3・骸骨騎士団

 エルザ=ナオミがその時身につけていたのは、リューグ王国の未婚王族女子が公式行事に出席する際に着用するドレスで、大きく誇張された胸の膨らみがあって裾が足首まである、およそ激しい運動に適さないものだった。


 しかも王太子になった女子の衣装に相応しいモノでもなかった。そうなったのも王族が暮らしていた王宮が骸骨騎士団によって破壊され、わずかに生き延びた王宮女官が瓦礫の中から探していたもののなかで合いそうなものを着せられたものだった。本当なら仕立て直さないといけないところだが、王族の高級な衣装を直せる仕立て屋もいなくなっていたので、急ごしらえの工夫をしていた。


 だから彼女の体形にフィットしていないものだった。特にドレスの下のインナーの類はもうそれだけで拘束具ではないかと思うほど肌とフィットしていた。でも、それが何とも言えない恍惚感をなんとなく当てていた。衣装が彼女の身体を締め付けているようだった。


 そんな衣装を楽しんでいる娘を見ているガイル三世、いや少し前までガイル・カウヴェは片田舎で農民として果樹園を営んでいた。先祖から受け継いだ畑に様々な果樹を植え、それを採ってはジャムやジュースなどの原料として出荷する毎日だった。ただ近年の異常気象により収益が悪化し生活に困窮していた。


 そんな毎日が突如終わりを迎えたのは二十日前の暴風の晩だった。リューグ王国に突如異界からの侵略の門が現れたのだ。その門から飛び出してきたのが骸骨騎士団と呼ばれる正体不明の異形の戦士たちであった。数世紀にわたる王国を平和にしてきた安息の月日が終末を迎えたのであった。


 この世界にとって異界からの侵略者は地震のように自然災害の一種であったので、各国の軍備という物は人間同士の争いよりも、異界からの攻撃に対応するものに整備されていたはずだった。しかしリューグ王国に現れたそれは想定外の強さでかつ大群だった。その攻撃に完全に不意を突かれたので一切反撃できなかった。


 骸骨騎士団は王国内のありとあらゆるモノを奪い人々を殺戮していった。その被害を貴賤富貧に関係なく受けた。ガイルの果樹園も骸骨騎士団によって木々をなぎ倒され、粗末な農機具さえも奪われたが、せめてもの救いは命だけは失わなかったことであった。侵略の旋風は王国内を蹂躙し、前国王のハウロス8世一家や王国評議会のメンバーの命の火を全て消し去っていった。


 侵略は何故かリューグ王国だけ行われ周辺諸国は一切なかった。そのため避難民の受け入れだけは行われたが、一切の援軍がくることはなかった。骸骨騎士団と戦うのを回避するためだ。それだけ侵略者を恐れていた・・・骸骨騎士団が満足して消え去るのを待っているのだろう。骸骨騎士団はこの世界全てを支配する気はないだろう、それが今までの歴史が証明してくれた。


 それを想いながらガイル三世は馬車に所狭しと置かれた皮袋に足を置いた。それは魔道士への支払いにするための銀貨が詰まっていた。銀貨は王宮の霊廟にある秘密の金庫室から運び出したもので、王国に残された数少ない財産であったが、持ち逃げする以外の唯一の手段に充てるつもりだった。異世界からの侵略者に対抗するため、異世界から勇者を召喚するための・・・

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