月暦4 高みの見物

「みなっちゃーん、このグループ強すぎるよ!!学級委員コンビが無双してる☆」


「いや、A班も相当だと思うけど…」



宮浜は結界を作成。星合が校庭の真上に水を張り、松風が太陽光を操作し、水に反射させる。その間に若倉が山岸の魔眼を利用し、上空から敵の主力をお得意の剣道で斬りかかり、ノックアウト。


最後に校庭が大きな水たまりになったのは少々先生方の肩を落とした。



「お疲れ様〜!」


「いやいや、お疲れ様はこっちのセリフだよ桜都。」



松風が満面の笑みを世凪に向ける。可愛い。

能力者実技演習授業、それが週に一度ある実習と呼ばれるものだ。グループごとで能力をうまく活用し、審判の判断でノックアウトさせるという、体育から授業名が変更されたものなので、もちろん、定期テストもあれば実技テストもある。



「つっきーに会いに行かないと!演習中ずっと教室から見ててくれてたし!」


「行ってきなよ☆」


「うん!!」



月影、彼が授業に参加しない理由。



「参加できないんだよな…危険能力者だから。」


「ああ。」



若倉が教室の窓に哀れむような目で視線を運ぶ。星合が返事をするが、若倉には届いていない様子だった。


危険能力者、国家的規模または、より大きな危害を加えるとされる能力者をそのように指す。

そのため、彼ら彼女らは実習に参加することができない。

代わりに実技テストは満点扱いとされる。教師、生徒からだけでなく、大多数の人間から異端者扱いをされる。

危険能力者の人口は国民の0.0001%にも満たない。この国家の人口は一億人ほど。

つまり、1000人にも満たない人数が各地にいるという訳だ。彼ら彼女らは国家に保護されているという言い方をされるが、実際には監視対象にあるという言い方の方が正しい。

どのように監視されているのか詳しく知る者は危険能力者と国を動かす人間たちしか知らない。



「本当に実在したんだねー、危険能力者。」



宮浜が珍しくほうけた顔を見せる。ここにいる五人は危険能力者だから異端などという考え方を持ち合わせていない。



「月影の能力ってなんだっけ?」



山岸がこんな質問をするということはよっぽど月影にも危険能力者にも興味がないんだと4人は察する。



「能力無効化。ただの能力無効化なら危険能力者にはならないけどね。」



世凪が補足説明をする。能力無効化=危険能力者と間違えるようになれば、他の能力者に失礼だろう。



「能力量が相当高いんだろうな。」


「それ言ったら捺記もじゃん。」


「俺はギリギリ大丈夫だったんだよ。」


「へぇ〜」



能力量は自分の命と関わってくるものとなる。能力量が高い場合、耐力が高く、エネルギー量の容量も大きい。

逆に、能力量が低い場合、早死にすることが多いと言われている。

科学的な検証が行われていないため、はっきりとはわかっていない。



「それにしても、星合の能力は自然能力群の割に能力量すごいよね。」


「覚醒遺伝ってやつかな…」


「今俺の真似したな?捺記」


「お前ほど厨二病の能力者はいないと思うぞ。」


「いやいや、この魔眼能力は名前かっこいいけど、攻撃できないから使えないぞ?私生活では便利だけどな」



魔眼能力、眼を利用した能力は多数あるのだが、それらを総合させ、攻撃性を持つ能力のみ除外されたものを魔眼能力と呼ぶ。その能力を安易に利用しないために山岸は眼鏡をかけている。



「山岸、お前眼鏡とったらどう見えんの?」


「裸に見える。」


「ねえ山岸、この間の映画の帰り覚えてる?」



後ろを振り返ると世凪の冷たい笑顔がそこにはあった。



「あ…」


「一回死んだほうがいいんじゃないかな?」


「いや待て!俺は下着派だ。下着つけてる女子のほうが俺の性癖的に」


「うっわ、きっもーい。」



宮浜も身を縮こめて眉間にシワを寄せている。



「山岸、こりゃ死刑だわ。」



若倉の辛辣なお告げ。



「いやいや、俺そんな眼鏡外さないって。

土下座しますから…」


「もうなにも信じられないわ…」



世凪に続いて三人は山岸を外に残し、さっさと教室に帰った。



* * *



「足引っ張ってごめんね、桜都。

私の能力じゃ、実技で利用しにくくて…」



着替えながら世凪が松風に謝罪をする。

松風は今何が起きているのか分からないような顔をしている。



「なんで、謝ってるの…?みなっちゃん、作戦立ててくれたじゃん。私、嫌な顔してた??ごめんね…」


「えぇっ…困る…」



予想外の松風の返答に世凪は言葉が見つからなかった。



「いいじゃん、みなっちゃんの能力は日常生活でも実戦でも使えるんだし☆

私のなんか、無能力みたいなもんだよ??」



宮浜がフォローをしてくれる。でもそれはお世辞でもなんでもなく、本音だった。



「こはくの能力は尊敬されるでしょうが。

人を助けるため、守るために生まれてきたみたい。」 


「えへへ、嬉しい」



回復能力、結界術。人のために利用し、自分のためには使えない。怪我してからでないと価値を見出せない能力。そんな自分の能力を宮浜は嫌っている。

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