015 原初の破壊龍魚、俺はやっぱり厨二病

 放課後 ——


「りんご、今日、用事は?」


「ん? 無いけど……」


「とりあえず一泊お願いします。ストゼロ奢るから」


「足りねぇな」


「じゃあ、たばこも一箱……」


「はぁ……。仕方ねぇ」


 充子のこともあるし、本当は学校以外で関わりたくはなかった。だけど俺は、自分を犠牲にしてでも人を助けるタイプの人間みたいだ。結局、断れない。


「ありがとう、助かる。よし、じゃあ帰ろう」


 こうして今日は、再びさくもを家に泊めることになった。一応、周りには極力警戒する。充子に、二人でいる所は見られたくはない。


 見られるのが嫌だからと言って、二人がバラバラに帰るのも、逆にコソコソしている気がして、俺にはその選択肢は存在しない。そもそも浮気している訳でもないのだから、堂々としていいだろう。


 さくもと一緒に下校 ——


 なんか始業式の日と比べたら、校庭の桜も、道路沿いの桜も、全て花を落としてしまっている。緑の葉っぱがわしゃわしゃ生い茂始めた。桜の木に、毛虫のシーズンか? ツツジの花の方が元気だ。もう、春じゃない。


「さくも、お前さ、家探せば?」


「探してる。バイトの面接、昨日受かったからさ。お金稼いで、アパート借りる」


「へぇ……そうなんだ」


 意外だった。さくもと知り合ってまだ僅かだが、ずっと野宿でも生きていけるタイプだと認識していたからだ。それにしても、何のバイトだろうか。さくもが働く姿が想像つかない。


「そう言えば、今日はペットショップ行かなくていいのか?」


「いいよ、ほら」


 さくもは突然、バッグから虫かごを取り出した。俺に手渡してくる。


「あ、コイツ……」


 それは、一昨日買ったコーンスネークだった。昨日、プラスチックのケースから消えていたから、てっきりさくもが食べたと思っていた。全体的に薄い橙色の彼……いや、彼女かもしれないが、虫かごの中で舌をペロペロと出している。


「りんごが家で飼うって言うから、昨日、ペットショップで取り敢えず虫かごは準備した……。名前、どうしようか?」


「名前? そうだなぁ……原初のバハムート・イ破壊ビルシャーク龍魚・ドラグーンなんてどうだ?」


「は? 今、何て言った?」


原初のバハムート・イ破壊ビルシャーク龍魚・ドラグーンだ。俺の妄想から生まれた空想上の怪魚だ。カッコいいだろ?」


「アンタ、正気? 冗談は声だけにしてちょうだい」


 俺の感性そのものを否定されて普通に傷付いた。カッコいいと思うのだが。強そうな名前じゃないか。


「そうね……。色的に……きな粉か、オシッコであたしは悩んでいるんだけどね」


「お前も正気かよ」


「じゃあ、ノアって名前はどう? このヘビの名前。オサレじゃない?」


「シンプルでカッコいいな。由来は?」


「フランス語で胡桃くるみ。色も似てるし、頭の形も実に似てるかも」


「ほう……。もう、それで決定や」


 ヘビの名前なんかに拘りはないから実際どうでもいい。しかし、その内愛着でも湧くものなのだろうか?


 ヘビのトークでちょっとだけ盛り上がり、間も無く、我がレオパレス21に到着する。


 俺のベランダに、人影が見えた。


 間違いない、充子が侵入していた。

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