第8話 ショーグン三船と褒美。Shogun Mifune och belöning.

前に書いた日記の中で出てきた〝ホービ〟って言葉。どう言う意味だろ?って思ってる人もいるかしれないから、説明したいな。


皆は、三船敏郎という日本の俳優を知ってる?

日本で活躍した映画俳優だけど、世界でも〝ショーグン〟(軍事指揮官みたいな意味らしい。かっこいいね!)としてよく知られているハンサムな人だ。


アキが余りにも日本を恋しがるから、この前ケーブルテレビで見られる昔の日本映画を見たんだ。1958年にあの黒澤明監督が撮ったとても有名な作品。僕は黒澤のことは噂に聞いていたけど、今まで実際に彼の映画を見たことがなかった。だから、今から半世紀以上も前の白黒映画なのに、すごく興奮してしまったんだ。


その映画の中で、ショーグンが〝ホービ、ホービ!〟と喜ぶシーンを見て、不思議に思ったよ。あげるならともかく、ショーグンがホービをもらうなんてさ。

まあとにかく、僕はアキに聞いてみたんだ。ショーグンが羨ましい、僕も何かホービが欲しいって。

アキは笑って言った。〝褒美なんて言葉、今は滅多に使わないけど、そうだね、ヨウコが私のために何か素敵なことをしてくれたら、このお姫様みたいに褒美をあげてもいいかな〟


僕は、その日からアキ姫のために何か頑張った時、ちょっとだけホービをおねだりするようになった。何か頑張ったって言っても、アキのためにおいしいパンを焼いたり、雨の日に駅まで傘を持って迎えに行ったりしただけだけどね。あれ。よく考えたら、いつもしてることだなあ。


ホービって言っても、いつもアキに愚痴を言われるクロスカントリーのテレビ中継を延々と見る許可とか、システメット(訳者注:瑞の国営酒販売店)で見つけた新しい地ビールを買う許可とか、実にささやかなホービなんだ。泣けちゃうね。

まあ、半分は冗談なんだけど、ショーグンはいちいち姫にお伺いを立てるのが楽しくて。


最近はアキも返してくるようになってきたんだけど、それがまた、びっくりするほど割りに合わないホービなんだよ!

例えば、僕が会社からちょっとだけ遅くなって帰ってきた時、アキはすごく怒って〝褒美がなくちゃ許してあげない!〟って言うんだよ。僕、ちゃんと連絡したのに。

ホービってそう言う趣旨にも使うの?それって褒美っていうよりも、無駄にしたアキの時間の弁償?それとも損害賠償?

どっちにしろ、アキに言われるがままのホービを僕は提供しなければならない。


でも、アキもよくわかってる。ホービは映画みたいにお金や物じゃつまらないんだ。だから僕は言われた通りに頑張る。例えば、アキが新しく買ってきた服のファッションショーに心のこもった正直な感想(ここがポイント。褒めるだけじゃ信じてくれないんだよ)とか。お陰で、なぜか最近コメント上手になったと会社の同僚に言われたよ。意外な効果にびっくりだね!


それから、僕がテレビを見ていても、本を読んでいても、パソコンで調べものをしていても。ソファに座っている時は、僕の膝に乗ってきたアキの脚を優しく撫でていなければならない。ちょっとでも手を離すと、猫みたいに威嚇してくる。〝ガルルル〟だって。もう、かわいいったらありゃしない。

僕はもう慣れてしまったけれど、ホービの強制提供はもしかして日本語の〝尻に敷かれる〟ということなのかな。(日本人の妻は夫をお尻で圧死させるんだよ!すごいよね!)僕はアキが乗ってくれるなら、いつでも大歓迎だけどね。だってプリプリのお尻に触りたい放題だもの。


でも、スウェーデン人が喜ぶホービって言ったら何だろうね?

お金で買えるものだったら、何だろう。

スウェーデン人は物欲がない堅実な人種だって言われてるし、あまり品物はホービにならないのかもしれない。

敢えて言うなら、日光をたくさん浴びることができる南国への旅行かな。スウェーデン人にはタイのビーチリゾートがとても人気だよね。後は、スペイン領のカナリア諸島なんかも。

後は、おいしい料理。本当に最近はスウェーデンもグルメブームが来たと言うか、おいしいレストランが増えたと思う。僕もアキのために情報収集をかかさないようにしてる。特にストックホルムはオープンとクローズの回転が早いからね。


お金で買えない物だったら何かな?…うーん、やっぱりこれも日光かもしれないね、あはは。それから、やっぱり家族の愛かな。

僕は両親に早くに先立たれた。唯一血が繋がっている妹も、今はちょっと訳あって疎遠になっている。アキを会わせたこともない。

でも僕にはアキ姫がいる。充分、いや控えめに言ってもアキからの愛情は最高のホービだ。そんな最高のホービを毎日手にしているショーグンヨウコは、ショーグン三船と同じくらい幸せ者だね。

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