第4話 真夜中の小瓶

 素敵なお嬢さん・アナベルの気を引きたいグランシエラ騎士団の団長さん。

 彼女が気にいる良い品あるかしら?



◆◆◆◆◆◆◆


 はい、いらっしゃいまし。

 おや、これはこれはまた高名な方がいらっしゃいましたな。へえ、さすがに私でも御名前を存じておりますよ。グランシエラの騎士団長様でございましょう?


 さて、質実剛健、そのお身体と剣を持って国を守る団長さんが、うちなんかになんの御用でございます?


 いえいえ。うちの店にあるのは魔法道具のたぐい。子ども騙しの雑貨ばかりでして。いえ、効果は本物でございますよ。


 なに?安心した?

 あまり魔法に詳しくない?

 御安心を。

 たいていの街の人々は詳しくありませんて。


 その点、うちのは「道具アイテム」でございますからね。魔法が使えなくても道具そのものが力を発揮しますからね。


 ええ、普通の人の微弱な魔力で作動するものもございます。


 え? 最近素敵な女性に出会った? それはそれはようございました。


 その女性が、最近よく眠れない?


 ああ、女性にはありがちなお悩みで。


 え? 違うそうではない?


 ほう、ほう。

 素敵な女性で求婚者がひっきりなし。あろう事か、夜に寝所に忍びこもうとするやからも出始めたと。


 そいつはいけませんね。

 なるほどそこで団長さんが一肌脱ごうと、そういうわけでございますね。


 よごさんす。

 うってつけのアイテムがございます。


 ええと、どこに置いたか……。何しろ小さい小瓶でして。いえ、お薬ではございません。中に静かなる夜を封じ込めた物でしてね。ええ、瓶の中は夜と金の星屑、それから静寂の時を固体化した歯車とが入っていて……。


 いえ、それじゃあありません。もっと小さい……それこそ団長さんの耳の穴に隠せるくらいの……。


 ああ、それでございます。

 お手数をおかけして。

 はい、500ギルで。

 安い? まあ、アクセサリーみたいなもんですからね。うちの兄貴がどっかから仕入れてきたんで。


 ええ、枕元にでも置いてくださいまし。そのお方によからぬ企みを持つ者を寄せ付けません。静かな夜をお約束しましょう。






 はい、いらっしゃいまし。

 おや、団長さん。

 何を泣いていらっしゃるので? 騎士団長様ともあろうお方が、一体どうしたんでございます?


 なになに?

 例の素敵なお嬢さんに『真夜中の小瓶』をプレゼントしたら、お嬢さんはぐっすり眠れる様になった、と。


 良いではございませんか。


 へ?

 自分も共に休もうとしたら……?


 見えない壁に阻まれて、素敵なお嬢さんに近づけなくなった……?


 ははあ、それは仕方ございませんな。よからぬ事を企んだ貴方様が近づけないのは当然でございます。


 なに?

 真剣なお付き合いを望んでいると?


 ……お嬢さんの方が嫌なんでございましょうね……。



つづく


次回『ウイスキー・フラワー』




◆『真夜中の小瓶』


 元は高名な魔術師が安眠するために作ったもの。持ち主の魔力を受けて発動し、安らかに眠れる空間を作る。静けさ、快適な温度は勿論のこと、敵意或いは害意を持つ者を寄せ付けない障壁を造る。

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