第7話 生まれて初めての手作り弁当

「千秋君、今日はありがとね」

「ん~? いいよいいよ」


 買い物も終わって帰ってる途中、隣を歩いてる一宮がそんな事を言ってくる。

 あの後昼飯を食ってからは、一宮が家の中で着る為の普段着を買いに行って、最後にホームセンターで組み立て式のカラーボックスを二個購入したとこで買い物は終わった。

 来る時にも教えた電車の乗り継ぎをもう一度教え、今は二人で荷物を手にぶら下げながら駅から俺ん家までの道のりを歩いている。もちろん重いのは俺が持ってる。カラーボックスは紐で括って背中に背負った。なんか修行してる気分だな。


「だって重い荷物持って貰っちゃってるし……」

「いいって。ほら、もう着くしさ」

「うん」


 玄関の前に立ち、鍵を開けて中に入る。どうやら父さんと母さんはまだデートから帰って来てないみたいだな。


「俺は風呂洗ってくるから、荷物を部屋に持って行って片付けてきたら?」

「あ、私洗うよ!」

「いや、いいよ。慣れない所行って疲れただろ? 今日は俺がやるから、また今度お願いするから」

「そう? ホントにありがとね。後で今日買った服見せに行くね?」

「へいへ~い」


 ……ん? 今なんと?

 適当に返事しちゃったけど、買った服はほとんど見たぞ? だってパジャマ買う時も普段着買う時も連れてかれたからな。見てないと言えば……下着くらいか? いやいや、さすがにそれはないか。ないよな?


 風呂掃除の後、俺は部屋でスマホ片手にゴーロゴロ。隣の部屋からはガタガタゴソゴソ聞こえてくる。きっと今頃カラーボックスを組み立てているんだろう。

 二階で自分以外の人がいるという、今までは無かったそんな音を聞いていると下から物音がした。母さん達が帰って来たみたいだな。

 スマホを充電器に差して下に降りていくと、リビングには母さんしかいなかった。


「おかえり。あれ? 父さんは?」

「言ってなかったっけ? お父さんはもう船に乗ったわよ。今日の夕方からまた三ヶ月間は海の上ね。そっか……香月ちゃんを紹介してそのまま忘れてたわ」

「俺、会ってないんだけど? まぁ別にいいけどさ」

「それ本人に言っちゃダメよ? 泣くから」


 そんな話をしてると上から一宮も降りてくる。

 その姿は買い物に行った時とは違う格好。今日買った服に早速着替えたみたいだ。

 七分丈の黒いモコモコしたズボンに少しダボついたオフショルダーの白いシャツ。よく見れば透明の紐みたいなので吊ってある。パッと見だと胸に引っかかってる様に見えてなんか……なんかだ。


「あ、美智子さんおかえりなさい。今日はありがとうございました。おかげで色々必要な物を買うことが出来ました」

「あら、そんなの全然いいのよ? それも今日買ってきたの? 可愛いじゃない 」


 あ、美智子さんってのは俺の母さんの名前だ。

 そしておじぎした時に胸元が見えるかと思いきやそんな事はなかった。良くできてるよなぁ~。女物の服ってすげぇな!


 その後は母さんが買ってきた弁当で夕飯を済ませて風呂にも入った。今は一宮が風呂に入っている。すると、「お風呂上がりました~」の声と共に、今日買ったモコモコのパジャマを着た一宮がリビングに入ってきた。

 ヤバい。めっちゃ可愛いんだが!?

 だけどこの後余計な事を言ったから台無しだ!


「あら、そのパジャマ可愛いじゃない」

「はい。これ実は、千秋君が選んでくれたんですよ♪」

「あんた……買い物に付き合えとは言ったけど性癖を押しつけろとは言ってないわよ……」

「なっ! 違うわっ! これは……」

「美智子さん違いますよ。私が選んでって千秋君に言ったんです」

「そうなの? なんだ。あんた案外センス良いじゃない♪」


 助かった……。危なく性癖押し付け男になる所だった……。


 ◇◇◇


 そして翌日。

 今日から月曜日。学校が始まるからさすがに今日は自分で起きた。

 で、下に降りるとキッチンには何故か母さんの隣に一宮が立っている。


「おはよ。あれ? なんで一宮が?」

「私はいいっていったんだけどね? お世話になるからって言って手伝ってくれてるのよ。家でもやってたのか、凄く手際良くて驚いちゃった。ちなみにあんたの弁当も香月ちゃんが作ったのよ?」

「あはは、引き篭ってた時に色々作ったりしてたので……」


 な、なんだって!? 手作り弁当だとぅ!?

 しかも女子の!!


「おぉ……おぉう……」

「あんたなんで弁当掲げて唸ってるのよ。変よ」


 変とか言うな! 俺は今猛烈に感動してんだからさぁ!


「そ、そんなに喜んでもらうとなんだか照れちゃうな……」

「何を言う! こ、これが感動せずにいられるかよ! 生まれて初めての女子からの手作り弁当なんだぞ!?」

「そ、そうなんだ……。えへへ。良かった……」

「よし、これは自慢しながら味わって食べよう。そうしよう。今決めた」

「え!? ちょっ!? それは待って!」


 待たぬ。決めたもの。

 これで「八代君はその……か、彼女とかいないのかな?」「君は彼女作る気はあるのかな?」って言ってくる沢渡と九重を見返す事が出来るじゃないかっ! ふふふ……。


 そして最後まで「自慢はやめてぇぇぇ」って言ってくる一宮をスルーしたまま俺は玄関を出た。




 ━━━━━━━━


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 勇者残業中!~魔王のせいで恋人も出来ないし仕事も終わらないからちょっと倒してくるわ~

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