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黒蓮
第一章 意志
第1話 プロローグ
11歳・・・僕は両親に捨てられた・・・。
この世界では厳然とした階級制度がある。
一つは身分。上から順に公爵ー侯爵ー伯爵ー子爵ー男爵ー騎士爵となっている。爵位を持たぬものは平民として貴族から搾取される存在と位置づけられている。
もう一つは才能。この世界では5歳の頃に神様から才能が与えられるとされている。5歳の誕生日に神殿から与えられる
さらに持てる才能の数は血統によっても変化する。平民であれば一つから多くても3つの才能。そして爵位を持つ者であれば最低でも4つ以上で、歴史上最大の才能数は7つだったと言われている。
この才能の種類は多種多様なのだが、大きく分けて生産系、武力系、文化系、その他となっている。生産系の才能であれば、調理師や鍛冶師など。武力系であれば火魔法や身体強化の才能など。文化系であれば研究や算術、そしてその他はその3つにも属さないもろもろという事だ。
通常平民が貴族になることは難しいが、この才能によっては一代限りの騎士爵から、成果を残したり功績を挙げれば永代貴族となる男爵に叙勲されることも珍しくない。しかし貴族位であったとしても十分な成果、功績が無い家は爵位を剥奪され平民へ堕ちることもある。
この為、武力系の才能であれば武勲を挙げる事、文化系であれば研究の成果や国の運営の成果を挙げる事で成し遂げられる。しかし、生産系ではそのチャンスに恵まれることはほとんどない。またその他の才能に至っては、その才能だけで活躍することが難しいことが大半で、例えば索敵や馬術などがその他に分類されるのだが、その才能単体では他の才能と合わせたり、他者と協力して最大限の効果が発揮するものが大抵で、単独では成果を挙げ難いものだった。
5歳の頃に神様から与えられた才能はたゆまぬ努力を続けると、ごく稀に上位の才能へと進化することもある。歴史上進化した才能は3つしか確認されてはいないが、剣士の才能を持ったものが剣聖の才能に変化したり、経営の才能が統治者の才能に変化したりとされ、上位の才能が花開けば例外なく歴史に名が刻まれる人物となれる。
そんな世界で僕ダリア・フリューゲンが5歳の誕生日に
父上が王立図書館に足を運び確認してきた才能図鑑にはたった一行の説明文があったとのことだった。内容はその名の通り速くなること。
父上が内容を確認してきたその才能を使うと確かに速く歩けた。ただ、筋肉が成熟してない為なのか、あまりに速く動こうとすると筋肉が耐えられない痛みを訴えてきて泣きながら転げ回ってしまった。
その僕の姿を見た両親の表情は今でも覚えている。あのゴミを見るかのような表情を・・・。伯爵家の貴族の家に生まれながらも、〈その他の才能〉を一つだけという貴族としては例外と言えるほど使えないとされる〈その他の才能〉だけを持ってしまった子供は、貴族の家においてはただ家名を汚すだけの存在に成り下がってしまった。
伯爵家である僕の家において貴族の血統なのにもかかわらずたった一つの才能しか授からず、しかもその他に分類される使えない才能。両親が僕を見限るのは火を見るよりも明らかだった。
翌年弟が生まれ、両親の興味や愛情はその弟に全て注がれた。最初の頃はなんとかして両親の気を引こうとあれこれしたのだが、相手にしてくれたのは家に仕えている庭師の爺ちゃんだけだった。
やがて僕は何もしなくなった。ただ生きているだけの生活、そこに楽しみも夢も何もない。無気力に生きるだけ。両親は僕を存在しないものとして生活した。
そして弟が5才になり才能を授かる誕生日、両親は僕を捨てた。
世間体を考えわざわざ馬車で山奥まで連れていかれ、遊んでいるうちに迷子になってしまったというシナリオまで作って森の奥で取り残された。
一人取り残された森の奥で泣くこともせず雨に打たれながら天を仰ぎ、魔獣に喰われるか餓死して死ぬのか、最後の瞬間は苦しいのか、楽なのか・・・そんな考えが頭の中廻って生きるという思考は立ち止まっていた。
僕は何も食べず、何も飲まずに数日その場に立ち尽くしていたようだ。そして幸か不幸か僕は一人の人物に拾われた。うちに仕えていた庭師の爺ちゃんが手を回していてくれたらしい。その人は爺ちゃんの古い知り合いで世捨て人のような生活をしている老人だった。
その老人は最初に選択しろと迫って来た、「死にたいか、生きたいか」どちらか選べと。才能を与えられてから6年間、十分に生きたとも満足だったとも言えない人生。なんの思い出も無い、楽しみもない・・・これで人生が終わるのは・・・あんまりだ!こんな人生を
「・・・生きたい!生きて・・・復讐してやる!」
「・・・そうか・・・ならば儂がその
「ダリア!」
「ではダリアよ、ついてこい!」
その時僕はどんな表情だっただろう。生気の無い、光の無い目をしていると庭師の爺ちゃんにはいつも言われていた。でもこの時この瞬間、確かに僕には目的が出来た。例えそれが復讐したいという他人から見れば後ろ暗い理由だとしても、この6年間の中で初めて抱いた僕の強い意志だった。
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