第一章 6話 魔王様は小さいのに積極的

後頭部に痛みがあり、天井をいつのまにか見上げていた。


「え・・・?」


上方の右側を見ると、母ターグリフがなんとも言えないような笑顔を向けてこちらを見ていた。


「お母さん、何があったの?」


「えーと・・・あなたのお腹の上に、魔王がいるのよ。」


そう言われた僕はお腹の方を見たところ、僕の胸に顔を埋めている、小さめの幼女がいた。

しかも、その幼女は何やら僕自身の懐で、何かを小声で言っている。


「・・・のじゃ・・・のじゃ」


(のじゃ幼女魔王かよ!)


なんて思っていると、母から


「魔王は産まれてから5年経つまでは「のじゃ」しか言えないのよ。」


「え!!「のじゃ」しか言ってるのが聞こえないと思ったら、「のじゃ」しか言えないの!?」


それは、「のじゃ」しか聞こえない訳だ!


「でも、それだと「のじゃ」しか言えないのなら思念で会話できない相手ばかりだったら「のじゃ」だけで意思疎通しなくちゃいけないじゃん。そんなの無理じゃないの?」


「そう思うのも無理ないわね〜

ただ、思念での伝達は短距離であれば魔王の両親と魔王四天王だけは出来るから、それはなんとかなるのよ。

今までに周りに四天王や前魔王がいなくて思念伝達が出来なかった場合もないしね〜

ちなみに、魔王の兄弟も5年経つまではのじゃしか言えないから、兄妹同士の会話は「のじゃ」のみで繰り広げられるのよ〜兄弟同士で思念伝達は出来ないからね〜

だけど、「のじゃ」という言葉に感情は乗るから、慣れてくるとなんとなく、「のじゃ」の意味もわかってくるようになるわよ〜」


僕は3人の小さい子供達が「のじゃのじゃ」言いながら会話しているのを想像すると、思わずにやけてしまった。


「何それ可愛すぎる!てか、さっき玉座に座っていた時に僕はほとんど聞き取れなかったけど、大きな声で「のじゃのじゃ」言ってたのか!ほんとかわいいな魔王様」


(でも、「のじゃ」だけしか会話できないとか、なんとなく嫌だな)


僕は何を言おうとしても「のじゃ」しか言えない僕自身を想像した。

なんとなく、悲しい気持ちになったので、


「ほんと、お母さんとお父さんの子供でよかったよ!」


と、しみじみ感じていると、お腹の上で「のじゃのじゃ」言っている魔王様は純粋無垢な目でこちらを凝視していた。


そして、その後、魔王は母ターグリフを見ると、母から


「今、魔王が「ターグリフの息子を将来の四天王候補として認める!」と言ってきたわ。

まぁ、私は前魔王からの引き継ぎとして四天王を受けているのだけど、やはり現役の四天王は次世代のエースたちが引き継ぐのが定石となっているから、正直よかったと思ってるのよ〜」


「え!?僕が四天王!?

僕、全然まだ産まれたばかりで、てか、まだ2ヶ月なんだけど!

そもそも四天王するほど強くなるかわからないよ!」


「大丈夫よ、ターダノ。

あなたの父、ダノンゾルデは実は魔族随一を誇る強さを持っていて、あなたのお父さんが産まれてから、あなたと同じく2ヶ月経った頃に前魔王から四天王候補に上がったのよ!ちなみにその時も前魔王は、「のじゃのじゃ」言っていたわ〜

まぁ、それはいいとして、あなたのお父さんは努力は怠らなかったこともあり、無事十歳になる頃には、前魔王から四天王の認定を受け、今では四天王なのに前魔王を超えるのではないかと言われるほどに強い力を身につけていたの。

だから、ターダノが四天王になれるのかと言われれば絶対なれるとは言えないわ!

だけど、あなたは私の息子であり、お父さんの息子でもあるの。魔王の四天王になれると信じてるわ!!」


そう言われたら、なんとなく四天王に慣れる気がしてきた。

僕のお母さんは、言葉にその気にさせるような、そんな特殊能力を付与できるんじゃないかと思わせるくらいに、私自身をやる気にさせた。


「それじゃあ、お母さん、魔王様、僕、魔王四天王になれるように出来るだけ頑張ってみるよ!」


「さすが私の息子ね!まだ産まれて2ヶ月とは思えないわ!応援するわね!」


(僕、そういえばまだ産まれて2ヶ月だった)


「のじゃのじゃ」


そう言うと、小さな魔王は僕のお腹の上から起き上がり、僕に小さな手を差し出した。

僕はその小さな手を握り、


「これからよろしくお願いします。魔王アンジェリア様」


「のじゃ〜」


この時、魔王アンジェリアと魔王四天王候補ターダノの契約がされたのであった。


ただ、その光景を見ている母ターグリフは、小さい子供同士が手を取り合っていると言う、なんとも可愛らしい状況を目に焼き付け、微笑んでいるのであった。

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