第2話 神様って本当ですか?

 白い。白い。

 いつの間にか、どこまでも続く真っ白な場所に私はいた。

 そして、声の主を探そうと、あたりをキョロキョロ見渡みわたした。

 誰もいない…。


「ああ、君から私の姿は見えないよ。」

 え?

 じゃぁどこにいるの?そしてこの声はどうやって?

「私は君の頭に直接ちょくせつ話しかけている。」

 !?


――私の思考しこうがわかるの!?


「ああ。そうだとも。」

 抑揚よくようのないものすごく機械的な声だ。以前、インターネットでボイスソフトのデモ動画を見たことがあるが、それによく似ている。

「あの、ここはどこですか?私は死んでしまったのですか?」

 目の前に向かって話しかける。

 正直、どこに向かって話して良いか分からないのだが、とりあえず目の前に誰かがいるていで話してみる。

「この場所は説明が難しいな。死後の世界、とでも思ってくれたまえ。そして死後、つまり君は死んでしまった。」

 はっきりと死を告げられたことに胸が苦しくなった。

 しかしなんだろう。場所の説明が難しいって、歯切はぎれの悪いこの物の言い方は…。


――あなたは、神様なのですか?


 思わずそうつぶやいた。

「そうだな。君たちから見たら神様と言ってもいい存在だろう。」

 …やっぱりそうなんだ。でもなんというか、神様とはもっと超然ちょうぜんとした存在だと思っていた。この人間くささはいったいなんだろう?本当に神様なのかな?まさか、神様の名を語った悪魔…とか?

「古来より神と悪魔は表裏一体。神のような恩恵を与えることもあれば、悪魔のような呪いを与えることもある。はそういう存在だ。しかしながら少なくとも今この時点において、僕は君の魂を救う味方だと思っている。信じる、信じないは任せるがね。」

 信じるも信じないもないだろう。死んで死後の世界に行って神様と話している!?そんな現実として受け止められないことが立て続けに起こっているのだ。


 …我ながらよく冷静でいられるものだ。

 どこかでこの展開を知っている気がする。だから私は冷静でいられている気もする。

 そうか、似ているのだ。

 大学生のころ読んだライトノベルのシチュエーションに。

 死んで神様の世界で特殊とくしゅな強さ…なんて言ったっけ。あ、そうだ。チートだ。チート能力を手に入れて異世界に行く異世界転生てんせい物語に…。


「そうか。異世界転生てんせいの本を読んだことがあるのだな。うん、この先の説明がはぶけるのは有難ありがたい。」

 相変あいかわらず抑揚よくようのない話し方なのだが、わずかながら上機嫌と思える口調で神様はそう言った。つまり、私はこれから何らかの力を授かって異世界へと行くということなのだろう。

「ああ。そうだとも。君には力を授けよう。のぞみを言いたまえ。」


「あの、それでしたら、元の世界に生き返るというのは…」

「すまないが、それはできない。君のいた世界では、君は世界に死亡認定にんていされているんだ。それをじ曲げるわけにはいかない。」

「そうですか…。」


 生き返ることはできず、どうやら異世界転生てんせいするしかなさそうだ。

 そして困った。

 いきなり「転生てんせいさせるから欲しい力を言え」と言われても何が何やら。それにどんな世界に転生てんせいするかも分からないというのに。

「えっと、転生てんせい先はどんな世界なのでしょうか?」

「うむ。地球によく似た世界だが、人間以外にも狼人族ろうにんぞくやエルフなど様々な種族しゅぞくがいる。いわゆるファンタジーの世界だな。」

 これまた、私が読んだ異世界転生てんせい物語によく登場した世界観せかいかんだ。

「モンスターとか魔王…みたいなのはいるのでしょうか?」

「人に害をなすのがモンスターという定義ならいる。人を含めた動物を捕食ほしょくするものもいる。だが、魔王やそれにるいする力を有した人類の脅威たるものは今のところいない。大型モンスターは人里離れたところをねぐらにしているので、よほどのことがない限り、人が命を落とすことはない。むしろ、小型モンスターを狩った肉や皮等を有効利用している。」

 良かった…。魔王がいないのはひと安心。今のところってのが気になるけど。

狩猟しゅりょうがまださかんってことなんですけど、文明ぶんめい水準は高くないのですか?」

「科学技術は低い。その代わり魔法と魔法文明が発達している。」


 はい!?魔法!?

 これは、全ての女の子のあこがれ(だと私は信じている)魔法少女になれるということなのだろうか!?

 私は不覚ふかくにも心躍こころおどらせてしまった。自分が死んでしまったことを忘れて…。っていいじゃない、私だって日曜の朝のアニメ、好きなんだから…。

 

 その後も詳しく説明を求めると神様はきちんと返事をしてくれた。

 文明的には中世ちゅうせいヨーロッパといったところ。

 お城には王様が住んでいて、貴族が領地りょうちおさめている。

 城の周りには街が広がり、その外側には畑が広がっているのが一般的なのだそうだ。複数ふくすうの国家はあるが、国家同士の戦争は今のところ起きていないらしい。


 …今のところって…いつか起こるかもってことなのかな?

 それはヤだなぁ…。


 そして生き物には全て能力値が設定されていて

・体力 これが0になると動けなくなるとのこと。体を動かしたり、ケガや疲労ひろうでも減少げんしょうするけど、休んだり寝たり治療ちりょうを受けたりすると回復する。

・生命力 これは0になると死んじゃうとのこと。何もしなくても徐々じょじょに減っていく。病気などで大きく減少げんしょうすることもあるとか。

・筋力 力の強さ。重いものでも持てるようになるのかな?

・魔力 魔法の強さ。

・魔法力 これが0になると魔法が使えなくなる。時間が経過すると回復する。

 などなど…。

 すべてを数値すうち管理かんりするとか、ほんとゲームの世界だなと思った。

 でもそれは見た目が幼い子どもや小さな昆虫であっても、自分より高い能力値を持っていたらかなわないということだ。

 これはマズい。


――能力値は最大でお願いできますか?


 そういえば私の読んだ異世界転生てんせい小説では、主人公がレベルアップするたびに何かの能力を上げていた。

 でも、私はファンタジーゲームとかRPGにはうとい。

 何がどれくらい必要かなんてさっぱり分からない。

 それなら、最初から最大値だったら何も考えなくていい。大は小をねるって言うもんね?

 しかも最大値ならうっかりモンスターにやられたり、人殺しにおそわれたりしても生きびられそう…。


「いいとも。能力値は最大、だね。」

 無茶むちゃなお願いかと思ったが、意外いがいにも神様はすんなり了承りょうしょうしてくれた。しかも

「他には?」

 と言ってきた。他に何があるのだろう?

「そうだね、あとはお金、地位、ジョブ、スキルだな。」

 また頭の思考を読み取ったのか、神様が続けて言った。

 お金と地位はなんとなくわかる。でも、ジョブとスキルは何だろう?


 これまた神様は詳しく説明してくれた。

 ジョブは平たく言えば職業しょくぎょうの事らしい。その世界の住人は能力値に応じてジョブを選ぶ。私は能力値がMAXなので、どんなジョブでも選べるらしい。

 魔法を使うジョブは魔女とのことで、私は魔女を選択した。

 …いいじゃない。

 誰に言うわけでもなく、私はボソッと呟いた。


 スキルは、もの凄くたくさんの数があった。

 「二刀流にとうりゅう」とか「消費しょうひ魔法力減少げんしょう」とか、なんとなく分かるスキルもあるが、よく分からないものだらけなので、能力値と同様に全部もらえますか?とたずねたら

かまわないが、持つことで不幸になったり、うとまれたりするスキルもあるぞ?」

 と神様に注意されてしまった。この神様、意外に親切かも…?

 だからと言ってひとつひとつ説明を受けるのも…

 結局、能力値が高いのでスキルは無くてもなんとかなるだろうと思った私は、スキルは辞退じたいした。

 地位も辞退じたいした。侯爵こうしゃくとか伯爵はくしゃくとか…なんだか面倒めんどうくさいトラブルに巻き込まれそう、と思ったからだ。


 お金は日本で言うところの1万円が中金貨1枚にあたるらしい。

 紙幣しへいが無いので、たくさんのお金を持ち歩くのは大変だし、大金たいきんはトラブルの元。

 でも、当面の生活に困るのも嫌だったので、50万円分の貨幣かへいを受け取った。


「最後に。」

 と前置きして神様が言った。

「君の年齢は16歳にしている。恋愛れんあいを楽しむもよし、結婚けっこんするもよし、ひとりで生きるもよしだ。今回、君のたましい救えサルベージできたのは僥倖ぎょうこうだった。前世では不遇ふぐうが続いたようだが、新しい世界で幸せに暮らせることを願っているよ。あと、容姿は作り替えざるを得なかったが…」


――これは半分私の趣味だ

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