」


「じゃあ俺が向こう行くぜ」

「俺もあっち行くわ」


 何人かの人達が帝国側にある森に移動していく。


「こっちも初めはまだ来ていないように見せかけようぜ。油断しているところを同時に挟み撃ちにするんだ」


 今周囲にいる人の中で、一番レベルが高そうな感じの男の人が提案すると、他の人達が抜けてきた森へと引き返していく。


 よくこんなことを思いつくなと思いながら、私も皆に続いて森へと引き返す。


 だが、そんなことが出来るのは私達だけで、NPCである兵士さん達は平原で待機したままだった。


 まぁ、そうなるよね。

 兵士さん達放置で大丈夫だろうか?


 全員が森の中に身を潜めると、しばらくして帝国側の人達が現れた。


 帝国の兵士さん達がこちらの兵士さん達と対峙し、何か一言二言交わした後戦い始める。だが、鍔迫り合いばかりで、どちらかが相手を倒すということはなかった。


 兵士さん達だけで戦い完結したら、私達いなくても決着ついちゃうし、

この状態で自分の国の兵士さんを守りつつ、相手の兵士さんを倒せということなんだろう。


「向こうが仕掛けたら俺達も行くぞ」


 帝国側の森から何人かが顔を出すのを見て、先程の人が周囲に声を掛ける。 


 そして、誰かが攻撃を仕掛けたのだろう、帝国側の人達の中で誰かが叫ぶ。


「お、おいっ! 後ろに敵がいるぞ!」


「よし、行くぞッ!」 


 それと同時に周囲の人が一斉に森から飛び出していく。


 なんか卑怯臭くて好きではないが、一応参加した方がいいだろうか?


 そう思って隠れていた木から身を乗り出そうとした瞬間、大混戦になっている平原に知った顔を見つけてしまった。


「え、エアリー! ――と、その仲間の人」


 面識があるのはエアリー、サヤカさん、アグネスさんだが、四人目の人は星屑の崖で見た覚えがある。


 私は踏み出そうとした足を戻し、再び木の陰に隠れる。


 こ、これは見つかるわけにはいかない。


 見つかれば倒されるから――ううん、逆に余裕で倒してしまいそうだから。


 彼女達の強さは、あの時の戦いでなんとなく把握している。他人のダメージを見ることは出来ないが、自分の与えられるダメージと比較すれば予想は出来る。


 どうしようかとあれこれ悩んでる内に、いつの間にか乱戦が終結しつつあった。


 切り結ぶ金属音、飛び交うスキル、魔法の音がほとんど聞こえなくなっていた。


 どうなったのか、こっそりと様子を確認する。


「えぇ!? どうしてこうなった?」 


 見た感じの人数ではこっちの方が多そうだったのに、いつの間にかこちらの方が人数が少なくなっていた。


 ちなみに、兵士さん達は両国とも全滅していた。


 可哀そうに……。


 私達は倒されても拠点に戻されるだけだが、兵士さん達は一度やられると復活出来ないため、これで出番は終了だ。

 

「ヘル・フレイム!」

「ヘヴィ・ショット!」


「クソッ! なんで不意打ちまでしてこっちが全滅すんだよ」 


 気付けば最後の一人、巨大な銀の斧を持った男の人が倒されるところだった。


 いや、正確には最後の二人か。最後の一人は私だ。


 生き残ったのは――エアリー達四人だった。

 レベルの高さもあるが、チームワークの良さで生き残ったのだろう。


 私は心の中で安堵する。


 今は敵なのでそんなこと思ってはいけなのだろうが、やはり知ってる人たちが倒されるのは心苦しい。


 兵士さん達が全員倒されてここにいる意味もなくなったし、一度拠点に戻ろう。


 そう踵を返そうとした時だった、足元にあった枝を踏みパキリといった乾いた音が、静かになった平原に響いた。


 なんでこんなところに枝が!?


 バレちゃいけないところで音を出すとか、漫画の中の展開だけだと思ってたのに!?


「誰っ!?」 


 エアリーがこちらに向かって声を上げる。


「エアリー……」


 もう隠れてても無駄だろうと、とりあえず彼女達の前に姿を見せる。


 やはりというかなんというか、エアリーが驚いた顔を見せる。


「……アンリ」


 さてどうしようか? とりあえず戦闘は避けたい。

 

 私はゆっくりと両手を上に上げる。


 抵抗しませんのポーズである。


「ま、まさか一対四で襲ってきたり、しないよね?」


 一か八かで恐る恐る尋ねると、サヤカさんがエアリーの方に顔だけ向ける。

 

「どうするエアリー?」

「エアリーのお知り合いですし、あなたが見逃すというのであれば従いますよ」

「う、うん……」


 サヤカさんとアグネスさんの言葉に、エアリーが複雑な表情を返す。


 ゲームとしては倒して1ポイントでも多く獲得しておきたいところだが、相手がリアルの友達であれば躊躇って当然だと思う。

 逆の立場だったとしたら、私は見逃すだろう。


「かなりのレベル差もあるだろうし、見の――」


「まだいたぞ! この人数なら負けやしねぇ、全員突撃だ!」


 さっきぶりの声が森の中から突如聞こえ、振り返れば先ほど最後にやられた男の人を先頭に、かなりの数の人が再び戻って来ていた。


 なんで来たし!


 心の中で全力で突っ込む。


 兵士さん達が全滅した時点で、こちらに来る価値はない。


 最後に倒された人が、顔真っ赤にして復讐しにきたのだろう。


「逃げましょう、エアリー」

「……そ、そうね。こちらにいても意味ないし、一度戻りましょう」


 森へと踵を返すエアリー達四人。


「くそっ、時間稼ぎだったか」


 サヤカさん最後にこちらを振り返り、去り際にそう一言吐き捨てていく。


 いやいや、兵士さん達いないのに時間稼ぎしてどうすんの?


 今の一言だと完全に私が嵌めたみたいじゃん!


 逃げるエアリー達。

 私の横を駆け抜け、それを追いかける王国側の人達。


 私はどうしていいか分からず、しばしその場で呆然としていた――。

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