第19話 添付ファイルはメイド服

 トレーラーの荷台が完全に開く。俺は機体を立ち上がらせると、荷台の内側に掛けられていた超長距離ライフルを掴んで背中のバックパックに装着し、弾倉マガジンは腰部に取り付けた。


【ディートヴィレ・クーゲル】


 元々の機体であるディートヴィレは人を模したスリムな容姿だ。

 人と同じ様なツインアイ。そして肩部、腰部、脚部には放熱用のフィンが付いている。

 しかしこのクーゲルは少し違う。砲撃メインにカスタムされている為、それに耐えられるように脚部と肩部には追加装甲が付けられている。

 その為少し重量があるのだが、それを理由に機動力を落とす訳にはいかない為、通常機よりも大きめのバーニアがつけられている。

 そのせいで少し燃費が悪い。まぁ、あまり動かなければいいだけの話だけどな。


「よし、行くぞクーゲル」


 俺は手元のレバーを押し込み、足元の一体型ペダルを踏み込んだ。

 それと同時にクーゲルの膝が少し沈み、それが伸びると同時にトレーラーの上から跳ねてすぐ脇にある専用の道路の上に飛び乗った。普通の道路だと重量に耐えきれないでアスファルトがすぐボロボロになるからな。

 後は目的地まで自走機能を使って行くだけだ。


 と、その時ちょうど俺のスマホが震える。

 取り出して見てみると、沢渡からのメッセだった。


〖ちゃんと何もなく家についたよ♪ 今日は楽しかったね! クレープありがとう!〗


 無事に着いてよかった。

 そして俺も返事を返す。


〖楽しかったなら良かった。明日の朝も今日と同じでいいんだよな?〗

〖うん! そういえば今日化粧が~とかって話になったけど、八代君は化粧してる子ってどう思うのかな?〗

〖ん? いいんじゃないか?〗

〖そう? そっかぁ……。うん、わかったぁ!〗


 一体何がわかったのかがわからないけど、そこで俺はスマホの電源を切ってポケットにしまう。目的地が見えてきたからだ。

 俺は操作をマニュアルに戻し、自分の中のスイッチを切り替える。


「明日の約束の為にも、早く終わらせないとな……」


 クーゲルを動かし、目的地である街を囲んでいる、外壁の近くの高台に到着。目標である戦闘区域まではおよそ九百メートル。

 俺はすぐさま背部から超長距離ライフル【ゲイブルガ】を外して腰だめに構える。脚部の追加装甲からは前後に爪が下ろされ、地面をしっかりと掴んだ。それを確認すると、腰部に付けられた弾倉マガジンをライフルに装着する。


「メインカメラとライフルのスコープを同調……完了。メインカメラにてターゲットを確認。対衝撃姿勢制御の設定……クリア。セーフティー解除。弾丸を装填」


 後は引き金を弾くだけ。

 そこで俺はサブモニターに意識を向けた。


「サヤカさん、こっちは準備完了だ。近くにいる味方機が邪魔になるから距離を取るように指示してくれ」

『了解。……って仕事中に名前で呼ぶんじゃないわよ! 隊長かリーダーかマスターって呼ぶように言ったでしょ!?』

「考えておくよ」

『まったく……今から前線に指示を出すわ。後のタイミングはアナタに任せるから』

「わかった」


 そこで通信は切れた。

 ちなみにこのサヤカさんって人が俺が上司で、クーゲルに乗ってから俺に指示してくる人。今年で二十四歳らしい。

 この【特殊機動三課】の隊長でありながらも、メカニックも兼業している天才で、ウチの高校のOBでもある。唯一の悩みは体型が中学から変わらない事だって言ってたな。俺も初めて見たときは中学生かと思った。なにしろ、アニメ声のツインテールだったし。後、「胸はあるのよ! 身長が足りないの!」が口癖だ。そんなこと俺に言われてもどうしようも無いんだけどな。


 ──ん? どうやらモニター内で動きが見えるな。注視していると味方機がゆっくりと散開していく。どうやら指示が伝わったらしい。

 ならばここからは俺の番だ。


 俺はスコープと連動したモニターだけを残して残りの画面を消した。念の為に周囲センサーだけは展開させ、俺はトリガーに指をかける。


 全神経を研ぎ澄ませ、敵機に集中。

 モニターにうつる標準を見つめてタイミングを測る。

 狙う場所はただ一箇所。頭部の少し下にある、機体制御伝達系回路の破壊。


「…………そこっ!」


 引き金を引く。それと同時に発砲の衝撃でクーゲルのボディが揺れる。

 そして、モニターに映っていた敵機は膝から崩れ落ちた。


「まずは一機……」


 突然味方機が倒れたことで残りの機体が周囲を見渡す様子が見える。だがもう遅い。

 お前達は全て俺の射程圏内だ。


 ◇◇◇


 作戦開始から約五分後。敵機は全て行動不能。立っているのは味方機のみの状況になった。


「作戦行動終了」

『チアキ、おつかれさま。基地に寄る? それとも帰る? 寄るならこないだの遠征で買ってきたお土産があるんだけど──』

「いや、帰るよ。こないだから居候してる子もいるから、遅くなってこのバイトに気付かれる訳にもいかないしな。サヤカさんが前に言ってたけど、女ってのは勘が鋭いんだろ?」

『そ、そうなんだ……残念だな……って、女!? 居候!? 何それ聞いてないんだけど!?』

「言う必要あるのか?」

「いや……ないけど……でも──」

「じゃ、帰るわ!」


 俺は一方的に通信を切る。この人に捕まると長いから嫌なんだよな。


 通信を切った後、すぐにポケットからスマホを出して電源を入れる。ん? 新着メッセが五件も来てるな。そんな長い時間電源切ってた訳でも無いんだけど……。


 そして宛先を見ると全てが一宮から。

 五件中のうち、四件の内容が今日買った物の報告と部屋の模様替えの報告。そして最後の一件には添付ファイルが付けられていた。


 それを開くとそこには──


【早く帰ってきてくださいね? ご主人様♪】


 というメッセージと共に、胸元が大きく開き、谷間の強調されたメイド服を着ている一宮の写真が表示された。


「なんでいきなり……。まさかこれも今日買ってきたのか? まったく……」



 ──保存。



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