手負い


「おーい。・・・おーい。もしもーし」



朝、ひたすら寝ているひなのを起こしに来たのは、ユノでも空牙でもない、知らない男だった。


「・・・起きないか・・・」


ユノよりも背が低く、空牙よりも幼い顔の彼は、サラサラとした水色がかった銀髪。


「・・・どうしようかな・・・」


男はだいぶ控えめな様で、起きないひなのを見て戸惑っている。



ガチャッ!!



「・・・あ、麗憐」

「遅いぞ、鬼優(きゆう)!ユノ様が待ってんだ早くしなッ!」

「・・・ごめん、でもこの子起きなくって・・・」

「どけっ」



後から登場した麗憐は、鬼優という男を押しのけると、ひなのの上半身を鷲掴んだ。


「コラァ、起きろ!!ひなの!!早くしやがれ!!」

「そ、そんなに揺らしたら内蔵が飛び散るよ・・・」



鬼優の恐ろしい発想虚しく、麗憐はひなのをバキバキに折らんばかりに揺らし、ものの数秒で起こすことに成功した。



「なだわやっ!!何?!何事?!」


訳のわからない言葉と共に、ひなのは飛び起きた。


「おせーよ、ひなの。朝食の時間だぞ?ユノ様がお呼びなんだ」

「れ、麗憐・・・?!あなた大丈夫なの・・・?」

「あ?あぁ、傷のことか?本調子じゃないが、歩けるようにはなった」



バケモノ並みのスピードで回復した麗憐を見て、ひなのは安堵のため息。

そして、ようやく焦点が合い始めた目で、初めましての男を確認した。



「・・・お、おはようございます。初めまして、弥之亥ひなのと言います」

「あ、うん。おはようございます、知ってます。僕は、眞田 鬼優(さなだ きゆう)です、お見知り置きを」


ペコペコとお互いお辞儀をしながら、何となくやんわりとした空気が流れ始めたが、麗憐がその空気をすかさずかち割る。



「いいから、早く行くぞ!

鬼優、てめーは用済みだ、さっさと広間に降りてろ」


ひなのはその後急いで着替えると、髪を手で梳かしながら、麗憐と部屋を飛び出した。


ついにあの広い和室で、大勢と食事をすることになってしまうのだ。

そう思っていたのだが、連れて行かれたのは別の場所。


最上階の、大きな両扉の前。



「ユノ様の部屋だ」

「え、私ここで食べるんですか?」

「そうだな。早く行ってきな、あたいは広間に行くよ」

「は、はい・・・」



麗憐もいてくれればいいのに・・・。

でも、昨日の今日で、さすがにそれも気まずいか。


ひなのは一応ノックをすると、そっと扉を開けた。



「おはようございます」

「あぁ。やっと起きたか」

「すみません、お待たせしちゃって」



そこは決して華美なわけではなく、しかし雅で豪華な部屋だった。


ワンルームにベッドも机も全て収まっていて、壁いっぱいの大きなガラス窓が、素敵だった。



「朝食だ。今日は日差しが強いから、北側のテラスではなく、ここでどうだ?」

「・・・はい、嬉しいです。

ユノ様の部屋ですか?すごく素敵」


窓の横には、大きな木造のテーブルがあって、二人分の朝食が並んでいる。



「わ、今日はフレンチトーストなんですね!オシャレ!」


朝日が心地よく、思ったよりも開放的な部屋に、ひなのの気分は良かった。


「昨日、ユノ様一瞬部屋に来ましたか?夢かな?・・・でも、ちゃんと帰ってきてるから、夢じゃないか」

「あぁ、行ったがー・・・

話しながら、お前が寝てしまったんだろう」

「えっ、やっぱり!いつの間にか朝だったから・・・」


全然、覚えてない。

でも恥ずかしいな、話しながら寝るって・・・とんだ失礼だし・・・。


そう思いつつ食事をしながら、ひなのはふとユノの手に目がいった。



「えっ、ユノ様その手・・・!」


綺麗な手の甲が、左だけえぐられたようになっていた。

血は止まっているが、出血していたことは明らかで、見ていられる怪我ではない。


なに、なんなのこの怪我!

治療した跡もなさそう・・・!



「あぁ、これか。

・・・昨晩のことだ。

俺に反対する奴らが、俺が人間を迎え入れたことで火がつき、各地でまぁ色々あってな・・・」


「・・・そんな・・・だから、ユノ様帰って来なかったんですね・・・

・・・ひどい傷です」


「それより、今日はお前を連れて行きたいところがある」


ユノは別段気にもしていなさそうに、話題を変えた。



「この人斬り住む平和町が誕生した・・・そもそも、妖刀の発祥地とも言われているところだ」


妖刀の、発祥地・・・?

今はユノ様の怪我もすごい気になるけど、それもすごい気になるかも!


だって私、何も知らずにここにいるんだから。

それに、八龍を操れる者とか言われて、それっきりで・・・


「しかし、今日は二人きりでは行けないことになった。


途中までだが、麗憐と空牙、鬼優という男と一緒だ。

昨日のことを調べさせねばならん」


「あ、そうなんですか。全然、私は大丈夫です」


・・・そうは言ったものの、そのメンバーで出かけたら、どうなるんだろ・・・



「そこに行けば、お前のルーツが分かるはずだ」

「・・・ルーツ?」

「出処と言えばいいのか、原点と言えばいいのかー・・・


お前の力についても、少しは分かるかもしれん」

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