第15話 カモフラージュ

 ここは二人で秘密のデートをするのにいい場所だ。これからも使えそうだ。二人はフライドポテトをつまみながら、お喋りに花を咲かせた。


「そろそろ帰ろうかな」


 始めに真由が言い出した。真由の家は、駅から電車に乗り数駅行ったところにある。コウの方は駅から徒歩で十五分ほどのところだ。


「じゃあ、改札口まで送る」

「すぐそこだけどね」


 リュックを持ち、椅子から立ち上がった。そこには、買い物途中で休憩する人が二~三人いただけで、高校生の二人を気に掛ける人はいなかった。リュックを背負い立ち上がった時に、着いているマスコットがゆらりと揺れた。それにコウはそっと手で触れてみた。


「これ、気になってるの?」

「うん、可愛いよね。俺も気に入ってる、ずっと前から」

「面白い人ね、コウは」


 俺の反応に呆れているのだろうか。こいつの仲間になれたような気がしている。改札まではすぐだ。通路を抜け、買い物客や通勤客などの間を抜け、改札口の前へ出た。そのまま真由は改札の奥へ吸い込まれるようにして歩いて行った。ちょっと後ろを振り向き、別れ際に笑顔を見せ手を振った。


「じゃあ」

「じゃあ、また!」


 殆ど声は聞こえなくなったが、口の動きでわかる。こういうシーンが、映画やドラマではよくある。自分がその主人公になったような気がして時めいた。そしてその後の展開は……二人は急接近する。コウは、うきうきしながら真由の後姿を見送った。


――やったー!


 初デートは、まあまあの滑り出しだった。これからもっと自分の魅力をアピールしていこう。待てよ、俺の魅力って何だろう。世の中半分は男だ。その中から自分一人が選ばれるための条件とは何だろう。ルックス、運動神経、頭脳、会話のセンス、押しの強さ、ユーモアのセンスなどなど、女性はどういう人に引かれるのだろうか。いやいや、女性一般ではなく、真由はどういう人が好みなのだろうか。今まではこんなことを考えたこともなかったが、いざ身近な人になってみると、大問題だ。芸能人ではないんだから、ダンスがうまくて歌って踊れてドラマに出ても様になるような男。それは、現実にはそういるものではない。服装の好みはどうだろうか。考えてみれば、リサーチしなければならないことだらけだ。この状況を悦び、一人で舞い上がっていてはだめだ。


 コウは、真由が家に着いた頃電話した。


「今日は楽しかった」

「私も。あの場所、お喋りするのにちょうどよかったね」

「そうだね。テーブルもあったから、食べられたし」

「いいところを見つけてくれたね。下調べしといてくれたんだね。ありがと」


 特に調べておいたわけではなかったが、褒められて悪い気はしない。


「今何してたの?」

「家に帰って、着替えて部屋でのんびりしてたところ。もうそろそろ夕ご飯かな」

「ああ、そうか。じゃあ、また明日」

「うん。バイバイ」


 こんな会話でよかったのだろうか。帰ってからすぐ電話するなんてしつこいやつだと思われてしまっただろうか。気になる。コウは、思い切って姉に訊いてみた。


「姉貴、俺ってかっこいいと思う?」

「何言ってるの、突然。ああ、女の子に好かれるかどうかってこと。あの子とうまくいってるの?」

「それはどうでもいいだろ。俺って客観的に見てどうかなと思って……」

「そうねえ」


 姉はじろじろ頭のてっぺんから足の先までを見て答えた。


「ルックスは……まあ、普通ね。頭脳もそれほどでもないし、運動神経もあまりよくはない。いい所というと、のんびりしてて、疲れないところ?」

「ああ、もういいよ。自分で考える!」

「まあ、まあ、怒らないで!」


 ああ、これではいつか真由に飽きられてしまう。付き合えば付き合ったで長続きさせるのは大変なんだ。一人悩み続けるコウだった。


 翌朝バス停で列に並んで待っていると、真由がやってきた。コウの数人後ろに真由が並ぶことになった。朝バスの列に並んでいるのは、仕事に行く人や高校生が多い。

同じ学校の生徒も数人列の中に混じっていた。二人で約束した、付き合うのは秘密という言葉を思い出した。コウは列の前の方だったので、座席に座ることができた。二人席の窓側に座っていると、真由が乗り込んできた。しかし、彼女は知らん顔をして離れた一人席に座った。ちょっぴり寂しかったが、これでいい。同じ学校の生徒たちは、二人の成り行きを面白そうに見ていて、一緒に座るわけにはいかない。コウの隣には、社会人の男性が座った。これからも気を引き締めて行こう、と心に誓った。

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