第9話
今度は小さい水槽が連続で並んでいる。腰を屈めてガラスに鼻がくっつきそうなほど見る。真っ暗な部屋で見るスマホのように水槽は光に、私たちの道を案内してくる。
色とりどりのグッピーに、ドギツイ黄色いのモウドクフキヤガエル、バンザイしているテナガエビ。
後ろにも前にもお客さんがいるおかげで常に内緒話をするみたいな距離だ。
「これどこだ?」
水槽の下には説明とともにビジュアルが乗っているがいくら水槽を見ても見つからない。水草の裏にでも隠れているのかも?
「いないね」
「いないなぁ~」
隅々まで見渡しても見つからない。砂とかに隠れるタイプにも見えないし、色鮮やかなのに。ん~なぞだ。
わっ!後ろから少し押されて体勢が崩れた。前にいた揺士の腕を掴み、コケはしなかった。
「すみません」
「いつまでも居座っていてすみませんでした。先、進むか」
相手も悪気はなかったみたい。見当たらない魚に少し夢中になりすぎてしまった。休日で人もたくさんいるのに。揺士は私の代わりに謝り、場所を譲るために一歩、二歩と進む。
揺士は私に腕を掴まれたまま、次の水槽をもう眺めている。
そりゃ、私たちも思春期ですし、当然男女の身体的接触は減っていくもので。
男子では多少の細いが、女子に比べたら太い腕。角ばっている骨。歩いているスピードは負担にならないようにゆっくりで。
トクトクと大人しい心臓がドクンドクンとうるさくうなる。
今なら、ごまかせる。ノリだとか勢いだとかで。
揺れ士の腕から手に、流れている血をなぞるように私の手を下していく。震える手を力んでしまう無理やり抑え込む。
もう少し。だんだんと細くなっていく腕は私の気力みたいだ。
っはい!繋げた!繋げた!
誰が何て言ってももうこれは手を繋いだでしょ!手のひらに人差し指がかかってるし!十分、十分。
腕組むカップルとか小指だけ繋ぐカップルもいるし、手首を掴むのも一周回ってよくない!?服の上からだから手汗だって気にしなくていいし、骨でガッシリとして安心感があるよ!手を繋ぎながら、揺士が荷物持てるんだよ。いいことづくめ。
チャンスを作ってくれた後ろの人に感謝したいくらい。グッドポーズぐらいしとこうかしら。
揺士が気にしている素振りはない。変わらず楽しいそうに水槽を眺めるだけ。手を振ってみたり、ちょっと揉んでたりしても何も言わないし何の反応も示さない。
ふむふむ・・・私に全幅の信頼があるってことね!嬉しい嬉しいけどさ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます