ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、

涼風悠

第1話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染が大好きである。

 朝宮 郁人は幼馴染が大好きである。結局その思いを、告げられないまま中学を卒業してしまった。だが、郁人は決心したことがある。高校入学から頑張ると、そして本日はついに高校の入学式である。


 朝六時に起きて、日課のジョギングをして、朝のシャワーを終えて、髪型をセットする。幼馴染が好きな髪型を意識して、ヘアーアイロンとワックスを使って髪をセットする。中学に入ってからの郁人の朝の日課である。


 郁人は幼馴染に好かれるためには、努力を惜しまないのである。そして、今日から幼馴染にアピールをすることを決意しているため、容姿に対してのセットは、いつも以上に時間をかけている。


 そして、新品の制服に袖を通す。準備は完璧に整った。郁人は我ながら完璧だと自画自賛する。顔はイケメンではないと思っている郁人だが、容姿には気を使っていた。天使で可愛い幼馴染の隣に立つためには、それなりに頑張らないと釣り合わないからだ。


「兄貴、何分髪型のセットに時間使ってんだよ?」


「雅人、いいか容姿は大事だ。容姿に気を付ければ俺みたいなフツメンでも、それなりにはまともに見ともらえるはずだ」


「兄貴……マジで言ってるのか?」


 弟の朝宮 雅人はあきれている。郁人は思ったのだった。こんなに頑張って、容姿に気をつけてもダメなのかと落ち込む。幼馴染は超可愛い。中学の頃、いや、小学校の頃からモテていた。郁人は、自分では幼馴染とは釣り合ってないと思っていた。


「まぁ、確かに俺はイケメンではないけど、そんなにあきれなくてもいいだろ」


「いや、兄貴はイケメンだろ」


(いや、マジでそれ以上イケメンになられると、勝ち目なくなるからやめてくれよ)


「雅人……いつも気を遣ってくれてありがとな」


(雅人は優しい奴だな。いつも、俺の容姿をほめてくれる。マジでいい弟だな)


 雅人は、ため息をつきながら、そのまま歯ブラシを取り歯磨きを始める。郁人はセットを完全に整え終わったため、後は家を出るのみとなっていた。








 夜桜 美月は幼馴染が大好きである。小さいころからずっと大好きだった。中学の頃、何度も告白しようと思った。だが、幼馴染という関係が、壊れてしまうのを怖がって告白できずにいた。だから、高校に入ったら絶対告白すると決めていた。


 朝早く起きて、容姿を整える。髪型をきれいに整えて、軽く化粧をする。ナチュラルメイクである。美月は自分の容姿に自信を持っていなかった。でも、幼馴染には可愛く思われたい。だから必死にメイクの練習をした。幼馴染が好きな髪型にして、幼馴染が好きそうなメイクをする。


 美月は、幼馴染に好かれるための努力は惜しまないのである。美月の幼馴染はモテるのである。それはもう、幼稚園の頃からモテていた。正直、美月は幼馴染とは釣り合ってないと感じていた。幼馴染は超イケメンなのである。


「お姉ちゃん。いつまで鏡と、にらめっこしてるの」


「おはよう、美悠……美悠にはわかんないわね。私みたいなのは一生懸命容姿に気を付けないといけないのよ」


「……お姉ちゃん。何言ってるの?」


 ジト目で美月を見ながら、ため息をつくのは、美月の妹の夜桜 美悠である。美月は、内心そんなに頑張っている自分の姿は、滑稽に見えているのとショックを感じる。


「ていうか、お姉ちゃんはもっと自分に自信もって、十分可愛いから大丈夫だって」


(ていうか、これ以上可愛くなられたら、困るんだけど~)


「美悠……お世辞はいいのよ。私は自分のことよくわかってるから」


(美悠は相変わらずいい子ね。こんな私に気を遣ってくれて)


 美悠は、再度ため息をついて、美月の隣に並んで髪をセットしだした。美月は洗面所を出て、玄関の鏡で全身をチェックする。新品の制服に、スカート丈に合わせたニーソックスは、完璧な絶対領域を形成している。最期に手櫛で前髪を整える。


 最終チェックを終えた美月は、気合を入れ、後は家を出るのみとなった。








 郁人は気合を入れて、家を出る。隣の家に住んでいる美月を迎えに行こうとすると、美月も家から出てきた。そして、二人はお互いを見つめ合う。


(美月の制服姿……超可愛すぎるだろ)


(郁人の制服姿、カッコよすぎるよ)


 郁人は、美月に見惚れていた。美月は超絶美少女だ。綺麗に整えられたボブヘアの髪型に、大きな瞳に長いまつ毛、リップが塗られた唇は艶やかである。小柄だが、胸はそれなりにある。ニーソとスカートから見える白い肌は雪のように美しい。


(美月……マジで可愛すぎる。これはまずい。絶対高校でモテる。今まで彼氏を作らなかった美月だが、高校生ともなれば彼氏がほしくなるはず、やはり、俺は本気でいかないといけない)


 そして、美月も郁人に見惚れていた。郁人の容姿はイケメンだ。丁度良く伸びた髪をきれいに遊ばせているイケメンヘアに、高身長に引き締まった身体はイケメンスタイルだ。新品の制服を少し気崩して着ている姿は、イケメンのみに許される着こなしである。


(郁人……本当にイケメンすぎるよ。なんでこんなにカッコイイの? これ絶対高校でモテる奴だよね。今まで彼女を作らなかった郁人だけど、男子高校生って、彼女欲しがるって言うし、絶対彼女作ろうとするよね? うう~、絶対郁人は誰にも渡したくない。私も、本気でアピールしてかないとだめだよね)


 二人は互いに両想いであることに気づいていない。だが、二人は高校生になったからには、告白して、幼馴染から恋人の関係にランクアップしたいと思っていた。だから、頑張ると決めた。そして、先に動いたのは郁人だった。


「おはよう美月。その……あのな。制服、似合ってるな。その……可愛いぞ」


 郁人は内心は心臓バクバクだったが、平常心を意識して美月に可愛いと言ってみた。


(え? 郁人が可愛いって言ってくれた……言ったよね? やった、可愛いって)


 美月は真っ赤に照れた。照れたが、ここで、終わってはいけない。自然を意識して返す。


「ありがとう。郁人も、制服似合ってるね。その、えっと、郁人も、か……カッコイイよ」


(美月が、俺のことを、カッコイイて言ってくれた? マジでか!)


 郁人は、めちゃくちゃテンションが上がる。そして、二人の目線が合うと二人して真っ赤にして顔を逸らす。


(これって、絶対美月は俺のこと、好きだよな?)


(え? 郁人やっぱり私のこと好きなのかな? 好きだよね)


 しばらく、無言で学校に向かう二人だが、少し時間がたてばいつも通りの会話ができるようになった。自然と手をつないで学校に向かう二人だった。








 そう、朝は上手く事が運んでいたとお互い思っていた。しかし、二人の通う事になる時ノ瀬高等学校について、クラス発表の張り紙を見た時、二人は絶望した。


 二人のクラスは郁人が1組で、美月は7組だった。時ノ瀬高等学校の一年生クラスの数は、7クラスである。つまり、教室も一番離れている上に、合同の授業などもありはしない。考えられるクラス別けで最悪の結果である。


(マジで、人生終わった。中学の時もクラスずっと違ったし、マジで運ないのか? 俺)


(神様、私何か悪いことしましたか? 本当に最悪なんだけど、もう無理、人生終わった)


「じゃあ、美月……俺、1組みたいだし行くな」


「うん……じゃあね。あ……帰りは……」


「ああ、帰りは一緒にその、帰ろうな」


「そうだね。一緒に帰ろうね」


 郁人は、無表情を意識して、美月にそっけない振りをして、お互いそう帰りの約束をする。二人は、顔を真っ赤にして、教室に向かうのだった。


 そして二人は教室に入ると、郁人は女子生徒に、美月は男子生徒に囲まれることとなり、二人の波乱の高校生活は、幕を開けるのであった。

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