「大阪への計画」



「飛行機か新幹線か、どちらにする?」

 私は、メッセージを春日部遥と香坂潤のグループへと送信した。


「新幹線が良いと思います。駅に直接着くので、アクセスが分かりやすいです」

 香坂潤は、直ぐに返信を返してきた。


「え〜、マイル溜まってるから、飛行機がいいな」

 春日部遥も、返信してきた。皆、夜中なのに、起きている様だ。


 6月後半になって、私達は1度、皆で会わないか?と言う話になった。香坂潤が、僕が東京に行きましょうか?と提案してきたが、アメリアの事がある。私と春日部遥は、大阪観光したいから、と香坂潤の提案を上手く断って、大阪で会う事にした。


「香坂さんの言う通り、新幹線にしましょう。空港までの時間を考えたら、そんなに変わらないし」

「課長がそう言うなら……」

「美味しい駅弁、奢ってあげるわよ」

「やっぱり、旅の醍醐味があるのは、ゆっくり外の景色を見れる、新幹線ですよね!」

 春日部遥の手の平返しは凄い。


「遥さんは、ご飯に弱いなあ。大阪で食べたいもんとかある?」

 香坂潤は、大阪にある大病院の院長の一人息子で、本人も医者になる為に大学に通っており、かなり裕福な暮らしぶりの様だった。アメリアをホテルに宿泊させている料金も、全て香坂潤が出しているらしい。


「そうね、やっぱり、たこ焼きとお好み焼きは外せないわ。他には何かオススメはある?」

「僕がよく行く、美味しい串カツのお店があるよ」

「串カツ!考えただけで、よだれが出てくる!」

「香坂さん、気をつけてね。春日部さんは、男の人より食べるわよ」

「ははは。オトンに小遣い貰わなアカンなあ」

 絵文字スタンプで、怖い!って感情表現をして、香坂潤は、お店の詳細をURLで送ってきた。


「わあ!お洒落なお店!潤くん、課長はお酒が好きなんだよ。課長、ここ、色々なビール置いてありますね」

 私もURLを確認する。予算、おひとり様1万5000円とあって、少し引いた。香坂潤は、こんな高級店に、『よく行く』のか。


「日本酒やワインも良い奴、置いてますよ。後、観光なんやったら、大阪城と通天閣と、グリコのマーク見に、道頓堀やなあ」

「楽しみ!明日、仕事が終わったら、直ぐに荷物詰めて、早く寝ようっと」

「春日部さん、食べ物以外にも興味があるのね」

「止めてくださいよ、課長〜!こう見えても、私、休日には美術館とかに通う、インテリ女子なんですから!」

「意外過ぎて、想像できひんわ」

「なんですって?潤くんが破産する位に、串カツ食べてやる!大阪の小麦粉の流通止めてやるから!」

 楽しい。まさか、この歳になって、こんなに歳の離れた友人が出来るとは、思わなかった。


 明日、仕事を終えたら、その足で新幹線のチケットを買いに行こう。


 私達は、何時に駅に集合するか、と言った話をして、真夜中までメッセージのやり取りを続けた。





 ハロルドと、あの後、少しのしこりを残したまま、仲直りをした。私も感情的になり過ぎた。ハロルドだって、香坂潤とアメリアの事を思っての行動だっただろう。けれど、冷たいと言えるほどに、冷静な提案をしてきたハロルドの意外な一面を知って、私は怖くなったのだ。


 ハロルドは、今、『ソラクタン高原』と言う所へ、隣国の軍隊と合同軍事演習を行っている。ハロルドは、心配要りません、と言っていたが、何か事故に巻き込まれるかも知れない……と考えて、不安が止まらなくなって、頻繁にハロルドにメッセージを送る様になっていた。そんな私に、ハロルドは、しっかりと付き合ってくれる。返信は早いし、長文でメッセージを送ってくれる様になっていた。正直、ハロルドの、そんな優しい所に、ゾッコンだ。


「ハロルド、私はそろそろ寝ます」

 就寝前に、ハロルドにメッセージを送った。


「美咲、俺も、そろそろ寝ます。お互いに、良い夢を!」


 最近、あまり、よく眠れない。




 次の日の朝、小雨が降っていた。天気予報を確認すると、明日には晴れるらしい。良かった。明日、早朝から大阪行きの新幹線に乗って、香坂潤に会いに行く。


 出社して、朝の会議に出た。


 マーケティング部門の管理職の男性から、私の上司の山口さんに、批判的な質問が多く飛んできた。なんで社内で争うんだろう。面倒臭いな。


「山口部長!お疲れ様でした」

 会議が終わって、山口さんに声を掛ける。大丈夫だとは思うが、少しでも愚痴を聞いてあげたかった。


「羽生さん、お疲れ様。『山口部長』ってのは止めてよ。いつもみたいに、『山口さん』って呼んでくれ」


 山口さんは部長職だが、『部長』と言う肩書きで呼ばれるのを嫌がって、新入社員にすら、名前で呼ばせてた。ポリシーなんだろう。そのポリシーを大事にしたいので、私も、私の部下達も、山口さんを名前で呼んでいる。


「まだ、他の部門の人間も周りに居ますので……」

「あ〜。まあ、しょうがないね」

「本当にお疲れ様でした……」

「いや〜、今回はキツかったね。あの人、僕に恨みでもあるのかなあ」

 正直に言うと、山口さんは恐らく、数年の間に経営陣に回る。それ程、優秀な人材だ。そして、マーケティング部門の男性も又、優秀な人材で、数年の間に経営陣に回ると言われている。ライバル視してるのだろう。男の嫉妬は見苦しい。


「お昼、ご一緒しませんか?」

「いいね!と、言いたいところだけど、今日は奥さんから弁当を渡されてるんだよ。またの機会にしよう」

「では、お茶ならどうですか?」

「それならOK。30分後に、何人か集めて、ミーティングルームでお茶しよう。リフレッシュも肝心だ」

 山口さんは、鼻歌を歌いながら、自分のデスクへ向かった。


 私は何人かの部下に声を掛けて、食事の後、お茶しない?と尋ねた。数人の部下達が、楽しそうですね!と話に乗ってきて、ミーティングルームの予約をした。


「課長!私、お茶菓子買ってきます!」

 春日部遥は、目を爛々らんらんとさせて、私に言った。


「春日部さん、貴方、本当に食べる事となると積極的よね……これ、お菓子代。甘い物ばかりでなく、塩気のある物も買ってきてね。貴方だけが食べるんじゃないんだから」

 1000円札を3枚、春日部遥に渡した。分かりました〜、と言って、春日部遥はビルの1階にあるコンビニに向かった。


 胸ポケットに入れたスマホが揺れた。


『ハロルドさんとの親密度が上がりました。LV3になりました。三辺、60センチ未満の荷物を送る事が出来るようになりました。回数は1日1度です』


『イチゴイチエ』が、レベルアップした。


 しかし、私は、その内容に驚いた。春日部遥、香坂潤の話では、レベル3になると、通話時間と通話回数が増えるだけだった筈だ。


 何かがおかしい……。私は、春日部遥が早く戻ってくるのを祈った。




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