第19話 崩れゆく日常②

 先生の1言に教室は喧騒に包まれた。


「赤坂がやったのか!最低…」

「女子の体操着盗るとかないわー」

「変態じゃん」

「死ねばいいのに」

「おいおい赤坂、気持ちはわかるがやってはいいことといけないことがあるんだぞ」


 全て俺を非難する声ばかりだ。


「赤坂、タレ込みもあるんだ。正直に言ったらどうだ」

「俺は…やってません」


 実際にやってないんだからこうとしか言えない。


「いいか、赤坂。お前がやったことはもう見てるやつがいるんだ。だから、な?」

「なんと言われようと、やってないものはやってません」

「赤坂!先生はお前の将来を思っていっているんだ!今ここで誤魔化してどうなる!大人になって同じことをしたら泥棒として刑務所行きで人生台無しなんだぞ!」

「そんなことは知ってます。俺はやってません。なんならカバンやロッカー、見てみますか?」


 俺の心の中で何かが壊れていくような音がする。そして、この流れは美咲の時と同じだ…美咲のときはカバンの中に入っていたが、今回に限ってそれはない。

 俺は黙って先生にカバンを渡す。


「ふむ…カバンの中には入ってないみたいだな。机の中とロッカーも見せてくれ」

「はい、どうぞ」


 先生は俺の机の中とロッカーを見る。もちろん加藤さんの体操着を始め、盗難されたものは1つも出てこない。


「赤坂、どこかに隠したんじゃないのか?」

「俺はそんなことしてませんよ。そもそも何のために?」

「ふむ…加藤、お前の体操着がなくなったのはいつだ?」

「3限の物理が始まるまではありました…!移動教室だったんですけど、戻ってきたときにはもう…」

「タレ込みと一致するんだよ。赤坂。それにお前、物理の時間遅刻したらしいな?」

「あれはトイレ行ってただけです」


 本当に腹が痛くてトイレに駆け込んだのだ。仕方ない。


「やっぱ赤坂しかいないじゃねえか!」

「赤坂…人としてどうかと思うわ…」


 結局、このLHRの時間はやったやってないの押し問答で終わってしまった。


「いいか赤坂、みんなの前で言いにくいとか、心の準備が必要とかあるかもしれないが、早いうちに認めたほうが心も楽になるからな。先生は職員室でいつでも待っているから心を決めたら来い。以上だ」


 こうしてLHRが終わり昼休みになったが教室内では俺の話しでもちきりだった。


「まさか赤坂がそんな奴だったなんて…」

「赤坂…僕は見損なったよ…!」

「赤坂がやるようには見えねーのにな。人って分かんないもんだな」


 みんな俺を疑っているようだ。すると俺の席に松田がやってきた。


「おい航平」

「松田…」

「もう一回カバン、見せてくれね?」

「いいけど?」


 松田は俺のカバンを漁る。そして黒色の財布を取り出すと


「…これ、俺の財布なんだわ」

「は…」

「…俺、お前を信用できねえわ。体育大会の日の吉崎さんのことは、バスケ組に任せろ、お前はいい」


 待て…俺はお前の財布なんて盗ってない…


「え!?赤坂君!松田君の財布も盗ってたの!?もしかして他のものも…」


 斎藤さんが言い出したをきっかけに、教室が一段と騒がしくなる。

 俺の中で、何かが壊れた。


「そうかよ。もういいわ」


 俺は弁当を持って1人屋上へ向かった。全て、自分の手で解決してやる。ただそれだけを思って。




 その日から俺はクラスで孤立した。体育大会の練習もハブられた。そりゃあ、泥棒と一緒にバスケなんかやりたくねえわな。俺もすぐに帰ることにしている。体育大会?知ったこっちゃない。


(こんなこと、もう慣れてる。凛の時も、美咲の時も…)


 そう思いながら俺は放課後、校長室を訪ねていた。


「すいません…失礼します」


 その声に応じてくれたのは、その日俺とトイレで会った校長先生だった。


「どうしたのかな?ん?君は確か…?」

「はい、一つ、先生にお願いがあります」


 俺は校長先生にこれまでの経緯を話した。


「そう言うことならわかったよ。力になろう」

「ありがとうございます」


 さて、後は松田だけだ。


「おい松田」


 教室に戻ると、俺は松田に話しかける。


「なんだよ航平。お前には…

「お前の財布、なくなったのいつだよ」

「5日前だよ。それが?」

「もし俺が盗ったとして、なんで5日間も財布をカバンに入れっぱなしにする?それに、お前あの日言ってたよな?金ないって」

「…確かに言ったな。昼飯買えないから金貸してくれって…あれ?お前が盗る理由なくね?」

「そうだよ。ったく、あと職員室来い。頼みがある」

「?あ、ああ。いいぜ。疑って悪かったな」


 俺は松田を連れて職員室へ向かう。あと松田、お前俺から借りた金、早く返せ?


「失礼します」


 俺は職員室に入る。


「おお!赤坂か!やっと言う決心がついたのか!うん?松田?お前はどうした?」

「あー、航平の付き添いっす」

「そうか。赤坂、お前はいい友達を持ったな。さあ、あっちで話しを聞くから、松田、ありがとうな」


 勝手に話しを進める先生。もうこいつは俺が犯人だと決めつけているようだ。


「先生、何度も言いますが俺はやってません。その証拠をお見せします」

「なに?どう言うことだ?」


 俺は2限後の休み時間、物理教室の手前のトイレまでずっと松田と一緒に過ごしていたことを伝えた。


「なに?松田、それは本当か?」

「はい、航平とずっと話してましたから」

「そうか…だが松田と別れてトイレから出てからはどうだ?」

「それは私が話そう」


 そう言って割り込んできたのは校長先生だった。


「校長…!?どういうことです?」

「私は彼がトイレから出てきたところとすれ違っていてね。確かチャイムが鳴り終わる時だったかなあ。遅刻するよと声かけた記憶があるんだよ」

「それで、俺が物理教室に入ったのは10時31分くらいです。それは松本先生に聞けばわかります」


 松本先生とは物理の先生だ。慌てて担任は松本先生のところに行く。担任の名前?忘れた。


「あ、赤坂…お前、本当に盗ってないのか…」

「だから初めからそう言ってるじゃないですか」


担任は青ざめた顔をしながら、俺に頭を下げてきた。


「赤坂!本当にすまなかった!勝手にお前がやったと決めつけてしまい、悪かった!」


 それに対し、俺の答えは…


「もちろん、許すわけないだろ」


 そう鼻で笑いながら告げるのだった。

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