第8話 ~白雪奏音の独白~

「ふぅ~」


 お風呂から上がり、髪も乾かないままにベッドへと飛び込む。帰宅してから数時間は経っているというのに、まだ気持ちは昂ったままだ。


 理由は……言わずもがな。


 ホントのところ、もう駄目だと思っていた。みんな入部先を決めていたのは知っていたし、唯一フリーの不知火くんはもうFBをしないとばかり思いこんでいたから。


 だから、職員室に彼がいた時は心底驚いたし、入部してくれるって聞いた時は飛び上がりたいほど嬉しかった。実際に飛びついちゃったし。


「ふふっ」


 思い出すと顔がほころぶ。……絶対に気持ち悪い顔してるな、わたし。

 でも仕方がないよね。ずっと話してみたかったんだもん。


 想像通りにぶっきらぼうで。

 想像以上に辛辣で。

 だけど不思議と心地良くて。


 それに彼がどうしてFB部のない峯ヶ崎学園に居るのか不思議だったけれど、理由を知って納得した。


「でも、どうして……」


 原因は何なんだろうか。少なくともわたしの知る限りでは――まあ、たった数十分の動画でしかないけれど――彼が簡単に諦めるとは思えない。


 だからこそ、その在り方にわたしは救われた。


 気にならないなんて嘘だ。

 気にしないなんて無理だ。


 彼はわたしにとって恩人なのだから。

 

「……ダメだよ。気を遣うななんて、さ」


 彼を放っておくのは、かつての自分を見捨てるようなものだ。一分の狂いもなく、なんて言わないけれど、好きなことを満足にできない辛さは、苦しさは、痛いほど身に染みついている。


 彼にFBを続けさせるのはひどい仕打ちなのかもしれない。余計なお世話かもしれない。それでも、やっと出来たこの繋がりを手放したくなかった。


 果たして、誰のために?


「って、ダメダメ! ポジティブシンキング、ポジティブシンキング」


 自然と後ろ向きになる思考を、頭を振り払って遮断する。こんなんじゃまた怒られちゃう!

 それにFBを続けるうちに、不知火くんの問題も改善されるかもしれない。他にもわたしに出来ることがあれば、なんだってやってやる。


 本人に伝えたところで……ううん、そもそも伝わらないだろうけど。


 それでも、いつかきっと届けたい。


 ――この想いを。

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