代表的日本人  著者 内村鑑三 訳 鈴木範久

代表的日本人と聞いたときあなたならだれを挙げるだろうか。

まずそれには日本人とはどのようなモノなのか明確に示すことが必要になるのだろうが、たいていの現代日本人が言葉で日本人を示すとき「協調性」「同調性」という単語を使うのではないかと思う。

その場合代表的日本人を挙げることは非常に難しいものになる。

なぜなら「協調性」や「同調性」があるのが日本人の特徴ならば、代表的日本人が存在すること自体が日本人の定義に矛盾することとなり、結果的に言葉に詰まるのこととなるからだ。

かくいう私もそのような現代日本人の一人なので、今回の「代表的日本人」という題名の本を見つけたときどのような定義付けをして、だれを代表的日本人として挙げるのか非常に興味を抱いた。


今回の本は五章に章立てられており、一章ごとに一人の日本人を紹介しているので本全体としては計5人の日本人を紹介している。

順番にあげていくと一章は西郷隆盛、二章は上杉鷹山、三章は二宮尊徳、四章は中江藤樹、五章は日蓮上人、である。

大半の人は上記の五人の名前は聞いたことはあるだけでこの人達がどのような人物なのか詳しくは知らないと思う。

私も故郷鹿児島の偉人である西郷隆盛を除くと他の四人は教科書に書かれているようなことしか知らなかったので、これらの人たちの大まかな人生を知れたこと自体が良い勉強になった。

また、この本のなかでおもしろいと思った考えが多くあったので、いくつか紹介したいと思う。

一つ目は、「どんなに方法や制度のことを論じようとも、それを動かす人がいなければ駄目である。」という言葉だ。

これは西郷隆盛が言ったとされる言葉ですが、この言葉は前回紹介した「最後の講義~映画とはフィロソフィー~」で語られた大林さんの考えにも通じるところがあり興味深かった。

二つ目は、「私どもは古いものがあらゆる面で新しいものより優れているというわけでない。(中略)新しいものには、まだ改良される余地があり、古いものには、まだ再活用される要素があるのである。」という言葉だ。

私はこれまで伝統や先人の教えを大事にしなさいと言われる中、なぜ古いものや考えを無条件で受け入れるようなことをしないといけないのかと心の中でおもっていました。

けれどこれは半分正解半分間違えだったのだと思う。

伝統や先人の教えは始めから完璧ではなく、受け継がれていく中で新しいものを吸収しながら少しずつ変わっていき再活用されていったのだと気付かされた。

三つめは宗教についての作者の考え方だ。

これについては第五章「日蓮上人」の冒頭で述べられているのだが、作者はここですべての人が宗教と関わりを持っていると明言しています。

これは人間が世の中が与えうる枠と自らの能力を超えた願いをもつという性格上の理由に加え、人間は自分の人生を意味のあるものと認識しいずれ訪れてくる「死」の恐怖を少しでも和らげるために「宗教」は人それぞれ形を変え不可思議ものとして人の内部に存在するということらしい。

「宗教」を「神の存在」または「それに連なる信仰対象の存在」とイコールに考えていた私にとって、宗教を「人間の不思議な部分」とする考えは新鮮でした。

また、それを踏まえた上でこの本を振り返ってみると紹介されたどの人物も明確な「宗教」を持っていたことが思い出される。

これらのほかにも作者が思う理想的な教育制度など興味深い点がたくさんある。

今回の本は海外に向けて書かれていたからか正直、今の感覚では過剰気味なところやその人物の行動をすべて肯定しているところが少しあるが、その分割り切った考えがされており読んでいておもしろかった。

何度も読み返したい良い本だ。


今回の本

題名 代表的日本人

著者 内村鑑三

訳 鈴木範久

出版社 岩波文庫

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