第54話 生命の花
「モリー、この施術はお前にかかってる」
フルヴラにそう言われてモリーはごくりと唾を飲み込んだ。
アナベルの身体は魔法陣の中央に横たえられている。蘇生術の魔法陣ではなく、ただ治癒力を高める為の陣である。
「俺は蘇生術なんて使えないし、知らない。だけどきっとこれは魂と人格とを身体に入れてやるだけで良いはずだ」
世の人体蘇生術は失われた魂や人格を作り出して遺体に入れようとするから失敗が多い。
「そして『賢き女』の一族であるお前なら、人の身体に癒しの魔力を注ぎ込める」
「わ、わかったわ。——双子ちゃん、魂とアゲハ蝶を
魔族の双子がトテトテと歩いて来て、その手を差し出す。それぞれ手のひらに光球とアゲハ蝶とをのせている。
「あのー、俺も何か出来る?」
フリギットが魔法陣の外から遠慮がちに声をかけた。フルヴラはその心配そうな彼の声を聞いて微笑ましく感じた。
「お前はアナベル殿の応援をしていろ」
「応援?」
「心からの愛を込めて、彼女の無事を祈るんだ」
「こっ、子どもくせに何を言う……」
「子どもじゃないんでね」
少年はフリギットを片手で追いやると、モリーの後ろに立った。
「さあ、始めるぞ」
モリーの杖の魔晶石が桃色に輝く。その杖の先をまずは魂の光球とアゲハ蝶に向けて、その二つを合わせる。
双子の手から浮かび上がったそれは、モリーの杖に従って重なり合い、光球の中に蝶が溶け込んだ。
「フルヴラ、これで合ってる?」
「合ってる。自信を持て」
モリーは、すう、と深呼吸すると、杖をアナベルの身体に向けて動かす。光球はそれに従って彼女の胸からゆっくりと重なっていく。
それを確認すると、フルヴラは魔法陣の効力を高める為に魔力を放出した。明るい緑色の輝きが部屋に満ち溢れる。蘇生したばかりのアナベルの身体を労る為の治癒魔法を発動させるのだ。
緑色の若葉のような輝きの中央に、花の如き薄桃色の光が開いていく。
——生命の花だな。
フリギットは
アナベルの頬が紅潮し、
その可憐な唇にも艶が戻り、少し震えて言葉を紡ぎ出す。
「——
つづく
◆蘇生術
この場で行われたのは、本人の身体に本人の魂、本人の人格を整えるものであろう。それに加えて儚い魂の光球と人格の蝶を扱える魔力の宿った手を持つ魔族の双子がいた事と——彼女帰りを待つ者たちの想いも成功させる力となりえた事と思われる。
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