第2話科学者と惑星探査

ここ1000年における人類の命の使い方は3つに大別される。


1つ、長命で頑強な肉体を駆使し科学者となり宇宙の神秘の発見、調査を行う。現代の科学者は大昔のそれとは違い、自ら宇宙を飛び回り調査と理論の検証をする。そのため、彼らは人類の中で最も戦闘能力に長けた者たちでもある。


1つ、過ぎた科学技術の発展は破滅をもたらすと主張し、1万年以上前の生活形態を維持しようとする。彼らは温故派と呼ばれ、全人口の約3割にも及ぶ。


1つ、ひたすらに娯楽を消費する。人類が労働から解放され、その過程で多くの娯楽が開発されたため、大多数のものが多種多様な娯楽を消費しているうちに一生を終える。


「それにしても、君の両親は温故派なんだろう?よく、新たに観測された宇宙に行くことを許してくれたな」。

そう、ウィリアムはニヤニヤしながら語り掛ける。当然だが、科学者にとって温故派というのは蔑称に近い。週5の労働や乗り物での移動を好んでするというのは、今の人間にとってはあまりにも理解できないものなのだろう。


「温故派だからですよ。多元宇宙の性質についてあまり理解していないのです。それに、別の宇宙に行って何も発見できなければ幻滅して科学者になることをあきらめると信じているのでしょう」。


「あらら。それは残念だね。実は、その宇宙のソフィア1bで知的生命体と思われる反応が観測されたんだよね。しかも、それなりの文明を形成しているかもしれない。ま、宇宙を構成する要素が我々のものとは大きく違うから実際に行ってみないと分からないけどね」。


「それは、楽しみですね。どこかの宇宙に知的生命体が存在することは、随分前から証明されていましたが、遂に発見されましたか。確かそこは、比較的狭い宇宙でしたよね?」。


「端から端で1万光年ってところかな。ダークエネルギーの代わりに未知のエネルギーが充満していて、膨張しようとする宇宙を一定に保っている。今のところ別の宇宙から分裂して生まれた宇宙である、という説が有力だよ」。


「分かりました。詳しい説明はまた宇宙間航行中に聞かせて下さい。今日はそろそろ帰らなくてはなりません。なんせ僕は徒歩なんでね。あなたと違って徒歩なんでね」。


「あははははは!君、まだそんなことしてたのか。家の前にテレポートして歩いて入ればいいじゃないか」。


シュウは「はあ」、とため息をつきながら席を立つ。完全にウィリアムにからかわれているのだ。


「それが出来ないことくらい、あなたなら分かっているでしょう」。

そう言って、シュウは店を後にした。

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