「ティーファ・オルゼ」




「ティーファが異世界人とマッチングした」

 ハロルドから、突然来たメッセージに、どう返答していいのか分からず、思考が停止した。衝撃が大きすぎる。


 いや、異世界人とのマッチング自体は、奇跡的だ、の一言で片付けられるかも知れないが、魔力回路の解析に成功し始め、1日でレベル3になったと言う事実。これが重要だ。


「ハロルド、詳しい話が聞きたいわ。今、通話出来る?」

「ごめん。まだ演習中で、通話出来そうにない。夜、宿舎を抜け出す。その時に話そう」

「分かったわ」


 メッセージのやり取りを終えて、部屋に運んだ荷物をベットの脇に移動させた。お気に入りのオレンジ色のバックを取り出す。中に財布などの貴重品を入れて、春日部遥と約束したエレベーターの前へ移動した。


 エレベーター前には、既に春日部遥が待っていて、私を見つけるなり、笑顔で手を振ってきた。


「課長、遅かったですね」

「春日部さん……さっき、ハロルドから連絡があったの」

「何か……あったんですか?」

 私の真剣な表情を見て、直ぐに察したのだろう……春日部遥も真剣な顔をして、声のボリュームを落として、呟くように言った。


 事のあらましを説明すると、春日部遥は目を大きく開いて、手を口に当てた。言葉が出てこないのだろう。


「ティーファ・オルゼは、優秀な錬金術師の様だし、このままレベルを上げて、こちらの世界へと来るつもりだと思う……彼女の目的は、恋愛なんかじゃなく、こちらの世界の科学技術だ、と、ハロルドは言ってるけど、正直、不安だわ」

「前に話してくれましたね。こちらの世界の科学技術の情報と交換に、向こうの世界の情報を教えてくれるんでしたよね」

「そうなの……でも何か別の目的があるのかも知れない」

「確かに……取り敢えず、潤くん達と合流しませんか?そこで相談しましょう」

「そ、それもそうね!」

 私達は、エレベーターに乗って、フロントへと移動した。


 そのままホテルの外に出ようと、歩を進めていると、急に聞き覚えのある声が、近くからした。


「美咲!?」

「悟さん!?」

 フロントにある椅子に腰掛けて、私の昔の恋人である加藤悟が、驚いた表情で、そこに居た。


「美咲、なんで大阪に?」

「友人と観光に来てるのよ。悟さんは?」

「俺は仕事で……」

「そうなのね。偶然って怖いわ」

「だな。もし良かったら、今夜、一緒に飯でもどうだ?そちらの女性も一緒に」

 あ!と気付いて、急いで春日部遥を紹介する。


「こちら、春日部遥さん。私の直属の部下で、期待の星よ」

「課長、期待の星だなんて、やめてくださいよ〜」

 プレッシャーじゃないですか〜、と笑いながら、言って、春日部遥は悟さんに頭を下げた。


「初めまして!春日部遥です」

「こちらこそ、初めまして。加藤悟です。美咲とは、大学時代からの友人です」

 悟さんも頭を下げて、微笑んだ。


「食事、一緒に取りたいのは山々なんだけど、大阪に居る友人と食べる予定なのよ。ごめん!」

「そっか……残念だな。大阪には、いつまで居るんだ?」

「火曜日まで有給取ってるわ」

「そうか……じゃあ、もし時間があれば、どこかのタイミングで、お茶でも」

「そうね……悟さんには借りがあるし、ご馳走させてね」

「ありがとう」

「じゃあね」

 手を軽く振って、春日部遥と共にホテルを出た。


「素敵な男性ですね……でも、悟『さん』って言い方からして、年上の方ですか?」

「そ、そうよ」

 春日部遥は、ニヤニヤしながら、私に質問してきた。嫌な予感がする……



「学生時代の友人?って言ってましたけど、元恋人とか?」

「な、な、な、なんで分かるのよ!」

「課長、分かりやすいんで。気まずそうな顔してましたし。課長は、恋愛の事となると、新入社員より頼りないですね」

 ふふふ、と笑いながら、春日部遥は言った。


「羽生さん!遥さん!こっちです!」

 さっきレクサスを停めていた場所から、移動したらしく、香坂潤が少し離れた場所から声を掛けてきた。


 後部座席のドアを開けて、エスコートしてくれる。


「じゃあ、大阪城を見に行きましょう。周りが大きな公園になってるんですよ。散歩するには良い季節ですし、ゆっくり歩きながら、色々な話をしましょう」

「香坂さん……その事なんだけど」

「はい?」

 私は、春日部遥に話した内容を、そのまま香坂潤とアメリアに伝えた。


「ティーファ先生が……」

 アメリアは、ショックを受けている様だった。


「アメリア、大丈夫か?なんか心配なんか?」

「潤は、ティーファ先生を知らないから、上手く説明出来るか分からないんダケド……ティーファ先生にとって、このアプリは、長年の悲願を達成するタメに、とても重要なモノナノ……ティーファ先生は、とても優秀な錬金術師だし、恐らく、こちらの世界へ来るノモ、そんなに遠くないとオモウ……」

「アメリアにとっては、そっちの方が良いんとちゃうの?向こうの世界に帰れるんやで?」

 辛そうに表情を歪めながら、香坂潤は、レクサスのエンジンを掛けた。


「……潤、意地悪しないデ」

「ごめん」

 なんだか重い空気になってしまって、全員が黙ってしまった。香坂潤の運転するレクサスは、スムーズに道路を走り、10分強で大阪城の近くの駐車場に着いた。


 空は私達にまとわりつく、重い空気とは裏腹に、雲ひとつない快晴。私達は、車を降りて、ティーファ・オルゼについての話をしながら、大阪城を目指した。

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