第23話 浮遊する十三階の部屋

彼女たちの立てる物音が鋭利なナイフとなって頭を引っ掻き回す中、禁色の桃色が氾濫する部屋も宙吊りになって十三階でくるくる回る。なにものをも侵蝕しない球体でできたぬいぐるみたちは遠い世界で暁を待つ。夜を越えるためのフィクションと内省が圧殺されたこの部屋では、画面から発せられる音声も意味をもちえず、キャスターの発する一音一音が殺意に満ちたものであるようにと願っているのに、服装の良し悪しを指摘する声であっけなく崩れ去る。おおよそ無価値となり果てた単語たちの切れ切れの残骸をかき集めて、入力してみてもt7j03f21と表示されるばかりで、無感動に侵入してくる足音と視線が積み上げかけていた架空の高楼都市を粉々に砕いてしまう。十三階へ、十四階へ、十五階へ、そうして踏み出そうとした足は、あの夜に留まったままで、階段に足をかけることもできずに佇みながら、桃色の部屋がどんどん上昇して、やがて見えなくなってしまうのを仰ぐことしかできない。


金澤詩人賞2021落選作

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