5話


其は怨念の結晶。地に沈みし同族の願い。

倒れ伏し流れた血は生け贄となり代償となる。代償を捧げられし星は其の願いを聞き届け唯一匹に試練を課す。

魔物は共通して背に同族の血を纏い星に眠る精霊の力を宿す。

其の名を……



「ふー……全然角でなかったな……」


ウサギを5匹の群れになる40匹まで狩った後、再度レベルが上昇したのでスキルを取得し一区切りとした。

最初の街を出てすぐのモンスターなので経験値効率はどんどん悪くなった。たぶんスライムの半分程度なんじゃないだろうか。僕以外の初心者プレイヤーもいたが、少し狩った後はだいたいのプレイヤーが奥へ進んでいった。


【コマイヌ】

称号 【駆け出しの冒険者】

BLV:3

CLV:3


H P《Hit Point》 : 500

M P《Magic Point》 : 100

STR《Strength》 : 10 +2

VIT《Vitality》 : 10

DEX《Dexterity》: 10

AGI《Agility》 : 10 +52

INT《Intelligence》: 10


スキル


【剣術:TLV2】

 |---片手剣:LV1 - スラッシュ

 |---短剣:LV1  - ラッシュ


【軽装戦士:TLV1】

 |---歩方:LV1  - ステップ


ここまで来たらAGIに振ってみるのも面白そうだとは思ったのだけれど、ウサギを狩り続けてなおまだ体が振り回されているので保留。とりあえず攻撃力が欲しかったのでSTRに振った。

  

スキルはオネーチャンさんのところでおすすめされたステップ。その名の通り素早く横に跳ぶだけのスキルだけど、スキル硬直中にも出せる。

移動距離も一定のためAGI振りでも吹っ飛ぶことなく回避ができる、今の僕にぴったりと言っていいスキルだろう。実際ウサギ相手にダメージを受けることは少なくなった。ちなみに最大披ダメージソースは岩。時点で地面。


さて、目標の50匹まであと10匹だ。周りにウサギもほとんどいなくなってきたし移動しようか。


「……」


何か僕のことを遠巻きに観察しているプレイヤーがいた。なんだろうか。動物保護の観点から見たこのゲームのウサギ狩りについて言われると少し困るけど。


余り深く気にせず5匹の群れを2回討伐し次の戦闘。


ふと視線をそらすと一匹のウサギが僕と同じ格好の初心者プレイヤー……先程観察していた人ではないプレイヤーを角で貫いていた。そのウサギは他のウサギよりも一回り大きく、背に通常のウサギを従えて6匹の群れとなっていた。何よりも違うのは魔物のウサギを象徴する角、通常一本のそれが二本生え根本から捻れていた。


【デュアルホーンラビット】

称号 : リベンジャー


観察してみると種族名が違っている。しかも称号なんてものまでついていた。

直訳して二本角ウサギ?でいいのかな。そのまんまだけどイッカクウサギよりマシか。


元からターゲットは僕のようで初心者プレイヤーは哀れな犠牲だったらしい。こちらを見る二本角に対し僕は手を出さずまずは様子見。武器を構えて相手の出方を伺ってみる。通常のイッカクウサギなら溜めモーションの後に突進だけど。


【 Action Skill : 《突進》 】


二本角はそうもいかないようでいきなり飛び掛かってきた。しかも通常のウサギと違って突進というスキルにまでなっている。

ステップを発動して回避することに成功したけれど、さっきステップを取得していなかったら当たってたと思う。


突進というスキルがプレイヤーも取得できるかわからないけど、見たことないあのスキルは体に捻(ひね)りを入れて飛び込むスキルらしい。通常より角の攻撃力が増していた。

回避したため二本角は岩に向かったみたいだけど角が当たった部分がドリルに当たったようにえぐられている。


あれ当たったらやばいんじゃないかな。僕VITが初期値の10だし。


モンスターにMPの概念があるのかはわからないけれどステップよりは消耗が激しいだろうし丁寧にモーションを見極めながらダメージを蓄積……


【 Action Skill : 《突進》 】


「うわあ!気にせず連発!?」


先程の失敗などなかったように土煙の中から《突進》された。そりゃモンスターだから様子見とかないよね。


反射神経のごり押しで無理矢理体を反らすことはできたがステップほどの距離を稼げずドリルのような角に胴体がカス当たりした。

そのカス当たりだけでかなりの衝撃が響き、HPバーを確認すると半分ほど削れていた。


いやこれいくら僕が初期値(ぺらぺら)だとしても序盤の敵にしては強すぎでは…


幸いにも通常のウサギたちは一騎討ちに手を出さないらしくこちらをじっと見つめている。しかし僕が逃げ出そうとする素振りを見せるだけで背後に回ってくる程度の手助けはあるらしい。


【 Action Skill : 《足刈り》 】


二本角は突進一辺倒ではないようで角を薙ぎ払うように足元へ攻撃してきた。ウサギらしい打点の低さ、そして出の素早さから《ステップ》する間もなく、跳ねるように回避するしかなかった。


【 Action Skill - Chain : 《突進》 】


「嘘でしょッ…!」


それすらも読んでいたウサギは空中で身動きのとれない僕に対してスキルをキャンセルし繋げてきた。

《ステップ》は空中では発動することができない。草の葉1枚の上だろうがモンスターの上だろうがどこかに触れていればいいのだけど、完全に空中で捉えられた。


そうだ、捉えろ。主導権を取り返せ。

……そこッ!


【 Action Skill : 《スラッシュ》 】


《突進)に合わせて《スラッシュ》をぶつける。

STRがモンスター側にもあるのか知らないけど、2振った程度の僕の筋力では力負けした。しかし目的はそこではない。


【 Action Skill - Chain : 《ステップ》 】


空中ではなくモンスターと接触している判定となった今、ステップを踏む。そのままステップよいうより相撲のうっちゃりのような形で二本角の後ろに回り込んだ。


【 Action Skill - Chain : 《ラッシュ》 】


無防備な背中に短剣のスキルを叩き込む。光を帯びた短剣は切っ先を余すことなくぶつける。


「かったいな……」


獣皮が石のように武器を通さなかった。僕とは比べるまでもないVIT様みたいだ。振ろうかな。

しかしラッシュの中の数度は突き刺さっていた。その数度はクリティカル判定が出たようで着実に二本角にダメージを与えられている。


二本角は格下に傷を負わされたのが不快なのか鼻を鳴らして地面を足で鳴らし続けている。

いや結局はAIだからあれもプログラミングされた行動には変わりない。ダメージを食らったからモーションが増えた?


「ダメージで隙が増えるタイプなら……攻め続けるのが正解かな」


隙を晒しているのか誘っているのか動かないウサギに対して短剣を振りかぶる。


【 Action Skill : 《足刈り》 】

【 Action Skill - Chain : 《昇角》 】


また新しいスキルだ。足元を攻撃するスキル、二本角は最初から避けられるのをわかっていたように突進ではないスキルを発動した。突進の縦版……つまり角を振り上げる、その際後ろ足で飛び上がるスキルだった。


「学習されてる、めんどくさいなぁ…」


急ブレーキをかけて横に転がる。AGIによる加速ですっ転んだような不格好さになったがなんとかかすり傷で対処できた。


まぁかすり傷2回で致命傷なんだけど。先程街で買った初心者用の回復アイテムである『初心者ポーション』をがぶ飲みする。お腹に貯まる感覚はないのでがぶ飲みは表現だけだけど。


HP自体も増やしてないので初心者用の安いポーション2つで全回復する。10本買ったしあと4回は同じことができるね。


クールタイムか温存か様子見か。AIがどのような判断を下したかはわからないけどスキルでもない通常の突進が繰り出された。しかし先程よりも明らかに勢いも速さも足りない攻撃は簡単に避けられ、こちらもスキルを使わず短剣を突き刺す。


今回は狙いを絞り背…通らず…頭…硬い…足……通った!


角のある頭が一番丈夫で、背、足と柔らかくなっていくのかな……ウサギなのに変な生態だ。


【 Action Skill : 《一蹴》 】


後ろ足を蹴り上げるスキル。意表は付かれたが剣も構えており相手は反射的に使用しただけのスキル。こちらの攻撃を合わせるだけで簡単に弾けた。


そのまま背後を取り続け執拗に後ろ足を斬りつける。ダメージを負うと動きを止め、背後には動きが読みやすいスキルしか使用しない。仮に無理やり突進されても僕のAGIならステップで背後に回り込める。


「ごちそうさま。ありがとうございました」


弱りきったウサギにスラッシュとラッシュを叩き込みとどめを刺した。正面からの殴り合いという点では強敵だった。ステップを教えてくれていなかったら弱点すら探れずにデスしてたな。


レベルが2つも上昇していたので序盤にしては強敵だったのだろう。他の敵にも群れのボス的なモンスターはいるのだろうか。



其は怨念の結晶。地に沈みし同族の願い。


『星へ生贄が捧げられました』

『反撃者からの変換を開始します』



レベルのステータス割り振り、新スキルの取得をしてから二本角からのドロップを確認しようと見るとウサギの死体、そしてそいつが引き連れていたウサギがいなくなっていた。


いやウサギだけじゃないな。よく見ると始めたばかりのプレイヤーらしき人たちもいなくなっていた。確かに僕がウサギを狩り続けたし、初心者にしても美味しくないモンスターとはいえさすがに見回して一人もいないなんてことは。


『CAUTION!ボスエリアに侵入しました!ボスが接近中!』


「え、門から出てすぐにボスって」


二本角の死体があった場所から蠢く泥の塊のようなものが浮かび上がる。そこら中から赤いどろどろとした、まるで血のようなエフェクトが泥の塊に集まっていく。

遠くから雷のような音が響くと泥の塊に光が落ちた。そしてボスの接近を知らせるのと同じシステムメッセージが浮かび上がった。


『魔物は共通して背に同族の血を纏い星に眠る精霊の力を宿す。

其の名を……復讐者(アベンジャー)』




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