第17話 ダンジョン:星屑の崖 その1

「誰なの?」


 私は一度背を向けた木へと振り返り、そこにいるであろう何者かに向って問う。


『目ノ前ノ木にいる』


 やはり天辺にいる烏に何かあったか……?


 天辺が見えるだけの距離を取って木に近付く。


『モっと近くダ』


 これ以上近付くと見えなくなるが、下に降りてくるのだろうか?


 木から数歩空けたところまで近付く。


『モットダ』


 いや、これ以上近付いたら木の表面しか見えないんですが?


 とりあえず言う通りさらに前に出る。


『見えるカ? 我ガ姿ガ』

「木なら見えますけど?」

『違う。モット良く見ヨ』


 目を凝らし木の表面をじっと見つめる。

 たしかによく見れば、そこにソレはいた。

 木の皮に掴まる一匹の蟻が。


「蟻、ですか?」

『ソウダ。今は呪イによリこノ姿でアルガ、元はモッと高位の存在でアル』


 蟻かよ! って、突っ込みたいところではあるが、そうなると気になる事がある。


「じゃあ、あの木の上の思わせぶりな烏は何なのよ」

『ただのオブジェクトだ』


 オブジェクト言っちゃったよ!


『我ガ元に戻るたメ、お主にはアル物を集めテもらいたイ』


 相手は蟻? だけど、これもお手伝いになるのかな?

 私は少し逡巡した後、返事を返す。


「まぁ、いいけど、何を集めればいいの?」


『漆黒の塵、10000個ダ』


 んん? 私の聞き間違いか、一万って聞こえたんだが。


「一万個って言いました?」


『ソウダ』


 聞き間違いではないらしい。

 まぁ、数が多めに設定されてるってことは、ドロップ数もそれなりにあるのだろう。


「それはどこで手に入るの?」


『ソレは知らン。自分で調べヨ』


 なんという投げやり。だがまぁ、よほど特殊なアイテムでなければ、攻略サイトを見れば解決する。


 私は一旦VRセットを外して現実へと戻る。そして、愛用のPCで攻略サイトにアクセスし、素材名で検索する。


 星屑の崖という場所の最下層にいるダーク・テラーというモンスターが落とすらしい。


 星屑の崖といえば、以前ドM戦士の人が中級者向けの狩場だと言っていた場所だ。

 場所もここからそれほど遠くない。

 



 ――ということで、星屑の崖に到着した私は、とりあえず物陰に隠れていた。

 単純に人が多くて人混みを避けている、というのもあるのだが、


「今日は何階で狩る?」

「今日は四人だから、6階の方がいいかも」

「おっけー」


 狩場の階層を話し合う私の視線の先にいるのは、よく知ったリア友プレイヤーのエアリーとその仲間だった。


 たしかに、出会った時点で私より少しレベルが上で、さらにパーティーでレベル上げしてるならば、彼女達が今この中級者向けの狩場でレベル上げをしていても、何も不思議はない。

 むしろ、Lv36程度でこんなところに来ている私の方がおかしい。


 というか、私のレベルで最下層まで行けるのか?


 エアリー達が星屑の崖の中に入って行ったのを見届けてから、私も後を追うように中に入っていく。


 星屑の崖はこの場所自体の名前で、狩場としてのダンジョンは崖の側面にある。崖上から20メートルほど壁面にそって階段で降りていくのだが、後から付けたような上から吊っている階段で、造りが木材とロープと簡素過ぎて見た目に恐ろしい。


 これ、高所恐怖症の人ここ来れないだろうな。


 本当に無理な人は平面の映像でも無理なので、リアルに高低差を感じるVRでは近付く事も出来ないだろう。


 ダンジョンの中は石造りの壁面が続き、20メートル角くらいの広さの部屋が、いくつも蟻の巣のように繋がっている構造だった。そして、それは全てが繋がっているわけではなく、迷路のようになっていて、どこかに下の階層に続く階段が設置されている。


 攻略サイトの情報を見た限り、おそらく最下層まで行けると思うのだが、初めて入る場所なので、様子を見ながら慎重に進もう。

 

 1~5階は凶暴化した鼠や蝙蝠など、結構どこにでもいそうなモンスターが多かった。あまり強くないため適当にキラーアクスで殴り倒し、階段を見つけ次第降りていく。


 全12階層のうちの半分、6階に来たところで一度足を止める。


 ここの階層ではおそらく、どこかでエアリー達がレベル上げをしているはずだ。


 一本道になってるところで戦ってなければいいけれど……。


 という私の願い虚しく、エアリー達は一本道になっている空間にて戦っていた。

 他の場所は既に探索済みで、彼女達が戦っている部屋を超えた先に、おそらく次の階層への階段がある。

 

「マジで、どうしよう……」


 こっそりと前の部屋とつながる通路から中の様子を伺う。


 以前あった時のメンバー、前衛にサヤカさん、回復にアグネスさん、後衛にエアリーともう一人、魔法使いの女の子の四人パーティーで狩りしているようだ。


 敵が湧きやすい部屋なのか、倒した傍からすぐに敵が出現する。


 ちなみに、前の部屋にも狩りをしているプレイヤーがいるため、私のところにはほとんど敵は来ていない。


「なッ! 嘘でしょ!?」


 誰かが上げた驚きの声。


 エアリー達がいる部屋から先に繋がる通路、そこから一匹の巨大なモンスターが姿を現していた――。

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