第15話 特殊クエスト その3

「報酬が紙切れって、どういうことだ?」

「まだわかんないだろ。すごい効果を持ってるのかもしれない」


 ドリアンさんの言葉に答えながら、デインさんが宝箱の中の紙を掴み取る。


 映画のチケットくらいの小さな紙で、なにやら文字が書かれているようだった。

 デインさん以外の私達は、自然とその紙を覗き込むように彼の周囲に集まる。


「特別・スキル獲得券?」


 私が書かれている名前を読み上げると、全員の頭にハテナマークが浮かんで見えたような気がした。


「裏に説明とか……書いてないな」


 デインさんが券をひっくり返してみるが、裏には何も書かれていなかった。


 ただ、スキル獲得と書いてある以上、なんらかの方法でスキルを得ることが出来るのだろう。


「普通に使ってみたらどうでしょうか?」

「たしかにそれが一番有り得そうだが、これは一枚しかない。使った人にしか効果がなかったら……」


 私の提案に、デインさんがみんなの顔色を窺う。


「気にすんなよ、PTリーダーでギルドマスターのお前が使うなら俺は文句はない」

「俺も」


 ドリアンさんがデインさんに向けて親指を立てると、その横で疾風さんも小さく頷く。


 三人は同じギルドだったんだ……。


「あ、私もどうせ途中から入った身ですから、別に気にしませんよ」


 三人がこちらに注目してきたため、慌てて両手を振って答える。


「わかった。なら俺が代表してこれを使ってみよう」


 デインさんがチケットを手に持ったまま目を閉じる。

 アイテムを使用する時は、そのアイテムを使うと念じればいいだけだ。使った後に選択肢があれば、それ用の選択肢画面が目の前に現れる。


「ぉ! なんか出たな」 


 ドリアンさんがいきなり出現したメッセージ画面に声を上げる。


『特別・スキル獲得券

 適用範囲:クエスト参加者

 内容:現在の自分の一次職及びその二次職の中から好きなスキルを一つ獲得することが出来る。

 ※このクエストの券で得られるのは一回のみ。』


『おぉぉぉぉ!』


 説明を読んで思わず歓声を上げる私達。


 無条件でスキルを一個取れるのは、かなりすごいことなのではないか? と思ったのだが、疾風さんの冷静な分析がこれを破る。

 

「でも、このゲームってスキルポイント余裕あるよな?」


 たしかに、気になってネットで調べたこともあるが、無駄に取らなければそこそこ余るという情報はあっても、足りないという情報は見たことがない。


 スキル確認画面を表示すると、画面の右上に書いてある、通常スキルを取る時に消費するスキルポイントとは他に、「特別SP:1」という文字が追加されていた。


 ふと顔を上げれば、他のみんなも同じように自分のスキル画面を確認しているようだった。


 まぁ、でも私は前から気になっていたスキルがあったため、迷わずにそのスキルを選択する。


 「特別SP:1」という文字が消え、代わりにマジシャンの上位、ウィザードのスキルである「全体化」が点灯する。


 全体化はマジシャンの使える単体魔法を、敵全員指定に出来るスキルだ。ただ、ウィザードになれば強力な全体魔法を覚えるし、ウィザードで使える強力な単体魔法には効果はないため、現状死にスキルとされている。


「決めました」

『え、はやっ!』


 私がすぐさま決めたことに、三人は同時に驚きの声を上げる。


「ちなみにどんなスキルを?」

「全体化です。ウィザードになると死にスキルですが、マジシャンである内は役に立つし、どうせポイント消費せずに取れるんでこれにしました」


 三人とも私の意見を聞いて、「なるほど」と納得した様子で、再びスキル画面に視線を戻す。


「よし、俺はこれにする。アサシンスキルのバックエンド・キルだ。アサシンになったとしても、かなり前提スキルをとらないと取れないからな」


 疾風さんがとったのは、前にフェンリルさんが使っていたスキルだ。アサシンの使えるスキルの中ではかなり強力なもので、当然そこに辿り着くには他にも色々なスキルを取っていく必要がある。


「俺はソードマスタースキル、フォース・ブレイドにしておくか。いずれは取ろうと思ってたスキルだけど、今取っておけばレベル上げが楽になるだろうからな」


 デインさんはが取ったのは、武器種剣でありながら遠距離攻撃が可能なスキルだ。ファイターにはそんなことが可能なスキルはないため、戦略の幅が広がりそうだ。


「なら俺は、ミリオネアのゴールドラッシュにしとくかな」


 ドリアンさんが取ったのは、マーチャントの二次職ミリオネアのスキルだ。低確率で敵を倒したときに金塊がドロップし、結構な高値で売れるのでいい金策になると、情報をまとめたサイトに書いてあった気がする。


「特殊クエストらしい、結構いい報酬だったな」

「だな」

「よし、そろそろ先に進むか」

「ですね」


 こうしてボス討伐のクエストの報酬を受け取った私達は、馬車へと戻り目的に向けて再出発するのだった――。




 クエストの終点は森を抜けたところにある小さな村で、辿り着くまでに何度かモンスターと遭遇したが、街道で出会った敵と大差ないため、特に苦戦することなく辿り着くことが出来た。


「俺達はここから東に向かって、南にある港町まで行くんだが、あんたはどうする?」


「私はここで少しクエスト探します」


 デインさん問いに、私はすぐ側にある村を横目で見る。


「そうか、始めは何事かと思ったが、あんたのおかげで結構面白い体験が出来た。有り難う」

「いいえ、こちらこそ有難うございます」


 丁寧に頭を下げるデインさんにならい、私も頭を下げる。


「それじゃ、そろそろ俺達は行くよ」

「またどこかであったら、宜しくな」

「また宜しく」


「はい! またどこかで!」


 歩き出す三人の姿を、私はしばらく見送っていた。

 

 今までは一人でプレイしてきたが、やはり一緒の時間、体験を共有出来るのは楽しい。


 もし機会があれば、私もフレンドを作ろう。

 リア友のエアリーも、結局フレンド登録出来ていないので、今のところフレンドは一人もいない。

 

 でもまぁ、とりあえずはクエスト探しかな――。

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