異世界巨大迷宮攻略大作戦 part 4

 森だった地下のダンジョン空間は、熱気に包まれ、炎が踊り狂った。

もはや森としての姿は無く、灼熱の世界と化していた。


「姉さん!森が!」


「それよりも今はあいつを倒す方が先よ!」


エルフの姉妹、他のエルフ、森の生き物達…

それらが一致団結し、目の前の敵を打ち倒さんと手を取り力を合わせていた。

その力は凄まじく、人類勢の王国騎士団をとうに超える力を発揮していた。


風は荒れ狂い、放たれた矢や光がそこかしこで飛び交い、急所を狙った鋭い攻撃が何重にも重ねて放たれた。

それは、人間の勇者と呼ばれる者ですら、そう簡単には太刀打ちできないほどの連携であった。





しかし届かない。


いくら相手に攻撃しようとも、少しの手応えもない。

放った矢は被弾する前に燃え尽き、魔法は熱気にかき消され、切り裂いた体は瞬く間に修復される。

そして、近距離攻撃が有効ではないと判断し、魔法による攻撃を行うが、その魔法使用の隙を突かれ、多くの仲間達が散っていった。


エルフと溶岩とでは、相性が悪すぎたのだった。











「オラオラ!どうしたあ!そんなもんかあ!?」


最初はエルフ相手なんて楽な仕事だと考えてたが、こいつら思いの外いい動きをしやがる。

一人一人の力はたかが知れてるが、それを補う数、そしてその数の力を何倍にも高める連携。

こりゃあ優秀な司令塔がいるな?


俺は一人のエルフの胸を拳で貫き、その体を体内から燃やしてやりながら考えた。

このまま抵抗できなくなるま少しずつ減らしてやってもいいが、それじゃあ時間がかかりすぎるな。

だが、大技を使おうにもこのダンジョン内の空間じゃあ、炎やマグマの確保が難しい。

とりあえず近くの森を燃やしてるが、これっぽっちの炎じゃあ大技を使えるほどの熱エネルギーを集められん。


おまけに、ここの木はやたらと燃えにくい!

根っこから葉っぱに至るまで、ガンッガンに魔力が通ってやがる。

これじゃあただ火をつけただけで燃えるわけねえ。

燃え移るのを期待することもできんな。


しかし、俺の熱とエルフどもの風の魔法は相性がすこぶるいい!

風を送られれば送られるほど、炎の勢いは上がっていく。

炎の森の木々や植物、動物を喰らう速度は上がり、俺の攻撃力とテンジョンのボルテージがガンガン上昇していく!

だが、このまま俺の体内の溶岩や炎を小出しにしても、そのうちエネルギー切れになっちまう。

ならば、向こうが遠距離主体に切り替えたように、こっちは近接主体にして一気にけりを付ける!






エルフどもが離れたところから魔法でチクチク攻撃してくる。

その魔法の大半が光属性の魔法。

しかし光は光でも、聖なる光による魔法は全体の3分の2にも満たない。

熱による燃焼効果を目的としたものでは、熱を支配せんとする俺には全くもって効果はない。


俺は火山の悪魔である。

火山を司り、存在そのものが火山。

火山の概念ゆえの力を行使できる。

光の熱くらいじゃあ、かすり傷ほどのダメージも負わん。


そもそも、俺の野望は太陽に自分の王国を建設することだ。

そんな、太陽光くらいで痛がるようじゃあ、自分の夢を胸高々に語れやしない!




俺は胸の前で腕を交差させて、目を閉じた。

そして自身と周囲の炎や熱へと意識を集中させる。

そんな俺の様子を不審に思い、エルフ達の攻撃の手が一瞬止まる。

そんなエルフ達の側を炎や熱気を含んだ空気が通り過ぎていった。


その炎や熱気は、俺の周りへと集まっていく。

それらは徐々に渦巻いていき、俺の体の中へと吸収されていく。

炎を熱に、熱をエネルギーへと変換し、それを全身へと循環していく。

循環したエネルギーは熱を生み、それが体へと蓄積していく。

その蓄積された熱によって、体全体が輝きだす。

赤を超え、黄色を超え、最も高温な部分が白色となっていった。



「『こんがり焼けた小麦色の肌!_Purgatory Armor!_』」



俺自身も、アロハシャツすらも太陽のごとく輝く。

体の表面を汗のごとく溶岩が流れ落ちる。

その熱気で俺の周囲が歪んでいく。


エルフ達がざわめきだす。

目の前の光景が理解できていないかのような、散歩の途中に突如として猫の交尾シーンが目に入ったかのような、そんな顔であった。

その顔を眺めながら、俺はほくそ笑んだ。

そんな間抜けな顔をできるのも今のうちだけだぞ。


このあと待っているのは、俺の陽気な殺戮ショーさ!!









◇◇◇◇◇◇








「誰が最初に終わったっていう連絡をしてくると思う?」


一頭身の心臓ボディ、マァゴが誰ともなくそう呟いた。

すると、テーブルに足を乗せて寝ていたファジーが反応した。


「いくら賭ける?俺は”殺人”に五万」


「賭けをするつもりは無いし、子供の前でそんな話をしちゃダメだよ」


マァゴは呆れたようにため息をついた。


「まあ賭けはしないけど、僕はヴォルケが真っ先に連絡してくると思うな」


「ちなみにそれはどうしてだ?」


近くでその会話を聞いていたディメが、話に入ってきた。


「え?だって相手はエルフだぜ?相性抜群!さっと燃やしちゃうでしょ!」


「…あいつの持つ名前は火山だからな」


マァゴの言葉にファジーも多少ながら同意する。

すると、そのやり取りを見ていたトモが不思議そうに首を傾げた。


「ん?どしたのトモちゃん?」


それに気づいたマァゴがトモに声をかけた。

すると、トモはびくりと肩を震わせるが、おずおずと話し出した。


「あ、あの…あ、悪魔の皆さんの…な、名前って…な、何か特別なもの…なんですか…?」


「特別なものだよ、名前自体が俺たちの存在そのものと言ってもいい」


質問したトモに対して、ディメがその質問に対して答えた。


「少し難しい話になるがね…」







そもそも俺達”悪魔”は、世間一般的に言われる悪魔とは少し違った存在だ。


何かに対しての強い思いから俺たちは誕生した。

もっと足が速くなりたい、お金が欲しい、愛が欲しい、あらゆる情報を手に入れたい…

そうした欲望に怨念、恨みなどが自我を持ち、肉体を手に入れた者。

あるいは、それらの感情によって身体や精神、魂が変化した者

それが俺達だ。


俺達は精神生命体とも、魂が自我を持った未知の生物…

ついた名前の概念そのものとも言える。

その名前が本体だという悪魔もいるな。


事実、地球とか異世界とかによくいる火を操る悪魔と、俺らみたいなタイプの”火の悪魔”じゃあ、火力の桁が違う。

向こうはあくまで火を操るのが得意というのに対して、俺らのタイプの悪魔は存在そのものが火って感じかな。

…よくわからない?

あー…例えるならそう…薄めたカル◯スと原液カル◯スじゃあ、どっちの方が甘いかって話だな。


余計わからない…?

…とにかく!俺らは強い!

しかし、悪魔によってその強さにも差がある。

それは想像力と経験の差によるからだ。


例えば”猫の悪魔”と”鼠の悪魔”がいたとしよう。

普通に考えれば、猫の悪魔の方が鼠の悪魔よりも強いと思うだろ?

しかしそうもいかない。

もし鼠の悪魔の方が想像力が豊かだった場合、空を覆い尽くすほどの数の鼠が猫を襲ったら…

もし鼠の悪魔の方が経験が豊かだった場合、猫を翻弄する素早さと急所を狙って一撃で猫の首を噛み千切れたら…

そうしたものが相性を超えることもあるってことさ。

…まあ相性関係なく高火力でねじ伏せるタイプとかも中にはいるが…


そんなわけで、俺らは他の悪魔や魔神と呼ばれる連中とは格が違うってわけだ。












「勉強になったろう?」


ディメが腕を組んで感慨深く頷くが、誰もディメの説明に対して触れることはなかった。


「それでね!僕がボールを蹴ったらね!」


「…夕飯のリクエストは?」


「唐揚げ」


その様子を見て、ディメは顔を(目玉だけの)引き攣らせるが、ため息を吐くと、そのまま椅子に座った。


「あ…あの…あ、ありが…」


「いいのいいのトモちゃん!あんな分っかりづらい説明にありがとうなんて言わなくても!」


「悪かったな」


ふてくされたようにディメがつぶやくが、それを無視してマァゴはトモと話した。

マァゴはトモの手を握ると、ニコニコと笑いながら話しかけた。


「難しいことなんか忘れちゃっていいから!これだけは覚えてて!」


マァゴは握ったトモの手を横に振りながら、楽しそうに続けた。


「僕らはすごく強い!そして、僕らは君の味方だよ!」


そう言うと、握っていた手を離し、トモの頭を撫でた。


「だから、そんなに怯えなくてもいいよ」


その声は、先ほどまでの無邪気な子供のような声とは違い、慈愛に溢れていた。

優しい声と優しい手つきで頭を撫でられ、トモの胸の内が暖かくなった。

自然と涙が出て、頰を伝った。

今まで、優しくしてもらったことがない故の反応だった。

トモは涙を手でぬぐった。


「あ、あの…マ、マァゴさんは…なんの、悪魔…なんですか…?」


「わかんない」


「え…」


マァゴはあっけらかんと答えた。


「まあ僕は?神様だから?悪魔じゃないんだなーこれが!」


マァゴが胸高々に答えるが、それを見ていたディメが口を挟んだ。


「多分、血か鉄の悪魔だよ」


「違うわい!僕は神様じゃい!」


「はいはい、自称な」


「んだとゴラァ!」


マァゴがディメに飛びかかり、避けられて地面に激突する。

テントの中が騒がしくなる。

ある悪魔はやれやれとため息をつき、ある悪魔はうるさそうに顔をしかめ、ある悪魔はその光景を楽しそうに眺めた。


そんな中、一人の少女はその光景を見て、ほおを緩ませていた。

それは笑顔とはほど遠かったが、それでも、少女の心が少し温かくなった証拠でもあった。



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