040 砕蜂、俺は好き

 ◆◇◆



「じゃあ、バイト行って来る」


「いってらっしゃい」


 風呂の中には、二人で2時間ぐらい滞在してしまった。現在、深夜の3時前。俺は、さくもとの同棲が終わる前に、どうしても知りたいことがあったのだ。


「よし……」


 俺は、さくもが家を出て30秒ほど待った。そして、そっと俺も外へと飛び出した。


 尾行する。さくものバイトが何なのか知りたかったのだ。俺は、さくもが体を売る仕事をしているのなら止めたかった。帯人町の外れには、ちょっとした風俗街がある。まさかとは思うが、俺は本気で疑っていた。


 まだ家を出たばかりなのだから確信には至らないが、家を出てすぐ風俗街方面には歩き出した。


 しかし、尾行とはスリルがあって楽しいな。俺は、多少ゲーム感覚だった。護廷十三隊二番隊隊長・砕蜂ソイフォンになった気分である。


 電柱に隠れ、ゴミ置場の隅に隠れ、駐車されてる車の後ろに隠れ、俺はまるでプロみたいな動きであった。さくもは、当然周囲を警戒している様子はない。


 俺は、勝利を確信する。


 しかし、風俗街の入口付近まで来た時だった。


「なっ!?」


 突如、背後から俺は口元を何者かの腕で押さえつけられた。


「夜道の一人歩きは危険だよ。私、忠告したじゃないか……。念の為、これから背後に気をつけるべきだって……」


 声と、手袋をはめた義手ですぐに分かった。バラバラ殺人専門不動産のオーナー、濃月さんだった。


「ぐっ……な、何の真似……だ……」


「え? 久しぶりに、少年の首をシュパッと逝きたくなってしまったんでね。これから君は死ぬんだから教えよう……。あの大量殺人の犯人は私です。嗚呼、こんなに興奮して来たのは久しぶりだ……」


 さくもをストーカーしていた俺も、ストーカーされていたのか。迂闊だった。まさかこんなことが……。このまま人気の無い所にでも連れていかれたら、命の危険だってある。


「君の頭部、実に数年ぶりのコレクションだ……」


 前を歩くさくもは、異変に気付かず歩き続ける。どうするんだ、俺……!


 ちょっと諦めかけた時だった。


「私のりんごに乱暴しないで……」


 濃月さんの背後に、さらに充子が立っていた。さくもをストーカーする俺をストーカーする濃月さんをストーカーしていた充子。


「りんごくんの部屋の監視カメラが壊れてたみたいだから、心配になって来ちゃった……」


「くそっ……! 騒ぎになったら不味い! いつか、私は君の頭部をこの手で切断する……!」


 濃月さんは、突然の充子の登場に動揺し、その場を去って行った。


「充子、すまん……」


「りんごくん、こんな時間に一体何してるの? さくもちゃんのこと気にしているみたいだけど」


「すまん……。さくも、何の仕事しているのか気になって……」


「へぇ、そうなんだ。どうやら風俗街に向かってるね。一緒に追跡してみましょ? やっぱりビッチだってことを暴いてやるの」


 今の騒ぎにも全く気付いた様子の無いさくもは、どんどん前へと歩いていた。


「早く、追い付こう! 見失ってしまう……!」


 俺と充子は、小走りで追跡を始めた。風俗街へと到着だ。

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