第26話まぼろしの夢

すべてが夢のようであってほしかった、たとえこの病が引き起こすまやかしに過ぎないのだとしても、あなたの愛をその手で終わらせてしまわないでほしかった、遠ざかってゆく汽笛の向こうに消えてゆく儚い靄であったとしても、あるいはあなたの孤独に経てきた十年がまぼろしであったとしても、あなたの愛を感じていたかった。引き剥がされてゆく毛布を剥製にして、鹿の頭に象って、あなたと名づけたかった、離れ離れになって散り散りに消えてゆく横雲にあなたの面影を重ねていたかった、夏の夕焼けは残酷にも美しく私を圧して覆い尽くしてゆく。


『ココア共和国』2022年9月落選作

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