第43話 アリバイ確認


 悲鳴の聞こえた場所には人だかりが出来ていてた。

 わたしはクルミさんにお願いして強引に中に入れてもらった。


「アスト、どうしたの!?」


 アストは擦り傷などの軽い怪我をしていた。

 部屋の様子を見る限り、ここで誰かが暴れたみたい。


「ああ、いきなり黒いローブを被った人が現れてな。彼女たちを殺そうとしたんだ。一応魔王様の加護があったお陰で全員守れたが、また来ると思うぞ」


 アストに守ってもらうお父様の妻たちがちょっと羨ましく感じた。

 わたしは車イスから立ち上がってアストの腕にしがみついて少し頬っぺを膨らませた。


「大丈夫よ。私たちの中には魔王様以外を好きになる人なんて居ないからね」


 お父様の妻の1人がわたしの嫉妬に気づいたらしく、わたしの頭を撫でながら言ってきた。

 アストはニヤニヤとしていて、辺りの空気がほんわかな雰囲気になり始めた頃のことだった。


「フェリナスちゃん! 何があったの!?」


 今さらこの部屋に来たのか状況を全く把握してなかったエリー。彼女は今までどこで何をしていたのか。

 けどエリーが来たお陰でわたしたちは本来の目的を思い出した。


「そういえば襲われたんだっけ?」

「ああ、すっかり忘れてたな」


 とにかく状況確認をするため、わたしたちはお父様の妻さんを襲った相手の人物像を捉えるために部屋に残された痕跡などを調べ始めた。


「フェノンは座ってろ」


 わたしはアストに抱き上げられて車イスに座らされた。

 そしてアストが頭を撫でてるとお父様がやってきた。


「アストくん、相手はどんなヤツだった」

「黒いローブと仮面をしてたので分かりませんけど、相当強かったです。それと身長は大体あそこの棚と同じぐらいでした」


 アストが指さした棚はお父様より少し低いぐらいの高さ。およそ170cm前後ということになる。


「普通に考えれば男だな……」


 この世界の女性の身長は男性に比べてかなり低い。1番高くて165cmあるかどうかというぐらいの身長らしい。よってこの身長から考えるに犯人は男性、もしくは厚底ブーツ等で少し身長を盛った女性ということになる。


「よし、アリバイを聞くか。フェノンも手伝え」


 わたしとお父様はこの王城にいる人全員にアリバイを聞いた。殆どの人が部屋で荷物を整理してたので、だいぶ人数が絞れた。

 その時にアリバイが無かったのはクルミさんやエリーを含めて10人。オマケに殆ど女性で男子は身長がまだ小さい1年生の生徒だった。

 どうやらまだ3人に絞ることは出来ないようだ。


「この中に犯人が居るの?」

「ああ、王城には結界があって、いつ誰が外に出たとか中に入ったとか、中には何人いるかというのが分かるようになってるからな」


 この10人の中に犯人がいる。……あれ? タテロールもいるの?


「タテロールは何でアリバイ無かったの?」

「エリーさんを外に追い出したからですわ。どうして貴族のわたくしと平民が同じ部屋でなければならないのですか!? そもそも平民というのは……」


 もしタテロールがアストみたいに覚醒したらどうなるのか? それだけが気になって話が全く入ってこなかった。


「おいフェノン。聞いてたか?」

「おとうさま? わたし何も話が入ってこなかったんだけど」

「そ、そうか……よし、タテロールは無罪だな」


 お父様、絶対話を聞いてなかったね。

 そのあと後ろからぞろぞろと現れたたくさんの妻たちに「判断が早すぎるのよ」と叩かれてた。

 それで今度は部屋を追い出されたエリーのお話。


「私はタテロールちゃんに追い出されて屋敷を彷徨いて……」


 全ての事情聴取を終え、わたしはアストの元に戻った。

 事情聴取をした人たちはよくわからないので全員部屋で軟禁という形にしたけど、一応外からは開けられるようになっている。

 タテロールは五月蝿うるさそうだったので地下牢にぶちこんだ。

 アストの妹とはいえ、その性格は直す必要があるので少し強引な手を使わせてもらった。


「アスト何かあった?」

「フェノンか。今のところはこんな感じだな」


 アストは書類に纏めてたらしくその書類をわたしに見せてきたので、わたしは書類を受け取った。

 その書類の字はとても女の子らしい文字でリアがこんな文字を書けるわけがないし、お父様の妻さんたちに書かせるわけにもいかないからこれは近くにいたメイドさんが書いたものだろう。


「なるほどね……」


 この部屋全体に魔法の痕跡アリ。部屋中には糸のようなモノが張り巡らされていた痕跡があった。

 そしてお父様の妻さんたちの話だと相手は


「身長を分かりにくくするための工作かな? それに全体的に魔法を使ってたなら錯覚を利用した可能性もある……」


 ということは犯人は状況証拠から出てくる犯人像の真逆の人物?


「つまり、身長が小さく、普段は力を隠していてそんなに強くないように見せかけることが出来た人物で、女性……? それでアストと対等に渡りあえる人物となると、そういう剣術を学ぶことができる貴族が怪しい……」

「おい、この条件だとお前が犯人になるぞ」


 リアの指摘が入ってみんなが一斉にわたしを見てきた。

 少し慌てたけど、悲鳴が聞こえるまではリアと一緒に居たことを言うとみんな納得してくれた。

 余計なことをしたリアには後でお仕置きが必要みたい。


「そういえばわたし貴族じゃないよ?」

「……は?」


 わたしの屋敷を知っているリアが呆けた声を出した。

 わたしは今さら? みたいな感じでリアに説明する。


「おかあさまが冒険者で本物のおとうさまや偽物のおとうさまとの関係は内密なんだよ? それにおかあさまも普通に税金払ってるからわたしは平民だよ?」

「そうだったのか。てっきり公爵令嬢かと思ってたぞ……」

「公爵令嬢はあんな辺境な地には居ないよ……」


 アストのところが子爵家で領主なのにそれ以上の貴族が居るわけないじゃん。

 とりあえずわたしたちは解散として部屋に戻ったのだった。

 部屋に戻るなりすぐにお父様が部家に入ってきた。


「二人とも、少しいいか?」

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