013 エロい保健室の先生、俺は好き

 俺は結局、男になれなかった。


 その翌日 ——


「おい、りんごぉ! 何、暗い顔してるんだよぉ〜! 酒飲もうぜ!」


 昼休み、俺は静かにコンビニで買ってきた玉子サンドを食べていたのだが、隣からストゼロを持ったさくもがアルコールの力で誘惑してくる。


 教室で飲酒とは、相変わらずなんて奴だ。


 昨夜 ——


 長いキスの後、充子は、一言も発することなく俺の家を出て行った。家を出て行く充子に対して、俺は止めようとも思わなかった。


 今朝、隣のクラスを覗いてみたら、充子の姿は無かった。


 どうやら今日は欠席のようだ。


「さくも、お前昨日はどうしたんだ?」


「昨日? 何のことだよぉー」


「どこで寝たのかって聞いているんだ」


「公園だよぉ! 公園でストゼロ飲みながら一夜を過ごすのは最高だったぜ! ヒャッホー」


 さくもなら、ストゼロさえあれば生きていけそうだ。俺は、玉子サンドを食べ終え、飲んでいた野菜ジュースも一気に飲み干した。ゴミをビニル袋にまとめて押し込み、その口を縛り、立ち上がる。そして、教室の入り口付近にあるゴミ箱にそれを押し込んだ。


 まだ昼休みは30分以上ある。


 あの人の所に行こう。


 俺は、教室の時計をチラッと見て保健室に向かうことにした。


「おーい、りんごぉ! あたしも行くぞぉ」


「ほ?」


 ストゼロを片手にさくもが千鳥足でついて来た。お前は来なくていいの。


「あたし一人で飲むのは面白くないじゃん! どこ行くのぉ?」


「保健室だよ」


「保健室?」


「ああ」


「体調悪いのぉ?」


「違う、誰かに愚痴言いてぇ気分なんだよ」


 俺は、酔っ払ったさくもを置いて行くつもりで早足で歩く。だけどさくもは、しぶとく後をついて来た。来なくていいんだよ、面倒臭くなるから。


 保健室は1階の片隅にある。


 この学校の保健室は特殊だ。いや、厳密に言えば、保健室の先生が特殊なのだ。階段を下り、大嫌いな職員室を華麗にスルーし、そして目的地へと到着。


 ノックもせずに扉を開けた。


「よぉ」


 彼……いや、彼女と言うべきか。そいつは今日も保健室にいる。


「あら有江くん、今日はどうしたんだい? おや、それに見ない顔だね。ストゼロなんか飲んじゃって随分マニアックじゃない」


 サラサラの髪、長い睫毛。純白の肌。体つきは細く、白衣姿がエロい彼女……。


亜房あぼう先生、ちょっと相談乗ってくれよ。面倒なことになったかも」


 彼女は、すべてを受け入れてくれる存在だ。どんな悩みや相談でも、一つも嫌な顔をせず聞いてくれる。俺は、だからこの保健室が大好きだ。


 いつもの様に丸椅子に座り、たばこに火を付けた。

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