第7話 恥ずかしがりな先輩に「甘やかされたい」と頼んでみた

「せ、先輩に……甘やかされたいです」


 何を言ってるんだ俺は。口を開いてから俺は思った。

 けれど開いた口は塞がらず──


「先輩に、膝枕されたりとか、撫でられたり……とか。先輩みたいな人にそうされたいってずっと思ってて……」


 俺はずっと抱いていた欲を全てぶちまけた。

 付き合って間もないのに、そんなこと言うのは違うよな。欲に忠実になったさっきの俺を全力で止めたい! 先輩、俺のこと引いてるよな……。

 しかしどう考えても、時すでに遅し。俺は恐る恐る顔を上げて、先輩の顔色を伺った。


「膝枕に、ナデナデだなんて……」


 すると先輩は真っ赤になった頬を両手で押え、「ふえ~」と声をあげて狼狽えていた。


「ごめんなさい、先輩! さすがに調子乗りました!!」


 俺は正座をして、土下座を披露する。


「……わかった。やろ?」

「へ?」


 驚いて、俺はバッと頭を上げた。

 顔を見ると、頬を紅潮させながらも、両手を小さく広げて「おいで?」と言ってるみたいに構えている。


「本当に、いいんですか?」


 そう聞くと、わずかに首を縦に振った。


 俺、今からあの膝に。靴下とスカートの裾の間の領域に頭を置くんだよな??

 意識すると、身体が熱くなる。脇から雫のような汗が出ている。


「ほら、はやく」


 先輩も目を背けたくなるほどの羞恥を感じているみたいだ。

 自分で言っておいて、今更引けないよな。


「じゃ、じゃあ……」


 俺は勇気を出して、座りながらゆっくりと先輩の膝に近づいた。


「お、お邪魔します」


 と、丁寧な言葉を添えて頭を先輩の膝に近づけた。

 その間、さっき嗅いだばかりのシャンプーのにおいがまだ残っていて、その甘い香りに包まれる感覚が味わえた。

 俺の頭はまもなく先輩の白く細い膝に着き、そして──


「ひゃっ!!!」


 膝に頭を置くとすぐに、先輩は驚きで高い声をあげた。


「大丈夫、ですか?」

「大丈夫。ちょっとくすぐったくて、つい……」


 先輩がそう言うと、俺は安心して膝に頭を完全に預けた。

 本当は「ごめんなさい!!」と言ってすぐこの場を離れると思ったが、先輩の膝がひんやり冷たくて、それが癖になって離れられない。

 困ったぞ。これ、冬の炬燵こたつよりも引力高いやつだ。先輩には申し訳ないが、しばらくはこのままの状態になりそう。


「えっと、次は……こう?」


 あぁ、いい……。

 先輩の手の柔らかな感触が頭から伝わってくる。膝枕されて、撫でられて──今日の疲れと、ボッチになることで抱いていたストレスが一気に和らいでいく。


「……先輩?」


 先輩の手が止まった。何事かと思い、声をかけると……


「……柔らかい」


 さっきまで感じていた柔らかな感覚が頬に移った。

 俺は今、先輩に頬を指先で突かれ、摘ままれている。


「あの……」

「ご、ごめん! つい気持ちよくて……」


 先輩はパッと手を離して、あたふたした様子を見せた。


「いや、全然大丈夫ですよ!?」


 俺ばっかりお願い聞いてもらってばかりだと申し訳ないし、俺の(柔らかい?)頬は減るもんじゃない。


「それに──」


 俺は照れくさく感じながらも、こう言った。


「そっちのほうが、撫でられるよりも……いいですし」


「じゃ、じゃあ、お邪魔します」


 先輩は俺が膝枕されるときと同じように、丁寧な言葉を添えて──


「ははっ、柔らか~い」

「!?」


 弾んだ声をあげて、先輩は俺の頬を優しく引っ張った。そしてその手を上下させてみる。


「あの……」

「~♪」


「何やってるんですか」と言おうと思ったけど……まぁ、いいや。

 さっきまでの緊張と羞恥は何処吹く風。先輩がリラックスした姿に、俺は何も言わずに膝枕されながら頬を弄ばれた。

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