第4話 開戦、死神たちの夜

「では、今までの内容をまとめるとしよう」


 混乱しきったこの状況をなんとか正しい方向へもっていこうと、リームは話をまとめることにしたみたいだ。

 俺からすれば、貴方の存在がもう既に理解不能なのだが。


「まず、私『リーム』と主人である死神『シナトス』は、今下界で大流行している謎の病の犯人を探っている」


「はい」


「そして君『城内 光』は『特異器官』と呼ばれる能力のうち『次元眼』という目の能力を持っている」


「はい」


「だから『特異器官』持ちの君に、君のお婆さんを生き返らせるためにも、この謎の病の原因の一端である『クロカゲ』退治に手を貸してほしいというわけだ。分かったかい?」


「はい、分かりやすい説明ありがとうございます」


 本当に綺麗にまとめたなこの鎌。

 今までのシナトスの説明はなんだったのか、と言いたくなるぐらいだ。


「で、お嬢はまだ『クロカゲ』の説明はしていないのだろう?」


「うん、まだしてない」


「ならば、私がお嬢の代わりに説明しよう」


 良かった。

 ちょっと失礼だが、説明に関してはリームの方が絶対上手いので安心した。


「『クロカゲ』というのは、君たちの認識で言うウイルスと同じものだ」


「ウイルス?」


「そう、『クロカゲ』に憑りつかれた人間はあの謎の病に感染してしまう」


「え? じゃあ、その『クロカゲ』っていうのを倒せばいい話では?」


 普通に考えればその発想に至るのは当たり前だ。

『クロカゲ』が病の原因ならそれを倒せばいい、そう思うのが普通だろう。


「ところがそうもいかないの」


 しかし、シナトスは残念そうな表情でそう言った。


「倒しても倒しても、誰かが『クロカゲ』を生産し続けてるせいで一向に数が減らないのよ」


「……? つまり、貴方たちの最終目的はその『誰か』を捕まえることっていうわけですか?」


「そういうことだ」


 なるほど。

 確かに、『クロカゲ』を倒せばいいだけなら俺なんて必要ないだろう。

 やはり真の黒幕というのが、この事件にもいるようだ。


「それとそうもいかない理由はもう一つ」


「え?」


 と、俺が聞き返すと同時にビルに体が浮かぶぐらいの振動が響き渡る。


「じ、地震!?」


「うわさをすれば何とやら、ね……」


 憂鬱そうに、しかし同時に冷静にシナトスは言い放った。


「『クロカゲ』には厄介な護衛がいるのよ」


 床に転がり落ちた俺はしばらく立てなかったが、シナトスに抱えられなんとかビルの外に出た。

 そこにいたのは―


「な、なんだアイツ……!」


 首のない馬に乗る甲冑の化け物。

 矢が刺さりまくったボロボロの鎧の上に、一つ目の模様で顔を隠した頭がある。

 両手には30人ぐらい同時にぺしゃんこにしてしまいそうな鉄球をもっていた。


「これが『護衛』、人々の無念を吸って成長した『クロカゲ』の進化系」

 鎌ことリームを構え、シナトスは言う。


「私とお嬢の仕事はこれを倒すことでもある、君にはスマホなりなんなりを使って見た目や戦い方などの情報を集めてほしいのだよ」

 リームはこんな状況だというのに、なんだか愉快に語る。


 もちろん目の前でべらべらと喋っていれば向こうもこちらの存在に気づくに決まっている。


【生者? 生者? 生者デアルカ? 生者デアルカ?】

 ギチギチとバグった機械のような声が響く。


 忘れていた。

 この少しの時間で、俺は忘れていたんだ。

 彼女たちはなんだか愉快で面白いが、決して人間ではない。

 彼女たちはこんな化け物を前にしても、怯えることない何者かなのだ。


 リームとシナトスは少しだけ楽しそうに声を合わせる。

「「さあ、死神の夜の始まりだ!」」


 そして、目の前の化け物に勢いよく向かっていった。

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