第13話真夜中の抱擁

夜が明けても真夜中の底で、あの日の夜明けを求めているのだけれど、一向に訪れる気配はない。寝ても覚めても物憂い心ばかりを持て余す。想いを募らせるほどに死は甘く香って私を誘惑する。やさしい抱擁を与えてくれるのは詩と観念ばかりだ。死者もまた清い。穢れきった私にはあまりに遠い。千光年先の隣室にいる人も、深夜の軒先で妖しく咲き誇る薔薇も。あの日あなたが夜更けのベランダで後ろから抱きしめてくれたぬくもりだけを覚えていて、華奢な腕にこめられた力で私は暴かれてそれっきり。手慣れた手つきが悲しかった。十一年もの間あなたの声を、姿を、細い身体を、あなたが与えてくれた首輪を求めて眠りに就いて、ただ一度だけ「死ぬなよ」と云い残して消えていったあなたの背中に追いすがりたかった。もう二度と会えないと知りながら、二十一年後の再会を夢見て、私は眠れない身体を薬で鎮めて待ちつづける。十九歳のときのあなたの姿はだんだん輪郭を失って、極彩色のウミウシになってしまう。

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