第3話 道具は1目的につき1つです。Ett verktyg är för bara ett syfte.

僕はね、割と頭は良い方なんだよ。でも勿論完璧な人なんていないよね。僕の場合は、手先がちょっと不器用なことに少しコンプレックスがある。

日本人っていうのは本当にすごいね。どんなに小さな子でも、折り紙が上手に折れるんだよ。スウェーデン人の子たちはもちろん、紙を折るってことに慣れてないからだろうけど、角を合わせる、とか綺麗に折り線をつける、と言った作業が全くダメな人が多い。僕も苦手。逆に、手が器用な人は大工さんや彫金師、携帯修理なんかの仕事で重宝されて、まず食いっぱぐれることはなくなるよ。


アキはよく〝欧米人は道具が異常に好き〟って言うけど、そんなの当たり前じゃないか。欧米人って、ヨーロッパ人とアメリカ人を一括りにする言葉が日本語にあるってこともちょっと驚きだけど、今はそこじゃない。

りんごの皮を剥くリンゴ皮剥き器、茹でたじゃがいもを潰すマッシャー、お湯を沸かす電気ケトル。今思いつくのが料理の道具ばかりだけどさ。

道具とは、頭は良いけど不器用な人たちのために、頭の良い人が考えて器用な人が作ったものなんだ。完璧じゃないか、何もおかしくない。

僕がアキに反論すると、彼女は勝ち誇った顔(日本語でDoya-gaoって言うらしい)で炊飯器を持ってきた。


アキがこっちにくる前に僕が自分のために日本で買った炊飯器だけど、これにはお米を炊く以外に色々な機能が付いている。まずは玄米炊きモードに始まって、煮込み料理モード、ケーキモードって言うのまであるんだ。皆、信じられるかい?炊飯器でケーキが焼けるんだよ!本当に日本ってクレイジーな国だね。

実際にアキが作ってくれたアップルケーキはとてもおいしかった。ケーキを焼いている間に家を留守にできるなんて、オーブンではとても考えられないよね。


アキは、道具には最低2つの使用目的がないと買わないと言う。要するに、1つのことしかできない道具はいらない、と言うことだ。それって、道具だけの話かな?僕は違う意味でドキドキしちゃったよ。それでも、僕は珍しくアキに反論した。

道具は1目的につき1つが本来の道具というものさ、ってね。そもそも人間は一度に1つのことしかできないんだから、1つのことしかできない道具でも別にいいじゃないかと言ってみた。


アキは、それでも勝ち誇った顔を崩さない。

〝私は同時に三種類のおかずを作りながら調理道具を洗って、料理の完成と同時にキッチンの掃除も終える〟とな。

さすが僕の妻。さすがアキ。彼女はマルチタスクを同時にこなせる、まさにスーパーウーマンだ。


確かにスウェーデンじゃなくても、ヨーロッパの道具って、1つのことしかできない道具ばかりだ。でもそもそも道具というのは、不器用な人のためにあるもの。道具がないとその作業ができない人のためのものだから、もし何通りも使える道具がたくさんあったら、多分それを使いこなすための道具がまた必要になるだろう。それなら最初から道具は1目的につき1つでいいんじゃない?僕は、ちょっとだけ負け惜しみで言ってみた。


するとアキはにっこり笑って、そんな不器用な僕が好き、可愛いって言ってくれた。

なるほど。女の子にモテるには、時には母性をくすぐるような不器用さも必要なのかと、座ってる僕を胸で包み込んで、頭を撫でてくれるアキに埋もれながら学習した。というわけで、まだ当分僕の欲しいキッチン道具は買っても文句はいわれなさそうだ。


今僕が狙っているのは、鍋の中に入れておけば、振動で中のスープや水を勝手にかき混ぜてくれる電動かき混ぜ器。それにこれは多分、ベッドの上でも意外に活躍してくれちゃう道具だと思うんだよなあ。

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