第3話~山本航太朗
東の方角からうっすら空が金色になっているのを見て夜明けだと気がついた。
眠れない夜が明けた朝は決まってあの日の事がよみがえる。
それから和羽はふわりと飛びたった。
羽根のない彼女は、そのまま地球の重力によって地上へと吸い寄せられていった。
その日から何年経ったのか覚えていないほど、死んだように生きて来た。
僕達は幼なじみだった。
「お前なんか生まなきゃよかった」
僕はそう聞かされて育った。
死ぬはずだったのは僕の方だったんだ、だけど
あの夜、猫の爪みたいな三日月が東の空の低いところに姿を現していた。
抱きしめた和羽の肩越しに見た月は、涙で
和羽は心療内科に通っていていつも悲しい目をしていた。
僕が抱きしめても休まらない程に心が闇に覆われてしまっていた。
和羽の心を救えなかったんだ。
和羽の死から、せっかく苦労して入った大学にも通わず、ほとんど部屋にこもっていた。
その頃の僕はじいちゃんの家に住んでいた。
まさに引きこもり状態だった僕をじいちゃんは1度も叱らなかった。
そんなある日の朝、体調が悪いといったじいちゃんは救急車で運ばれた。
じいちゃんまで僕を残して逝ってしまうのかと思うと不安で苦しかった。
「かなり進行しています、膵臓のガンからリンパ節へ転移してもう手の施し用はありません、余命は長くて半年だと思われます、あわせたい人がいるなら今のうちに会わせてあげてください」
医師の言葉に返事も出来ないくらいに震える身体を僕はどうすることも出来なかった。
じいちゃんの娘でもある僕の母親は僕が中学生の頃に家を出てしまい、何処に住んでいるかさえ知らないし、会わせたい気持ちすらなかった、そして何より僕自身が最も会いたくなかった。
どこから聞いたのか葬儀には参列したけれど、一言も話さなかった。
もちろん母親だって幸せな頃は優しかったし、僕も幸せだった、でも父親が若い女と逃げてからの日々は最悪だった。
憎むべきなのは父親だったのだろうが、母親に否定されたのは一番辛かったし憎しみさえあった。
そんな時に和羽はいつも寄り添ってくれていた。
僕達は捨てられた子犬のようにいつも一緒にいた。
そしてずっと傍にいて欲しかった。
じいちゃんは死ぬ前に僕に言った
「あの店は死んだばあちゃんの為に作ったようなもんだ、そろそろ店を閉める時だったんだろう、あの土地はそこそこ良い値で売れるだろうし航太朗の好きにしていい」
生きていて欲しいとの願いは叶わず、じいちゃんは僕を残して知らない国へと旅立った。
でも僕はこの
売り上げなんて少なくて贅沢なんて出来ないけれど、じいちゃんの残した家とこの店で何とか生きる事は出来た。
そんなある日に彼女は店に訪れた。
寂しげな横顔はあの日の和羽を見ているようだと思った。
生きることに何の執着もない儚さを彼女の瞳から感じていた。
あの日の和羽のように。
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