第20話 妖精女王が反省するはずがない


「妾たちー、めっちゃ反省してるよ的な?」


 地面に正座している妖精女王が言った。

 ここは妖精たちの森。最初に宴会をしていた開けた場所。

 僕とチェリーの前に、妖精たちがズラッと正座している。


「その割には謝罪がないんだけど?」とチェリー。


「我は巻き込まれ事故みたいなものだから、もう帰っても?」


 妖精と一緒に正座している神王ゼアが言った。


「ダメに決まってるでしょ!?」チェリーが驚いたように言う。「あたしのこと、分解しようとしたわよね!? それ謝って! 一旦それ謝って!」


「いや、我は古の契約に従ったまでで、しかもまだその契約は生きてる」


 ゼアの言葉で、チェリーが妖精女王を睨む。


「ま、まぁ、妾たち的にはー? 冗談だよー? みたいな?」

「冗談で済むかぁぁぁぁぁ!!」


 チェリーが地面を何度か足裏で蹴る。

 地面がヒビ割れ、へこむ。


「いや落ち着け人間の女」ゼアが言う。「お前のあの雷魔法も冗談では済まない威力だったぞ? 最初に我に当たっていなければ、妖精たち全員消し炭だったぞ?」


「知ってますぅ! だから最初に神王様に当てて、そこから広がるようにしましたぁ!」


 そして妖精たちはみんな墜落した。

 でも妖精たちは誰1人、地面に叩き付けられたりしなかった。なぜなら僕が助けたから。

 いやー、久しぶりに本気出した。

 僕はまずチェリーを地上に降ろし、本気で、墜落する無数の妖精たちを救助した。

 音の速さどころか、僕は光の速さに到達する寸前だったね。うん、実際にはどうか分からないけれど、とにかく本気で動いて妖精たちを助けた。

 チェリーも地上で妖精たちを受け止めていた。

 チェリーも「久々に本気出したかも」と言っていた。

 何事もやりすぎには注意が必要だ。

 まぁ、妖精たちにはいいお仕置きになっただろう。だから僕はもう特に妖精たちに言うことはない。

 ちなみにだが、妖精たちを回復させたのも僕だ。

 ゼアは勝手に自分で回復した。


「じゃあ、とりあえず一件落着!」と妖精女王。


「んなわけないでしょぉぉぉぉ!! あんたたちは、あたしを、殺そうとしたの!!」

「えー? 妾、難しいこと分からなーい」


 妖精女王が可愛らしく言った。

 チェリーはガックリと項垂れた。怒るのに疲れたようだ。


「我は契約通りの動きをしたに過ぎん。責められる謂われはない」

「でも謝って! あたしの気が済まないから謝って!」


「ゼア」僕が言う。「僕は別にいいけど、チェリーには謝ってあげて」


「いいわけないでしょ!? レナードのことも殺そうとしたのよ!?」

「いや、だから僕は別にいいって」

「死んでもいいって言うの!? あたしを置いて死ぬ気なの!? そんなのダメなんだからね!?」

「そうじゃなくて、僕はもう怒ってないって意味。死ぬのは嫌だし、君を置いて死ぬ気もないよ」

「なんで怒ってないのよ!?」

「面倒だから」


 僕が率直に言うと、チェリーは苦笑いした。

 それから、


「分かるけど……それは分かるけど……」


 チェリーは納得いかない、という風に呟いた。


「とりあえず、古の契約とやらを解除して」と僕。


「贄やめまーす! 世界征服も諦めまーす。役立たずのゼアとかもう消えて欲しい的な?」


「それは酷くないか貴様」ゼアが呆れた風に言う。「その言い方は酷くないか?」


「えー? 実際役立たずだし」妖精女王が言う。「神族の王のくせに、普通に魔王様と勇者に負けてるし」


「そうだそうだ!」と妖精たち。


「おい待て」ゼアの表情が引きつる。「魔王と勇者?」


「元魔王」とチェリーが僕を指さす。

「元勇者」と僕がチェリーを指さす。


 ゼアは2秒ほど沈黙した。


「何をとんでもない贄捧げてんの貴様!!」ゼアが叫ぶ。「もっと考えて贄捧げろ! 最悪、我が逆に殺されるわ! ふっざけんな! 次からカエルとかにしろ! 悪かったな勇者に魔王! 知らなかった! 許せ! 天界攻めるとか勘弁であるぞ!」


「いいよ、許す」と僕。

「あたしも許す」とチェリー。


 謝ったらちゃんと許してあげるチェリー優しい。


「では我は帰る故、あとはそっちで」


 言い残し、ゼアはパッと消えてしまう。転移魔法だ。さすが神族の王。たぶん、実力的にも僕やチェリーとそう変わらないのだろう。


「さて、妖精たちにも謝ってもらおっか」


 チェリーが妖精たちを睨む。


「やはり非建設的な状況に陥りましたか」メイドが言う。「私は止めましたよ?」


「そうだね……って! 君! どうしているの!?」


 僕は驚いて大きな声を出してしまった。

 いつの間にか、メイドは僕とチェリーの間に立っていたのだ。


「どうしてと言われましても」メイドが首を傾げる。「2人の帰りが遅いので、きっと非建設的な状況に陥ったのだろうと推測し、救助に来ました」


「あ、それは大丈夫よ」チェリーが言う。「あとは妖精の謝罪待ちだから」


「そうですか」とメイドが頷く。


「いやいや、君、どうやって来たの? ゲート? 転移魔法?」


 ゲートは一般的だが、僕の家からはかなり遠い。ミロッチに乗って行った可能性もあるけれど。

 そして転移魔法はかなり上位の魔法なので、使える者は少ない。人間だったら賢者レベルでなければ。


「私はレナードに憑いていますので、レナードのいる場所にはいつでもどこでも、好きな時に転移できます」


「なにその便利な魔法! ってかスキル!? 君の固有スキル!?」僕が言う。「そういえば、家を出たはずの僕を難なく見つけたよね君! そういうこと!? そういうことだったの!?」


「厳密には、魔力の繋がりがありますので、それを辿って転移可能です。私の固有スキルですね。名前を付けるなら『主人、逃がすべからず』でしょうか。ちなみに普通の転移魔法は使えません」


 つまり、僕がこの世のどこにいても、メイドは僕を見つけて、僕の隣に出現するということだ。


「何その最強のストーカースキル!!」とチェリー。


 メイドがニヤッと笑う。

 その笑いは何の笑い? ねぇ何の笑いなの? と思ったけど怖くて聞けない。


「まぁ、それはそれとして」メイドが妖精たちを睨む。「早く2人を返してくださいね?」


「「ごめんなさいでした!!」」


 妖精たちが一斉に謝った。

 え? チェリーがあれだけ言っても謝らなかったのに?

 妖精たちは青ざめ、ガクガクと震えていた。抱き合っている妖精もいる。

 どの妖精も、まともにメイドを見ようとしなかった。

 メイド、本当にいったい何したの? 過去に何したの?

 妖精たちは「魔物死ね」って言ってたけど、大半は君のせいだったりする?


「な、なんか釈然としないわね……」とチェリーが苦笑い。

「ま、まぁ、いいんじゃないかな……」と僕。


 これ以上、妖精たちに関わるのは面倒臭い。さっさと帰って休みたい。


「では帰りましょう」


 メイドが両手を差し出す。右手を僕に。左手をチェリーに。

 メイドがあまりにも普通に手を出したので、僕もチェリーも普通にその手を握り返した。3人仲良く手を繋いでいる状態である。


「あのー」妖精女王がおずおずと言う。「魔王様たち帰っちゃうと、妾たちー、人間に滅ぼされちゃうぞ?」


「あああああ! そうだったぁぁぁ!」


 僕はメイドと繋いでいない方の手で頭を抱える。

 生け贄にされたり神族出てきたりと、忙しかったのですっかり忘れていたけれど、そもそも僕は妖精に警告に来たのだ。


「よぉし! 妾もう一回召喚しちゃ……がふぅ!」


 メイドが妖精女王にデコピンして、妖精女王がグルグルとバク転しながら飛んでいった。

 メイド、さっきまで僕とチェリーと手を繋いでいたよね?

 いつの間にか、メイドは僕たちの手からすり抜けていた。


「だ、大丈夫、今度はカエル! カエル捕まえて贄にするぞ的な?」


 妖精たちに空中で受け止められた妖精女王が、焦った風に言った。


「レナード、もう義務は果たしたでしょう?」メイドが言う。「私たちが戻ったあとで、妖精たちが自衛のために何かを召喚しても、私たちには関係ありません」


「そうだね。とりあえず一旦帰ろう」僕が言う。「本当、疲れたから休みたいんだよね」


 お風呂入って、ゆっくり眠って、メイドのご飯食べて、それから考えよう。

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