第27話 堂々と初デート

 バスの中で堂々と人目を気にせず二人で座り話し込んでいると、あっという間に駅へ着いてしまった。


――まだちょっと離れがたい。


「あの、やっぱりどっかでもう少し話したいな」


 別に折り入って話があるわけではないが、この気持ちのままもう少し一緒にいたい。


「何だ。図書室でも行けばよかったかな。じゃあ、コーヒーショップでも寄っていく?」

「おう、いいね!」


 結局、二人は堂々とデートすることになった。

 コウはコーヒーを、真由はカフェオレを注文した。ストレートのコーヒーは、コウには少し強過ぎる。本当はストレートは苦手なのだが、無理をして飲んでみることにした。大人ぶってみたかったのだ。ただしミルクはたっぷり入れたが……。


「もう見られてもいい」

「気分いいわね。今まで秘密にしていたのが嘘みたい。でも今日一日大変だったね。コウの事が心配だったよ」

「何とか耐えられた。明日からはもう大丈夫そうだ」


 それでも、かなりあたふたと質問に答える羽目になってしまった。


 ガラス張りの店内からは外がよく見える。道行く人の姿を見ても、これからは平然としていられるのだ。

 外を眺めながら飲み物をすすっていると、一番見られたくない人が歩いていた。


「あ、姉貴!」


――やっぱり姉貴には知られたくない。


 下を向きやり過ごそうとしたのだが、じっとこちらを向き、にたーっと笑い、すました顔で通り過ぎていった。


「ばれたか……」

「お姉さんが苦手なのね……」


「家へ帰ってから、からかわれる」

「しょうがないわね、ウフフ……」


 矢張りこういう時は、真由の方が肝が据わっている。今まで俺に気を遣っていただけなんだ。

 真由はミルクをたっぷり入れたコウのコーヒーを見ていった。


「そんなにミルクたっぷり入れるんだったら、カフェオレにすればいいのに」

「カフェオレは、値段が高いからこっちにしたんだ」

「そういえば三十円ぐらい高いわね。節約ってことね……」


 苦身がマイルドになったコーヒーをごくごく飲んでからコウがいった。


「そうだ、今日は記念に何かプレゼントする」

「プレゼント? 誕生日でもないのに……お金は……」


「いいから、心配しないで」

「だっていま節約してるって……」


「それとこれとは別なの」

「全くもう」


「じゃあ、何がいいかな……帰りにお店に寄って行こうよ」


 コウも今思いついたことなので、何がいいかは考えていなかった。お金も実はそれほど高価なものでなければ買えるぐらいは持っている。駅ビルの中には、女子が好みそうな小物の店がたくさん入っていたはずだ。姉が小物を買ってきた時に、聞いたことがある。真由はぬいぐるみはいろいろ持っていそうだし、キーホルダーは気に入ったのを付けているし、靴下じゃあ生活感ありすぎだ。


――アクセサリーがいいかな。いつも身に着けていてくれるように。


 コーヒーショップを出て、ビルの中を歩いていると、アクセサリーの店が目に留まった。


「ここでちょっと見て行こうか?」

「いいの?」

「気に入ったのがあるといいけど……」


 店先には、イヤリング、ペンダント、髪飾りなどが掛けられていて、キラキラと光を放っている。


 真由はペンダントをいくつか眺めてから、そのうちの一つを手に取った。


「これ、可愛いね。この前見たペンギンがついてるよ。二人の思い出にこれにする」


 レッサーパンダはなかったんだな。


「へえ、いいね」


 ちらりと値札を見てみた。これなら買えそうだ。


「ちょっとつけてみるね」


 ペンギンが真由の首筋で銀色の光を放って揺れていた。


「似合ってる。じゃあ、これ買ってくる」


 コウは、真由の首元からそれを外し、店員に渡して、お金を払った。


「これはプレゼント!」

「素敵! 大事にするね」


 これからは俺のプレゼントしたペンギンが首元で揺れることになるんだ。と思うと、会うのが楽しみになる。


――なんだかスキップしたくなる。改札口まで送るのも名残惜しい。


 できるだけのんびり歩くが時間が止まっているわけではないので、ちょっとゆっくり移動しただけであっという間に着いてしまった。


「じゃあ、またね!」

「また明日!」


――いい言葉だな、また明日って。


 コウは真由の姿が見えなくなるまで改札口で見送った。


 家へ帰ると、姉が先に帰っていた。コウが戻ってきた気配を感じたのか部屋へ入って来た。


「コウ、やっぱりあの子と付き合ってるんだ! 隠しちゃって可愛い!」

「ばれたか……」


「やるじゃない。告白して、それっきりだと思ってたんだけど、内緒で付き合ってたなんてやるねえ。随分成長したもんだわ。感心しちゃう」

「あまり知られたくなかったんだけど……しょうがなかったんだ」


「まあ、いろいろ事情があるんでしょうけど。頑張ってね!」

「頑張れって言ったって……」


「あんなに素敵な女の子だから、他の男子に取られないようにってことよ」


 やっぱり姉貴も俺と同じ心配をしているんだ。


「これからは姉貴の恋愛指南に従うよ。彼女のハートをどうやったらつなぎ留めておくことができるのか。これからは、それが俺の最大の課題だ」

「あたしの意見で役に立つんだったら、何でも訊いて!」


 姉は得意になっている。


「よろしくな!」


 コウは、もう隠し立てせずに全面的に姉の協力を仰ぐことにした。

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