第19話 ダンジョン:星屑の崖 その3

 急に始まるエアリー達と、頭が牛の二足歩行の化け物との戦闘。

 上部に表示されている名前は『ミノタウロス・テラー』。色んなRPGでよくお目にする、ミノタウロスの強い奴とかそんな感じだろうか?


 手伝いたい気持ちはあるのだが、いきなり部外者が戦っているところに入るのはマナー違反。これはオンラインゲームをやる上での、暗黙のルールみたいなものだ。


 やきもきした気持ちでしばらく戦いを眺めていると、隣の部屋で戦っていた3人パーティーの人達が、エアリー達の部屋へと向かっていく。


「おい、あんたら大丈夫か? 手伝っていいなら手伝うぜ」


 どうやら苦戦してるのを察して、手伝いに来たようだ。


 彼らが戦いに加わるならこっそり混ざっても、同じ助けに来た人と思われるだけなのではないだろうか?


 ただ、そのままの姿で行けば当然、即バレからのなんでこんなところにいるの? になると思うので、少し変装する。


 大きめの町には大抵美容院があり、そこでは色々な髪型を購入することが出来る。

 購入した後はそれを使用することにより、髪型を変更することができる。

 ちなみに、元の髪型に戻したい時も、その髪型を購入していないと戻せないため注意が必要だ。


 私は道具袋の中から、『ポニーテール』を選択し使用する。

 ちなみに、道具袋の仕組みは、よくある四次元ポ〇ット式である。

 

 本当は色も変えた方が完璧だが、当時はいらないと思って買わなかった。今度店に行った際には買っておこう。


 後ろで結っていた二つの大きな三つ編みのおさげが、長めのポニーテールに変化したのを確認してから、道具袋の中を漁る。


 取り出したるは般若の面。


 髪型だけでは当然バレると思うので、雑貨屋で買っておいたお面を装備する。本当はもっと普通に顔を隠せる物がよかったのだが、よさそうなのがひょっとこのお面とこれしかなかったので、こちらを選んだ。


 助けに入った三人の人達も戦闘を開始した。

 だが、見てる感じミノタウロス・テラーに対していいダメージを出せている人はいない。


 私はキラーアクスを片手に駆け出す。そして、エアリーの脇を抜け攻撃スキルを発動する。


「ヘヴィ・スマッシュ」

 

 前にデインさんが使っていたスキルだが、なかなかダメージ倍率の高いスキルだったので、あの三人と別れた後に取得した。


 振り下ろした斧の強力な一撃は衝撃波を生み、その周辺にいた通常のモンスターにもダメージを与える。

 周辺のモンスターは一撃で消滅していったが、当然ミノタウロス・テラーはまだ存在している。


 攻撃する前に見たHPの減りは5%程度、そして今の一撃で1割くらいまで減った。


 私の出したダメージは、クリティカルも出て29756。そんなに防御力は高くないみたいだが、総HPは50万近いかなり高HPなボスである。


「つよっ!」


 誰かが背後で驚きの声を上げる。


「危ない!」

「加速」

 

 エアリーの声が聞こえた瞬間、スキルを発動し横に跳ぶ。


 先程まで私がいた場所を、ミノタウロス・テラーの巨大な斧が抉り取る。


 攻撃後の隙を突いて、さらに通常攻撃を一撃お見舞いし、一度距離を取る。


「ヘル・フレイム!」

「ヘヴィ・ショット!」


 背中を見せたミノタウロス・テラーに、マジシャンの女の子とエアリーが攻撃を放つ。

 するとミノタウロス・テラーの視線がそちらに移り、今度は私が背後からヘヴィ・スマッシュを決める。


 この、ミノタウロス・テラーを前後から挟んだ連結により、HPの高い強力なボスもあっという間に倒すことが出来た。


 まぁ、動きはそんなに早くなかったので、一人でも倒せたかもしれないが、他の人と協力して何かを成し遂げるのは楽しい。


「ありがとう、助かったわ」


 エアリーがこちらに来て礼を言う。


 さすがに返事を返さないのは、最低だよね……。

 

「いいえ」


 なるべく声を低く出す様にしてそれに返す。


「おい。これどうするよ?」


 と、私達に向ってくるのは、助っ人として入ったパーティ―の男の人。

 手の中には赤く輝く宝石があり、よく見るとハートの形をしている。


「レアドロップアイテムね」


 エアリーがそれを受け取り、しばしそれをジッと見つめる。


「これは一番ダメージを与えた彼女に上げたいんだけど、どうかな?」

「俺は構わないぜ。確かに彼女の加勢がなければ危うかった感じあるしな」

「はい、どうぞ受け取って」


 うーん、途中から参加しておいて、もらっていいのだろうか?

 まぁ、もらえるなら、断る理由はないよね。

 

「ま、俺は心は使う気になれねぇな。核だったら売って金にすることも出来るから欲しいけどよ」


「ありがとう」


 宝石を持ってきた男の人の言葉を耳に入れながら、私はエアリーから宝石を受け取る。


 さて、あんまし長居して感付かれても嫌なので、さっさと先に進もうかな。


「先を急ぐので、これで失礼しますね」


 声を低く保ち、抑揚を付けず淡々とそれだけ伝え、私は彼女らに背を向ける。


「ありがとー、般若の人」

「またな、般若の人」


 お願いだから、その呼び方はやめて。


 次の階層に行く階段の前に辿り着き、手の中の宝石を確認する。


『ミノタウロスの心。

 これを使えば君も立派なミノタウロスだ!』


 どぉいうことぉー!?

 

 なんだこのアイテム。初めて見たレアドロップアイテムだが、なんだかとんでもない物をもらってしまった。

 どうりでさっきの人が、使う気になれないと言ってたわけだ。


 だが逆に、レアアイテムである以上効果はすごいはず。


 私は我慢して、手の中の宝石を握りしめて使うと念じる。


『パッシブスキル:これで今日からミノタウロス

    HP上限+30%

    斧ダメージ上昇+20%』


 新たなパッシブスキルを獲得した……。


 誰かこのゲーム開発者のネーミングセンスを何とかして!


 だが、能力はやはりレアだけあってかなりの性能。


 HPも5700くらいあったのが、6600くらいまで上がった。

 

 名前はあれだが、新たに手に入ったパッシブスキルに満足し、私は下の階へと続く階段を降りて行った。

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